対立


『そない適当な形で終わらされたら敵わへんなぁ』


外で私達の会話を聞いていたのか、忍足はそんな事を言い出した。
















(STAGE.21 -対立-)













『翔子の火傷…結構酷かったわ。事故で此処までなるとは思われへん』

『アホか。此処で明奈がそっちのマネージャーに手出して、なんのメリットになるっちゅーんや』

『ケンヤ…何でお前はソイツのこと庇っとるんや?』

『コイツはそんな事する奴ちゃうって知っとるからや』



忍足と謙也が睨み合う。

悪りぃな、謙也…。

お前まで巻き込んじまって。

旧友と対立する事なんてお前は望んでないだろうに…。



『ええんか?俺は翔子を傷付ける奴は、例えいとこのお前であっても許さへん』



そんな事言うなよ。




………ん?

はっ…?

い…いとこ!?



『なら、俺も明奈を虐める奴は許さへん』

『ケンヤ…。お前ちょっと頭冷やしたらどうや?』

『お前こそ、目ぇ覚ませや。ユーシ』



ちょ…っと、待て待て待てぃ!

コイツらいとこ同士なのか!?



『ほな…多数決で決めようやないか』



忍足はそう言った。

多数決って…そっちの方が適当じゃねぇか!



『各学校で会議をして、部長が代表で手を挙げる。それでどうや?』

『やったろーやないか』



お前ら…そんな変なことで競い合うのやめよーぜ?

私は別に責められても何とも思わねぇからさ。



「なぁ、ホントにやんのかよ?」

『当たり前や!あんだけ言われて悔しないんか!?』

「いや、私はやってないって信じてくれてるお前らが居ればそれで十分なんだけど」

『アカン!俺は信じてるからこそ悔しいんや!』



そう言い張る謙也。

有り難いんだけど…私の為にそこまで熱くなってくれなくても良いんだぜ?



『まぁ、やらしとけばええんちゃう?』

「白石…」

『忍足クンと謙也は、昔っからあーやって張り合うてるんや。今更誰も止められへん』



白石は苦笑いを残し、謙也を見る。

昔っから…ねぇ。



「なぁ、白石。あの二人ってホントにいとこなのか?」

『…明奈、謙也の名字知ってるか?』

「謙也の名字………なんだっけ?」

『忍足謙也…。正真正銘のいとこや』



え…OSHITARI…?

忍足…ッ!?

し、知らなかった…。

柳から貰った資料も、サッと目を通しただけだったし…。

つか、氷帝の事調べるのでいっぱいいっぱいだったからよ…。



『チームメイトの名字くらい覚えとけや』

「いや、だってさ!忍足なんて呼んでる奴一人も居なかったじゃねぇかよ!」

『だって謙也は謙也やし』



そりゃそうだけどさぁ。

あー…スマン謙也。

旧友じゃなくて…いとこだったのかよ。

本来なら、いとこなんて敵に回したくねぇ筈なのにな…。



『よし、会議終わりや!』



謙也が私の肩をポンッと叩く。



「良いのかよ…?謙也」

『何がや?』

「いとこなんだろ?切っても切れない関係なんだぜ…?」



合宿が終わった後も険悪になるのって…私だったら嫌だ。

謙也も同じ思いなら、無理に私の味方せずに…城崎翔子についたって良いんだぜ?



『…実はな、明奈。俺ユーシの事大嫌いなんや』

「え?」

『昔っから何かと言うと絡んできてなぁ。ホンマうざい奴やねん。だから、此処で決着付けたろ思て』



謙也は私に笑顔を向ける。


それは…本当の話なのか…?

それとも、私の為に吐いた…嘘?





『ほな、手ぇ挙げて貰うで』



そう言うと、ニヤリと笑う忍足。

うぜぇ…。

こんな奴がホントに謙也と血繋がってんのかよ。



『翔子が悪いと思う奴』



スッと手を挙げる白石…と、幸村。

まさか…お前らまで氷帝を敵に回すのかよ?



『と言うことは、自然的にこっち側につくのは青学っちゅーことか』

『何故お前達がそんな女の味方につくのか、真意を問いたいもんだな』



偉そうに足を組んだ跡部が、幸村に言う。



『答えは簡単だよ。青学がそっちに行くと思ったから』

『アァン?』

『青学9人、氷帝8人。立海8人、四天宝寺9人。数は同じ…と言うことで、この多数決は無効だよ』



なるほど…そうゆう事か。

君達頭良いね、やっぱ。

氷帝を敵に回さず私の味方が出来るってわけですか。

そうゆうやり方なら、大賛成だぜ。



『だがな、幸村。この多数決は、夕食争奪戦の意味でもあったんだぜ』

『夕食?』

『あぁ。俺様の専属シェフは生憎一人しか居ないもんでな』

『自分達の分しか作れない、って言いたいのかい?』

『ま、単刀直入に言えばそうゆう事だ』



何だ…コイツ…。

やり方が卑怯すぎんだよ。

いくら此処が自分の別荘だからって…。






――バンッ!



怒りのあまり、私はテーブルを強く叩いた。




「合宿に参加してる以上、不平等なのは許されないわ」

『仕方ねぇだろ?シェフに無理させるわけにはいかねぇんだからよ』

「だったら…立海と四天宝寺の夕食は私が作る。勿論材料は勝手に使わせていただくわ」

『ほう、勝手にしな』



私はスタスタと厨房に向かった。



ホントに腹立つ。

何処まで根性腐ってんだよ。




『申し訳ございません。もう少々お待ち下さい』



どうやらこっちの厨房は占領されてるらしい。

確かもう一つある筈だよな…。

私は冷蔵庫から材料を奪って移動する。

実はこの別荘、私が小学生の時にテニスの練習で使ってた別荘の片割れで。

構造は全く一緒になってる。





――ガラッ。


ドアを開けると、立派な厨房があった。

ホラ、やっぱり。



しかしその厨房は長年使っていないのか、少し汚れていた。

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