合宿本番
『カツラもカラコンも予備を用意しておいたわ』
「ありがと」
『あの、明奈…。ホントに気をつけてよね…?』
「だから大丈夫だって!いってきます」
その日、私は元気よく家を飛び出した。
(STAGE.16 -合宿本番-)
『
遅いわ、ドアホ!』
「ご、ごめん…」
学校に着くと同時に、窓から顔を出してる謙也に怒られた。
ドアホって…そこまで言わなくても良いじゃねぇか!
謙也の薄らハゲ!
『何か言いたそうな目ぇしとるけど』
「
いえ、してません」
私は謙也から目を反らし、バスに乗り込む。
『よし、これでみんな揃ったな。ほな行こか』
バスはゆっくりと発進し出す。
これが遠足ならな…ウキウキなんだけどよ。
またアイツらに会わなきゃいけないってなると、……はぁ…。
『顔…死んどるばい?』
「そうかな…」
『白石、死人が乗っとるみたいやでぇ』
「謙也…テメェは私に喧嘩売ってんのか…?」
『白石ぃ、可愛ない男の子がおんでぇ』
「
謙也くぅん。このまま私と地獄に旅立ってみる?」
私は最高級に可愛い声&顔で謙也を見つめる。
相変わらず自分でも吐き気がするぜ。
『なぁ、明奈』
「あぁ?」
『そんな気負いせんと、肩の力抜いて行けば良いんちゃう?』
「謙也…。お前そんなこと言ってたら敵軍団に射殺されっぞ?」
『…恐いこと言うなや』
謙也は冷たい目で私を見る。
ホントお前は不器用な奴だよなぁ。
でも、ありがとう。
お陰でちょっと楽になったぜ?
『あー、お前の相手したら疲れたわ』
「私も既にアンタの相手で80%体力失った」
『
アホ。どんだけ体力ないんや』
「
馬鹿。お前の相手がそんだけ大変だって事だっつの」
私達はお互い、目線の先に火花を散らし合う。
『俺、到着するまで寝るわ』
「起きたら目が二つ増えてるかもな」
『…絶対落書きすんなよ』
「約束は出来ねぇな」
『ならお前も寝ろ』
謙也は私に毛布を掛けてきた。
なんか…切なくなるくらい不器用な優しさだよな、お前のする事って。
まぁ、有り難くいただいとくよ。
でもさ…今から私は戦いに行くんだぜ?
そんな安らかに寝てられっかよ。
私は窓の外の景色を眺めながらそんな事を考えていた。
『――…、明奈!』
「ッ…!!」
が、見事熟睡していた私。
謙也の声にひっくり返りそうになる勢いで起きる。
そして、気付いたらとっくに目的地に着いてました。
『やっと起きたか』
「…着いたのか…?」
『あぁ。お前最近寝てへんのちゃうんか。めっちゃ気持ちよさそうに寝てたで?』
「寝てるけど」
確かに最近の平均睡眠時間は3時間くらいしかなかったけどさ。
謙也に見破られるとなんか腹立つぜ。
『おーおー、こりゃ良かばい』
千歳に続いてバスを降りてみると、自然溢れる緑と、馬鹿デカい別荘が。
風も気持ちいいし…何より酸素が溢れてる感じがするぜ。
『そう言えば此処、跡部クンが用意してくれたみたいやで?』
「…跡、部…?」
何だか酸素が奪われてく気がするんですけど。
跡部の別荘で一週間も過ごしたくねぇよ。
「貴重な連休を奴の敷地で過ごすなんて…」
『急に言い出した事やから仕方ないやろ?』
「そうだけどさぁ」
私がふて腐れていると、後ろから足音が近寄って来るのが分かった。
『久しぶりだな』
こ、この声は…
「幸村…みんな…!」
勢い良く振り向くと、そこには私の大切な仲間達が居た。
ずっとずっと、会いたかったんだぜ…?
『明奈先輩、何泣きそうな顔してんッスか?』
『そんなに俺達に会いたかったのかよ?』
「うん…会いたかった…」
『『
え…?』』
一瞬にして固まる赤也と丸井。
おいおい、何だよその顔は。
目が点のようになってるぜ?
絵に描いてやりたくなる顔だな。
『お前本当に明奈か?』
『変わりましたね』
「そうか…?ジャッカルも柳生も、あんま変わらねぇな」
ジャッカルは相変わらず可哀想なオーラ出てるし、柳生は相変わらず姿勢良いし。
なーんも変わりない、私の好きな立海だ。
『きっとスパルタ教育でも受けたんだろう』
『うむ、流石は四天宝寺だ』
柳、真田…。
もうちょっと小さい声で話そうね。
普通に聞こえてるから。
でも否定できない所がちょっと悲しいな。
『明奈もやっと女の子になったんやのぅ』
「仁王」
…ん?仁王?
何かコイツの顔見るとすげー腹立って来たんだけど。
何でだ?
「仁王…仁王仁王仁王仁王仁王仁王仁王仁王」
『そんなに俺の事、好いとぉ?』
「
あーっ!思い出したぜ!!」
『ん?』
「
テメェあの契約書は何だよ!!」
次会ったらボッコボコにしてやろうと思ってたんだ!
丁度良いとこで会ったな!
「お前が私に変わって手紙を書いてくれるなんておかしいと思ったぜ!私よりもあんな作業をめんどくさがるテメェがよ!!」
『プリッ』
「とぼけんじゃねー!!」
『………明奈』
「何だよ!」
『実はアレ…真田に命令されたんじゃ。逆らえんくて…悪かったのぅ』
「そ…そうだったのか…?」
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