頼み事


そんな私だけど、別にテニス部が嫌いってワケじゃない。

嫌いだったらかれこれ三年もマネージャーやってねぇし。

だから母からの手紙には、少なからず私も動揺したんだ。














(STAGE.02 -頼み事-)










「何だとぉ!?!?」



ポストの中に入っていた手紙を読んだ私は、目を見開いた。

私は四年前、"お嬢様"と言われるのが嫌で家を出てきた。

跡取りなんて冗談じゃない、そんな縛られた人生は御免だ。

そう思ったからだ。


だから両親とは丸々四年会っていない。

色々と後始末をしてくれて感謝はしてるけど…跡を継ぐ気はこれっぽっちも無い。

諦めたかは知らないけど、二人が私の進む道に介入する事は無かった。


そんな両親が、私に手紙を送ってきた。

その内容は…















"転校"











という事だった。

今更転校なんかするかよ、と一度は思ったけど、私の起こした問題を二人は何も言わずに片付けてくれてた。

そんな二人が唯一私に頼み事をしているこの時に…私に断る権利はあるのか――?










『明奈さん、おはようございます』

「あぁ、柳生…」



何だか柳生の顔を見たら泣けてきた。

もし私が転校したら、コイツらとはもう会えないんだろうな…。



「バカヤロウ…」

『え…?』



ポロポロと涙を零す私に、柳生は戸惑うばかりだった。










『落ち着きましたか?』

「…悪かったな、困らせて…」

『私は大丈夫ですが…何かあったんですか?』

「………」



言ってしまおうか、黙っておこうか…悩んだ。



「…いや、何も…」



けど、私は黙っておく事にした。

何も言わずにいきなり居なくなった方が、悲しまなくて済むような気がした。





『明奈、昨日は散々だったな』

「ジャッカル…」




ジャッカルを見れるのも、今日で最後か。

割と薄いキャラだったけど、居なくなると寂しいよな…。

いや、違う。

居なくなるのはジャッカルじゃなくて…私、か。

やべぇ、また泣けてきやがった。



『明奈…?どうかしたか?』

「な、何でもねぇよ。じゃあな」

『あ、おい…!』





やっぱり断れねぇんだよ、転校の件は。

こんな私だけど、一応親に対しての感謝と罪悪感はある。

だから、今回の頼み事は…断れねぇんだよ。





『明奈』

「どうした参謀?」

『何故ずっと窓の方を見ている?』




何故私はコイツと同じクラスで、コイツの隣の席なんだ?



「空がキレイだなーと思って」

『雲しか見えないが?』



いちいち構わないんで欲しいんですが。



『お前の様子がおかしいと、皆言っている』

「いつも尋常だと思ってくれてないクセにー」

『ちゃんと俺の目を見て話せないのか?』



チッ、うるせえな。

見りゃ良いんだろ、見りゃ。

と、体を右に向けた時に、何やら引っかけた。



『…何だ、コレは』

「あっ、いや…それは!



引っかけたのは、引き出しの中から覗いていた手紙だった。

柳は手紙を拾い上げ、止める間もなく…読まれてしまった。



『なるほど、お前の奇妙な態度はこれが原因か』



奇妙って…私だって色々と葛藤してんだよ。

何を見てくれてるんだ馬鹿柳!




「返せよ!」



と、手紙を取りに行くが、ヒラリとかわす柳。

コノヤロウ…!



『こんな大事な手紙を、何故引き出しの中に入れていたかが謎だが』

「どっ…動揺してたんだよ。朝読んだまま、気付いたら手に握ってたから急いで引き出しに入れたんだ。なんか文句あるかよ」

大有りだ。こんな大事な手紙を、何故俺達に見せずに引き出しに入れていたかと聞いているんだ。ここに持って来た経緯など聞いていない』

「そ、それは…」




だって見せたらお前ら必要以上に騒ぐじゃねぇか。

もう答えは決まってるのに、止められなんかしたら迷ってしまいそうで…。




『取り敢えず、この手紙は俺が預かっておく』

「ま…まさかみんなに」

『当たり前だ』





ど、どうしよう。

絶対に知られたくは無かったのに…。



『覚悟を決めるんだな』



クソッ、柳に見つかった時点でジエンドかよ。

仕方ない、分かったよ。

覚悟を決めてやるよ…!














『うぉうぉうぉうううう…!!!』

『マジで行っちゃうんッスか、アネキィ!!!』




号泣しているのは、子分達だった。

うざってぇ…ここまで号泣されるとこっちが泣けなくなってくるぜ。



『うぅ…どっ、何処に、行くんッスか…?』

「大阪だ」

『ぅうぅ、遠いん…ですか…?』

「知らねぇよ、地理に詳しくねぇんだよ」




まぁ、歩いて来れる距離では…ないよな。

転校は良いけど、いくら何でも急すぎるよな。



「ってことだ。北川ファミリーは今日で解散だ!」

『そんなぁあぁああ…!!!』

「うっせー!泣き声うるせぇ!!」

『どうか…お元気でぇぇえ…っ!!』

「…おう」



やべぇ…。

なんか一気に実感出てきた…。

段々涙腺が…緩んで行く。



『ううっ…』

「泣くなよ…なぁ」

『ううううっ…』



お前らのせいだからな、チクショー。

涙が…止まらないじゃねーか。



「うっ、バーカ…」




そうやって私達は朝まで泣きはらした。


その泣き声は酷く騒音で、迷惑極まりなかっただろう…。

- 2 -

*前次#


ページ: