二週間
『お前…今日泣きすぎや』
「う、うるせぇ…!お前が泣かせてんだろ…ッ!」
白石は呆れたような顔してた。
けど、コイツの良い所
見つけられたような気がするぜ――
(STAGE.14 -二週間-)
『北川さんは』
「さん付けんなよ。さっきから偉そうに説教してるくせに」
『なら明奈』
「名前かよ」
『だって北川やとややこしいし』
まぁ北川さんとか言われるよりかはマシだけどな。
"さん"付けなんて普段呼ばれ慣れてねぇから痒くて痒くて。
柳生だけだぜ、そんなことし続けてるのは。
「そんで、私が何なんだよ」
『明奈は…優奈に忘れられて悲しないんか?』
優奈に忘れられて…。
悲しい…のか?
優奈が苦しんでるのは悲しいけど…優奈に忘れられた事に関しては、不思議と普通なんだよな。
そりゃ良い気分はしねぇけど。
「何でだろうな…別に悲しくはねぇよ」
『悲しくない…?』
「多分、信じてんだよ。いつか…優奈が私を思い出してくれる事…」
もし私が優奈を忘れたとしても、私は優奈を思い出す自信がある。
だから、きっと優奈だって…。
なんて言うのは…甘い考えなのかな。
『お前…やっぱ強い女やわ』
「あぁ?」
『俺は…無理やったわ』
白石はフッと笑った。
けど…笑えてなかった。
何処か悲しげな笑顔だった。
「そっか…お前の事も忘れてんだもんな」
『病院行って"誰?"って言われた瞬間、頭おかしなりそうやったわ』
「無理ねぇよな」
ここで暫く沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのは、白石だった。
『なぁ明奈』
「んー?」
『ごめんな』
私は白石を見た。
"ごめんな"…?
コイツは一体何に対して謝ってんだろう…?
「何が?」
『…いや…何でもない』
変な奴…。
『ほんで、昨日はどうやったんや?』
「…二度目だぜ?」
『だって詳しく聞かれへんかったし、気になるやん』
「…野次馬」
でもまぁ、白石も強ち無関係じゃないしな。
昨日の事は一応報告しておくか。
「アイツら…相当優奈の事嫌ってるぜ?」
『それは知ってる』
「は?何で?」
『優奈から直接聞いたからな』
「あぁ、そっか…」
コイツは私とは違って優奈と連絡取り合ってんだもんな。
当たり前だって分かってても…優奈が私じゃなくてコイツに話してたのはちょっと妬けるぜ。
『
何や、その顔』
「別に」
ま、良いけどね。
今は五分五分の状況だし。
「優奈は…その事についてなんつってた?」
『なんて…?んー…
"嫌われちゃった。テヘ"くらいの程度やったけどなぁ…』
「はっ?」
『そんな重い感じじゃ無かったで?』
待て待て待て!
そんな筈ねぇだろ!
昨日の姉ちゃんズの証言によると…
『今思い出しても鳥肌が立つわ』
『ホント…。あれが私だったら、きっと耐えられなかったわよ』
くらい酷かったんだろ!?
もしかして優奈は…迷惑を掛けまいと一人で全部背負って…。
「重くねぇわけないだろ!優奈は…あの子は何でも一人で解決しようって子だったから…ッ」
だから誰にも言わなかっただけなんだ!
何で…優奈を助けてくれなかったんだよ!?
「――ッ…」
『す、すまんな。気付いてやられへんくて…』
「…いや…」
って、それは私だって同じじゃねぇか…。
コイツの事だけ責められねぇよ。
「まぁ…後悔してももう遅い」
『せやな。肝心なのはこれからどうするか、や』
良いこと言うぜ、白石。
そうだよな。
肝心なのはこれからだぜ。
合宿で何処まで頑張れるか、だな。
「あ…そう言えば昨日、跡部に正体バラしちまった」
『正体って?』
「"私は優奈の姉です"って」
『それ…アカンのんちゃう?』
「や、やっぱりか…?」
『だって、大嫌いな奴の姉やで?最初からあっちは壁作るやろ』
ま、まぁ…普通に考えればあっこで跡部に宣戦布告なんてしちゃいけねぇんだよな…。
うっわ、どうしよう…。
かなり無責任な事しちまった…。
でも、アレは我慢出来なかったんだって。
『なら、変装してけば?』
「…はい?」
『ヅラ被って、カラコンして、その言葉遣いも変えて』
「おま…本気で言ってんのか?」
『それ以外方法は無いやろ?』
って事は、白石。
お前は私に自分を捨てろと言ってるのか?
『ホラ、カツラやったら演劇部のあるし』
「馬鹿野郎!ヅラぐらい自分で用意出来るっつーの!」
『あ、そう?』
ヅラとかカラコンとかを準備するのは簡単だぜ?
だけど…言葉遣いって…。
ボロが出るに決まってんじゃねーかぁ!
「や、やっぱ無理だろ…?」
『無理ちゃうて』
「だって普段こんなんなんだぜ!?合宿の間演じれる自信ねーよっ!」
『なんで?合宿まであと二週間あるやん?』
「…え?ま…まさか…」
「そうや、特訓するしかないやろ」
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