第8話 それなりの罰を受けんとアカン。


<忍足side>


愛理はほんまに可哀想な奴や。

おとなしい性格やから虐められるんやな…。

俺達が…俺が…守ってやらなアカンのや。



「…愛理…、どうしたんや?それ…」



愛理の手にはまたアザが出来ていた。

どうしたんや?なんて、聞くまでもないやんな。

アイツが…姫島優衣子がやったに違いないんや。



『あ…侑士…。何でも、ないの…』

「何でもないことあらへんやろ?姫島にやられたんか?」

『違うよ…』

「嘘付かんでええ。俺に話してみ?」

『ゆう、し…。私…もう…どうしたら良いかわかんない…』

「愛理…」

『私はただ…姫島さんと仲良くしたいだけなのに…ッ…』



ほんま…胸が痛いわ。

許されへん、アイツだけは。

愛理の純粋な気持ちを踏みにじりよって…。





「姫島、ちょっと来いや」

『今仕事中なんだけど』

「仕事なんてやってへん癖に、嘘付くなや」



アカン、顔見るだけで怒りが爆発しそうや。

とは言うても、仮にも相手は女や。手は出せへん。

お前が男やったら…殴り殺してまいそうな勢いやけどな。



『私は貴方のお遊びに付き合う程、暇じゃないわ』

「…なんやと?」

『どうせあの醜いお姫様の仕返しでもしたいんでしょう?』

「――ッ、お前…!」





――ガッ。



『侑士…!』

『忍足!!』

…っあ



しもた…。

殴るつもりはなかったのに…。



『これで満足かしら?』

「…満足なわけ、あらへんやろ…」



満足する筈がない。

愛理はもっと傷付けられてるんや。

こんなんじゃ足りひんくらい。



「これ以上調子に乗っとったら、痛い目みんで…?」

『ご忠告どうも』



この冷めた目が…余計に憎い。

もっと、清水亜美みたいに泣き叫ばんかい。

まだアイツの方がマシやったな。

まぁ、どっちもウザイ事には変わりあらへんけど。



『侑士、落ち着いたか?』



岳人が俺の顔を覗き込んでくる。



「…もう大丈夫や。おおきに」



ほんまはまだアイツへの怒りは収まらんけど。

そんな所を見せたらアカン。



『俺さ、ちょっとスッキリしたぜ』

「何がや?」

『侑士がアイツ殴ってくれて!』



意外な返事やった。

男が女を殴ったらアカンって思ってた。

でも…さっきのは許されへんかった。

アイツは愛理を馬鹿にしよった。

愛理がどんな思いでおるかなんて、わかってへんくせに。



『アイツ自分が女だから侑士が殴る筈ないって油断してたんだぜ、きっと』

「…せやな。体で教えなわからんよな、アイツは…」



もう男とか女とか関係ない。

愛理を虐める奴はみんな敵や。

覚悟しいや、姫島優衣子…。










『侑士、今日は早いんだね』

「お前の事が心配やからな。……ん?」

『どうしたの…?』



傷が…増えとる。

アイツまた俺らがおらんところで、愛理に暴力を…。

クソッ、俺が守ってやらなアカンのに!



「愛理、今は辛いやろうけど…頑張りや?」

『侑士…』

「俺がお前のこと守ってやるから」

『うん…ッ、ありがとう…』



俺に抱きついた愛理の体は震えていた。

怖かったんやな。

安心せえ、俺がおるから。



『オイ、姫島』

「貴方も懲りないわね」

『お前また愛理に暴力振るったやろ』

「だから、やってないって言ってるでしょ?」

『ふざけんなや!』



――バシッ!


俺は思いっきり姫島の頬を殴った。

罪悪感なんてない。

俺の大切な愛理をお前は傷付けたんや。









『…楽しい?』

「は?何を言うてるんや?」

『そうやって人を傷付けてるのが楽しい?って聞いてるの』

「俺は復讐の為にお前を殴ってるんや。楽しいとか関係ないわ」

『そう、復讐…』



そう言って姫島は俺の目を見る。

ゾクゾクする…。

吸い込まれそうな瞳…。



『復讐って言うからには、それなりの覚悟があるんでしょうね?』

「覚悟…?」

『覚悟がないなら、軽々しく復讐なんて言葉口にしてんじゃないわよ』

「……ッ…、偉そうに…!」

『復讐ごっこじゃないのよ?失せなさい』

「…なんやと…?」



腹が立った。

愛理に対する俺の想いを、コイツは復讐ごっこで片付ける気か?

コイツも、傷付けばええんや。

愛理が傷付いたように…お前も…!


そう思ったら俺は知らん間に側にあったラケットを手にしていた。

そしてそのラケットを姫島に向けて、振りかざす。











――ガシッ。











『それは駄目だぜ、忍足!』



しかしそれは宍戸によって止められた。

なんでや…?

なんで止めるんや?

憎いねん、この女が!



「離せや宍戸!!」

『――ッ、馬鹿野郎!



そう言って宍戸は俺の手を叩いた。

その拍子にラケットは俺の手からスルッと落ちていった。



――カランッ。



なんでや…。

俺は愛理がやられた痛みをコイツに与えるんや。


それやのに…


なんで邪魔するんや…――

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