城崎翔子
優奈の名前に私は過剰反応した。
そして優奈が今までどれ程辛い思いをしていたか、知る事になる…。
(STAGE.10 -城崎翔子-)
『噂によると親友だったみたいよ、あの二人』
「親友?」
『ええ。元々は北川が先にテニス部に入ってたみたいだけど』
「そうなの?」
『なんか物凄くテニスが上手かったらしく、マネージャーじゃなく選手として入ってたみたい』
当たり前だろ。
私と優奈はイギリスのジュニア大会で優勝するくらいの腕なんだっつーの。
そこらの素人に負けてたまるか。
『でも城崎がマネージャーとして入って…そこからが大波乱よ』
『凄まじかったわよね、あれは』
二人が顔を歪ませる。
「な…何が起きたの…?」
『貴方本当に何も知らないのね』
「ごめんなさい、留学に行っていたもので」
と、適当な嘘を吐くと、一人の女生徒が軽く溜息を吐いた。
『今思い出しても鳥肌が立つわ』
『ホント…。あれが私だったら、きっと耐えられなかったわよ』
二人の顔色はますます曇っていく。
その様子に、私は鼓動を速めた。
『北川が城崎を虐めたとか言う噂が出回って…』
「
はぁ!?」
思わず出た言葉に、焦って口を押さえる。
『どうしたの?』
「…いえ…続けて?」
危ねぇ危ねぇ…。
心の声が出ちまったぜ…。
あの心優しい優奈が、誰かを虐める筈ねぇだろ。
んな噂、デマだっつーの!
『それで跡部様がキレたみたいで』
『レギュラーみんなで北川の責め攻撃が始まったわ』
「ちょ…待って…。みんな…その噂信じたの…?」
二人はコクリと頷く。
私は憤りを隠せなかった。
今まで一緒に汗水流した仲間を、そんな変な噂を信じて責めるなんて…。
ちょっとは優奈を信じるとか言う選択肢は無かったのかよ!?
『私達も跡部様には逆らえないわ』
「…そんなに凄い奴なのかしら?その男…」
『え…?』
「跡部景吾の居場所…教えてくれる?」
『…い、今はお昼休みだから…生徒会室に居るかと…』
「ありがとう。時間を取らせて悪かったわね」
と、ニッコリ笑うと、驚いた様子の二人。
そんな彼女達を残して、私は一人、生徒会室に向かった。
許せない。
許せない、許せない。
許して良い筈が無い。
レギュラーみんなで優奈を責める?
ふざけんじゃねぇよ。
か弱い優奈を虐めて、楽しかったのかよ?
そんな卑怯な男達を…野放しにして良いわけねぇだろ…!
バンッと、部屋の扉を乱暴に開ける。
そこには驚いた顔の跡部景吾と…テニス部レギュラー。
良かった、全員集合してて。
探し回る手間が省けた。
『誰だ、テメェは。会議中だ、話があるなら後にしろ』
と、偉そうにイスに座って偉そうに言う跡部景吾に…私はブチ切れ寸前だった。
「…んで私がテメェの為に自分の時間使って待たなきゃいかねぇんだ馬鹿野郎!」
そう言って、跡部景吾の目の前にある机を強く叩くと、ヤツの眉毛がピクリと動くのが分かった。
『誰に口聞いてんだ?』
「アンタに聞こえてるならアンタしか居ねぇだろ」
『俺が誰だか分かっての行動か?』
「よーく知ってるよ。親の金使ってチャラチャラしてる跡部景吾だろ?」
――ガタンッ…
跡部は静かに立ち上がると、私を見下ろす。
なんだかよく分からないけど、悔しさが立ちこめた。
『テメェの目の色…あの女に似ていて腹が立つ』
跡部は私の目を見ながらそう言った。
あの女…間違いなく優奈の事だろう。
「似てるのなんて当たり前だろ?私はあの子の姉なんだから」
『…フッ』
カチンッ、頭の中でそんな音が聞こえたような気がした。
鼻で笑いやがったな、この男!
『妹が妹なら…姉も姉だな』
コイツ…マジでぶっ殺してやりてぇ…!
いや、抑えろ私。
この男を懲らしめる時間はちゃんと用意されてんだから。
「腐ってるよな。アンタも、テニス部も」
『アァン?』
「アンタが部長で良いわけ?」
そう言ってフッと笑えば、横から肩を掴まれた感触がした。
振り向いてみれば、眼鏡を掛けた……確か忍足侑士って名前だったっけ?
彼が私の肩を掴んでいた。
『お嬢ちゃん。俺らが笑顔のうちに、こっから出てった方がええんちゃう?』
と、わざとらしく笑う忍足。
ムカムカする。
何事も無かったかのように平凡に過ごしているコイツらが…。
「来るなら来いよ。お前らなんて、5分あれば倒せるぜ」
私がそう言うと、跡部景吾が再び椅子に座る。
そして、一言。
『北川優奈はクズ以下だ』
悔しかった。
優奈の事なんて何一つも分かって無いこの男に、優奈を侮辱されるのが…。
そんな私の心情を知らないレギュラーの奴らが次々と言葉を吐きだした。
『許せねぇよ…アイツだけは』
と、宍戸。
『清々しましたよ。あの女が居なくなって』
と、鳳。
『あんな女、居なくなったって誰も悲しまねぇよ。ガハハハ!』
と、向日。
『ま、俺はなんも関係ないC』
と、芥川。
『考えたくも無い。あんな奴の事は…』
と、日吉。
みんなみんな…敵だ。
此処に来て分かった。
コイツらに対する私の感情は、憎しみのレベルを越えてる。
そう実感した時、私の中で異変が起きた。
――バタン。
私は黙って生徒会室を後にした。
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