第9話 一生そうやって、苦しめば良い。



彼は確か…宍戸亮、だったっけ?

なんのつもり?

私を助けたとでも思っているの?



『忍足、お前はそんな感情的な奴じゃなかった筈だろ?一体どうしたってんだよ』

『…ッ、腹立つんや…コイツが』



それは私だって同じ。

少しは私の思い、わかってくれたかな?



『…どうしたの?』

『…愛理…』

『侑士っ…!何があったの?』

『いや、大丈夫や。心配かけてごめんな…』

『そんな…謝るのは私の方…。私、侑士に頼ってばっかで…』

『ちゃう、俺が決めたんや。お前を守るって』

『侑士…』



素晴らしいね、この演技。

少しばかり腕をあげたんじゃない?

この男を騙す腕を、ね。



『愛理、忍足を連れて此処を出ろ』

『えっ…?』

『これ以上姫島と忍足を近付けたら、何が起こるかわかんねえからよ』

『………、わかった。行こ?侑士』

『あ、ああ…悪いな』



そう言って二人は出て行った。

宍戸亮、何のつもり?



『別に、お前を助けたわけじゃねえからな』

「あら、助けられたつもりはないわ」



当たり前じゃない。

アンタ達みたいな人間に助けられたら、一生恥じて生きていかなきゃいけないから。



『俺だってお前を許せねえ』

「許して貰わなくて結構」

『何でお前はそんな言い方しか出来ねえんだよ?』

「じゃあ逆に聞くけど、何故貴方達に愛想を振りまかなければいけないの?」



そう言って私は笑う。

勿論、嘲笑ってるだけだけどね。



『…お前は亜美の何なんだよ?』

「そんなこと、貴方に言う訳ないじゃない」

『じゃあ…亜美は今どうしてんだ?』

「…意識不明よ。もう、一生目を覚まさないかもしれないわ」

『…………』



驚きのあまり何も言えないみたいだね。

貴方達が殺したんだよ?

まだまだ、こんなものじゃない。

もっと…自分達が犯した罪の重さを、感じてもらわなくちゃ。



「じゃあ、私は行くわ。暇じゃないもので」

『…あっ…!』



私の予想では…宍戸亮は亜美を虐めた事には、直接関与してないみたいだね。

なら、何故さっきみたいに…亜美を助けてくれなかったの?

正義感の強い貴方なら、亜美を助けてくれた筈じゃないの…?









『ちょっと、待ってくれ!』

「まだ何か用かしら?」

『亜美が入院してる病院…教えてくれよ』

「断るわ。貴方が亜美に会う権利なんてないのよ」

『じゃあ…どうすりゃ良いってんだよ…』

「………」

『アイツが虐められてる間、俺は何も出来なかった』

「………」

『俺はアイツに…どう償えば良いんだよ?』






…笑わせんじゃないわよ

『なっ…』



見て見ぬ振りをして、今更償う…?

貴方達が犯した罪は消えないの。


一生そうやって、苦しめば良い。



「自分一人、罪から逃れようって気?」

『…そんなんじゃ…!』

「じゃあ…何?偽善者にでもなったつもりかしら?」

『…ッ、お前…最悪…』

「貴方達は、随分と軽々しく"最悪"って言葉を使うのね?」



本当に最悪なのは、貴方達がした行為。

長年付き合ってきた仲間を信じようともしなかった。

そして、一方的に亜美を責めた。

亜美には…何の罪もなかった。

寧ろあの子は被害者。


それなのに――






「私、綺麗事は嫌いなの」



そう言って私は宍戸亮から離れた。

誰一人、許すもんですか。

貴方達の罪は全て、亜美のメールに示されてる。


誰一人として、亜美を信じようとしなかったその罪が。




『ホラ、早くドリンク作ってよ。持ってけないでしょ?』

「こんなにたくさんのドリンクを一瞬で作れる程、私の手は多くないわ」

『あら?亜美は全てやってきたけど?』



亜美が作ったドリンクを、コイツが運ぶのね。

それじゃあまるで亜美がサボってるみたいじゃない。



「ああ、そうやってきたのね」

『今更分かったの?短期間であの男達の信頼を得るのは、難しいことじゃなかった』

「あんな馬鹿男達を騙して、楽しかった?」

『そりゃあもう。私のシナリオ通りになってくれるのよ?楽しくない筈ないじゃない』

「そう」



何度見ても醜い、その笑顔。

片方だけ上がった口元も、人を馬鹿にしたようなその目も。



『明日は何処に傷増やそっかなぁ』

「いっそのこと顔面にしたら?」



アンタが何処に傷を作ろうが、私の知ったこっちゃない。



『それも良いかもね』



と、ニヤリと笑う小南に私は嘔吐が出そうだった。

私もこんなに醜い顔をしているのだろうか。

良かった、亜美が…立海のみんなが…此処に居なくて。

こんな顔、貴方達には見せたくないから。




『でも顔に傷付けるの結構時間掛かるんだよ?見える所だから、念入りに細工しなきゃいけなくて』

「そうやって今までみんなを騙してきたのね」

『そうよ?私にかかれば、顔色の悪さも、殴られたアザも、切られた傷を作るのも…簡単なこと』

「傷があるだけでみんなが心配してくれるものね?」

『よく分かってるじゃない。作った者勝ちよ』



よくもまぁ此処まで腐れたものだね。

彼女をこんな風にしたのも、貴方達だよ?


氷帝テニス部――











『さ、出来たね!私が持ってくから、アンタもう帰って良いよ。てか帰れ

「言われなくてもそうするつもりよ」



復讐する為とは言え、こんな所にはいたくない。

どんどん腐っていきそう。

最終的には私もこの女みたいになるのかな。



それだけは死んでも嫌。






『なんや、また愛理か』

『なんだか姫島さん、帰るみたいで…』

『またサボりかよ、アイツ』



遠くで聞こえる会話。

芝居してる野良猫、騙されてる馬鹿なネズミ達。

笑えちゃうよ。








『zZZ』

「…………」




そして、この無防備な寝顔にも。

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