仲間の存在
『城崎翔子の事についてや――』
白石の言葉に、辺りは沈黙に包まれた。
(STAGE.23 -仲間の存在-)
その沈黙を破ったのは、白石に問い掛けられた柳だった。
『何故城崎翔子を気にする?』
城崎翔子の正体って、私しか知らないんだよな。
コイツらから見れば、ただの可愛い女の子。
どこも不審じゃねぇのに。
『今まで一緒に戦ってきた、青学、氷帝の事はある程度知ってる。けど、あの子だけ何の情報も無いんや』
あぁ、そっか。
マネージャーだもんな、城崎翔子って。
選手とは関わりあっても、マネージャーとは流石にねぇよな。
『…俺が知っているのは個人情報くらいだ。彼女の性格までは分からない』
『そうか…』
『その事に関しては、明奈の方が知っていると思うが』
「あ〜…私か。
………私!?」
私…知ってる事は知ってるけど…どうなんだコレ?
言って良いのか?
「せ、性格はまだ関わったばかりだからわかんねぇけど…関係図くらいならわかるぜ?」
『関係図?』
「城崎翔子は、跡部の彼女。そして、優奈の親友…」
『優奈と言うのは、お前の妹か?』
「あぁ。
私の可愛い可愛い妹だ」
『…そうか』
「『…………』」
しまった…!シスコン過ぎたか!!
何だこのいや〜な空気は!
『それならば…何故お前の妹だけがテニス部から消えた?』
「え…?」
『何故城崎翔子は消えなかった?』
「そ…それは…」
城崎翔子が、この事件の黒幕だから。
それしか無いだろ…?
『明奈、そろそろ詳細を教えてくれないか?』
幸村が私に言った。
『生憎、俺達は何の話も聞いてないもんでね。推測でしか物事を進められないんだよ』
「あ…そ、そか…」
あの時の電話では話さなかったんだよな。
電話の後に知った事もあったし…。
話しといた方が良いよな。
「こっちに来て、優奈に会ったんだ」
「優奈!久しぶりだな!」
久しぶりに妹に会えて、嬉しかった。
「けど、優奈は記憶喪失で…」
『――…誰?』
誰も、そんな再会は望んでなかった。
きっとあの子自身も…私も。
「私との記憶は勿論、自分の事も忘れてた」
『私…誰なの…?』
優奈は、彷徨ってた。
『お願い…助けて…ッ!』
暗闇と言う恐怖の中で。
「あの子は…苦しんでたんだよ。必死に孤独と戦ってたんだよ…」
それなのに――
『北川優奈はクズ以下だ』
優奈を罵る姿。
『許せねぇよ…アイツだけは』
『清々しましたよ。あの女が居なくなって』
『あんな女、居なくなったって誰も悲しまねぇよ。ガハハハ!』
優奈の存在を否定する姿。
『ま、俺はなんも関係ないC』
『考えたくも無い。あんな奴の事は…』
自分は無関係だと、事実から逃げる奴らの姿。
「氷帝の奴らは何にも分かってなかった…ッ。自分達のした事、優奈の気持ち…何一つ理解しようとしてなかった…!」
悔しかった…本当に…ッ!
優奈があれだけ苦しんでるのに、どうして氷帝の奴らは笑ってるんだろう。
何回も、そう思った…。
「そして挙げ句の果てに…」
『私はその女を追い出す事と…景吾の女になる事に成功した』
「あの女は…楽しそうに…優奈の辛かった過去を話し出して…」
『私はまた…害虫駆除で忙しくなりそうです』
「自分のした事を…"害虫駆除"で終わらせた…ッ」
私の目から何回も何回も、涙が溢れ出す。
アイツらが優奈を思う気持ちと、私が優奈を思う気持ちが違いすぎて…
今のアイツらに何を言っても通じない。
だったら…私はどうすれば良い…?
――ガンッ…!
大きな音がしたので、そっちに注目してみると…
白石が拳を握り、机を叩いていた。
『そんな話…知らんかったわ』
「白、石…」
『許されへん…絶対に』
白石がこんなに怒ってる姿は初めて見た。
そっか…
コイツも優奈の事、大切にしてくれてたんだよな…。
『明奈、先輩…』
赤也が悲しげな瞳で私を見る。
『俺、正直明奈先輩の妹の事はよく知らないッス。けど…アイツらがやった事で明奈先輩が悲しむんだったら…
俺はアイツらを許さないッス』
「赤也」
『俺も、右に同じ』
「丸井…」
――…今まで。
今まで私の周りには…柄の悪そうな奴ら、犯罪紛いな事をしてる奴ら、感情なんて持ってねぇ奴ら…そんな奴らしか居なかった。
仲間、そんな感じじゃなくて…。
同類…一言で言えばそんな感じだった。
腐ってたんだ、私も。
けど、そんな私をそこから救い出してくれたのが…
お前達…なんだよな。
『俺達は何があっても、明奈の味方だからな』
「ジャッカル…」
『彼らがしてきた事は、許し難い行為です』
「柳生…。そうだよな」
みんなが居るから、マネージャーだって頑張って来れた。
だったらこの先だって、みんなが居るから頑張れる。
マネージャーになって、良かった。
心からそう思った瞬間だった。
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