最終話 ど、どうしよう…この結末…。
『それじゃ、お邪魔してごめんね。私達帰るから』
『…本当にごめんなさい』
そう言葉を残して二人は部室から出て行った。
栗原さんは自主的に部活を退部したけど、その後も私達は同じ学校の生徒としてきっと仲良く接する事だろう。
『じゃ、俺達も帰るか』
『そうだね。解決した事だしね』
跡部と亜美は立ち上がった。
『悪かったね、急に呼んだりして』
『お前達のテニスも見れたし、文句はねぇよ』
跡部は精市とそんな会話を交わして、樺地を連れて部室から出ていく。
『さて、私達も行きますかっ!』
「…ッ、亜美…!」
私は咄嗟に亜美の服を掴んで、彼女を引き留めた。
亜美はニコッと笑って
『優衣子、お礼はナシだよ?私達、借りを返しに来ただけだから』
優しくそう言った。
私の手からスルッと亜美の服が離れると、亜美は軽く手を振って部室を後にした。
みんなが帰って、残されたのはいつもの立海メンバーとなった。
『それにしても…部活に来るなって、行ったのにね?』
「…ごめん…」
『優衣子、俺が謹慎って言ったのは、こうなる事を避けたかったからなんだ』
「…え?」
『まぁ、優衣子は違う意味に取ったかもしれないけど』
…
ごめんなさい、その通りです。
あの時、先のことまで考えられなかったの。
精市は何処までも私を理解してるんだね。
何だか、冷静さに欠けてた私が恥ずかしい…。
『つーか、氷帝の奴等呼ぶなんて俺聞いて無かったぜ!?』
『俺もッスよ!何のドッキリッスか!?』
ブン太と赤也は力一杯精市に抗議する。
『あぁ、ごめん。急に呼んだんだ。作戦変更って…言ってなかったっけ?』
『『
行ってねぇ(ッス)よ!!』』
二人の抗議も虚しく、精市の"言ってなかったっけ?"という言葉で片付けられる。
『ところで…ジャッカルには誰が伝えたんだ?』
『………あ』
蓮二が問いかけると、赤也が青ざめた顔をする。
『俺…
忘れてたッス…!』
そんな赤也の言葉に蓮二は深く溜め息をつく。
『ジャッカルに失言が多いと思ったんだが…やはりお前が原因か、赤也』
『スンマセン…』
『…ちょっと、待てよ…。
お前等知ってたのかよ!?』
ジャッカルが焦った表情で、会話に入ってきた。
…ジャッカル…、
ちょっと待って欲しいのは私の方。
君がこの計画を知らなかったって事は…
「もしかして…、
ジャッカルは本気で私を疑ってたって事?」
『…えっ、いやっ、ち…違っ…!』
「私のこと…信じて無かったんだ?」
『ち、違う…!おい、ちょっ、ひっ…酷いぜ、みんなっ…!!』
なんて…ジャッカルを虐めてみたけど…、私も人のこと言えないか。
一瞬でも…みんなの事疑ったんだから。
『俺は、だな…場の空気を呼んで、だな…』
「…フッ」
焦って必死で弁解しているジャッカルが何だか可笑しかった。
私が笑みを漏らすとジャッカルはキョトンとした顔をする。
「嘘だよ、別にジャッカルの事責めたりしないから」
そう言ってあげると、ジャッカルは本当に安心したような顔をして溜め息をつく。
"寿命が五年縮んだ"と、苦笑してそう言った。
『知らないっていうのは、怖い事やのう』
『…楽しんでますよね、仁王くん』
『仁王…人事だと思って…!』
『俺は最初から信じたぜよ?優衣子の事、
愛してるけぇ』
『……………』
「………………」
『…………………』
「…ちょ、
ちょっと待て!…今、なんて…?」
まさかまさかの聞き間違い、だよね?
仁王が…私の事を、愛してるって…!
普通に考えてあり得ないでしょ!
『その顔は嘘だと思っとるじゃろ?いくら俺が詐欺師でも、こんな時に嘘は吐かんよ』
「そっ…そんな、い、いいいきなりっ…!!」
普段仲間以上の関係は無いと思っていた仁王にいきなりそう言われ、焦る私。
ど、どうしよう…この結末…。
『待てぃ!…仁王、テメェ
言ったもん勝ちだなんて思うなよ!』
『何じゃ、丸井。何か問題でもあるんかの?』
『ふざけんなよ!俺なんて小学校の頃から優衣子が好きだったんだよ!テメェに渡して堪るか!!』
「………え?」
この状況で何言ってんの、ブン太!
雰囲気に呑まれて適当な事言い出さないでよ!
『ちょっと、先輩達。ズルいッスよ!裏切りはナシだって言ったじゃないッスか!!』
『うっせぇ赤也!ヒヨッ子のお前にはそうゆう話はまだ早ぇんだよ!』
『ヒヨッ子って…ひとつしか変わんないっしょ!優衣子先輩を好きだって言う気持ちに、
年の差は関係無いッス!!』
「………はい?」
ほ、本気で言ってるの?この人達…。
『優衣子、此処は騒がしい。外へ出るか』
「…そうだね…」
蓮二に誘導されて、私は部室を出ようとする。
『待ちんしゃい』
しかしそれは仁王の一言に寄って妨げられた。
お願い、これ以上私を混乱させないで。
心の底からそう願った。
けど、その願いは叶えられなかった。
『参謀、俺は知っとるぜよ?参謀も優衣子のことが好きなんじゃろ?』
「…はっ、いや!う、うう…嘘だ。
それは嘘だよ…!」
蓮二だけは私にそんな感情を抱くことは無いと思ってた。
いや、そう思いたかった。
出来ればずっとそう思っていたかった。
しかし神様はまたしても私の願いを叶えてはくれなかった。
『…そうだ』
「
ちょぉぉおおおお!!」
『真田副部長だって、幸村部長だって…優衣子先輩の事好きなんでしょ!?』
『……な、
何を言っとるか…ッ!』
そこもっと思いっきり否定してよ、真田!
そんな顔で否定したって説得力無いよっ!
もう…
本当に私はどうすれば良いの?
『……まぁ』
精市がゆっくり口を開く。
怖い、
君が一番突拍子も無い事を言いそうで怖い。
やめて…その口を閉じて!
私は耳を塞ぐ準備をして、精市の顔をじっと見た。
『…優衣子の事が嫌いだったら、
氷帝に行ってまで助けて無いよね』
「…えっ…」
『だから、みんなも俺も…優衣子の事を好きって言うのは、当たり前だと思うけど?』
ちょ…好き…って…仲間として、って意味?
私、一人で勘違いしてたって事?
…うわ、恥ずかしい…!
『さて、帰ろうか。柳生、ジャッカル、優衣子』
「あっ、うん…!」
『…俺かよ』
『では皆さん、お先に失礼します』
私達四人は部室から去った。
でも…何でこのメンバー…――?
『幸村の奴、何が何でも優衣子にバラさん気やのう』
『つーことはやっぱり部長も…?』
『何も発言していないジャッカルと柳生を連れて行った所を見れば、その確立は極めて高い』
『幸村くん、俺達と一緒に居るのも嫌って事かよ』
『…俺は何も発言していないが……』
その後部室でこんな会話が繰り広げられていた事を、私は知らない…。
-END-
- 66 -
*前次#
ページ: