彼の願い
食事も、片付けも終えて、自分達の部屋へ行く途中。
私はアイツと出会った。
(STAGE.24 -彼の願い-)
『あ…』
「……」
芥川慈郎…。
金髪くるくるパーマ、間違いない。
『ま、俺はなんも関係ないC』
あの時そう言った奴だ。
『部屋に…行くところ?』
「…だったらどうだって言うのかしら」
それを阻止する?
それとも先回りして、小細工でもする?
『君…大和なんて名字じゃないでしょ?』
「何を言ってるの?私は大和。他に何があるのよ」
私がきつく言うと、芥川は黙り込む。
そんな顔したって、同情なんてしないからな。
絶対に…。
『北川…じゃないの…?』
「…!」
今、なんて言った?
まさか…私の変装は完璧なんだぜ…?
『優奈ちゃんの、お姉ちゃん…でしょ?』
「そんなわけ…無いじゃない」
強気に言ってみたものの、動揺で手には汗が滲んでいた。
『分かるんだよね、俺。普段ずーっと寝てるけど、耳だけは働かせてるから』
「だから何なのよ」
『声…』
「声?」
『
変えれないんだよね、声だけは』
芥川は笑う事も無く、ただジッと真顔で私を見つめていた。
声なんて…口調を変えればバレないと思ってた。
そんなの、どうすれば良いんだよ…。
『優奈ちゃんの、お姉ちゃんだよね?』
「…だったら…?」
『え?』
「
だったら何?跡部にでもバラすのかよ?それで私を脅すつもりなのかよ?」
上等じゃねぇか。
その時は、私とタイマンでも張ろうぜ?
『違うよ。俺、戦う気なんてないC』
「あぁ?」
『俺は、別に優奈ちゃんを嫌いでもなければ、憎んでもない』
「そんな事言って…中間の安全地帯にでも居る気かよ?」
んな甘ったれた考え、此処じゃ許されねぇんだよ。
『分からない』
「
はぁ?」
『俺は氷帝のみんなが好きだし、裏切るつもりも無い』
「だったらそれで良いじゃねぇか」
『でも…俺は優奈ちゃんの事が好きだった』
コイツ…どの口がそんな事をほざいてんだよ?
優奈が虐められても、お前は関係ねぇんだろ?
『跡部も、みんなも…好きだけど…優奈ちゃんの事を話す時は、みんな別人になる』
「それが本性なんだろ?」
『
違う!そんな人じゃ無かった』
芥川は俯いて、苦しそうな…悲しそうな、何とも言えない表情をする。
『そんなみんなを見たくなくて…そしたらいつの間にか、"関係ない"って、言うようになってた』
「言い訳にしか聞こえねぇけどな」
『そうかもしれない…けど、俺は信じてる』
「何を?」
『君が…みんなを元に戻してくれるって』
私が…アイツらを元に戻す、だと?
悪いけど、私はあれがアイツらの本性だと思ってるし、何があっても改心なんてしてねぇと思ってる。
氷帝テニス部は、私が見てきた中で史上最悪の極悪テニス部なんだよ。
「お前はホントに、綺麗事の好きな奴だな」
『え…?』
「自分の手は汚さずに、事が丸く収まるのを待つつもりかよ?
卑怯者」
『――ッ…』
だってそうだろ?
私はアイツらを変える為にこの合宿に参加したんじゃねぇし、寧ろアイツらを懲らしめようと思ってるんだぜ?
何で私が敵の芥川を救ってやらなきゃいけねぇんだよ。
しかもコイツは何もしないで見てるだけだろ?
虫が良すぎるぜ。
「アンタが優奈を好きでも、優奈はアンタの事嫌いかもな」
そんな一言を残して、私は彼の横を通り抜ける。
今、コイツらに何を言われても許す気はねぇ。
優奈が記憶を失った事を、事故で片付ける気はねぇんだ、私は。
「――…!」
角を曲がると、泣きボクロに出会った。
私が最も憎んでいる人物…跡部景吾だ。
顔も見たくなかったから、何事も無かったかのようにそのまま通り過ぎようとした。
『なぁ』
しかし跡部は私に話し掛けてきた。
宣戦布告でもするつもりか?
良いぜ、快く受けてやるよ。
「何かしら?」
『一言だけ忠告しといてやるぜ』
跡部は上から目線で私にそう言った。
『お前は俺達を怒らせた、ただじゃ済まねぇからな』
あのなぁ。
それは忠告じゃなくて、挑発じゃねぇか。
私は心の中で溜息を吐いて跡部の方を向く。
「ご忠告どうも。だけど…私はアンタ達には絶対屈しないわ」
間違った道を行くアンタ達の言うことを聞くくらいなら、殴られた方がまだマシ。
アンタ達のやったことを認めるくらいなら…死んだ方がマシなんだよ。
『そうやって強がってると、大切なものを失うかもな?』
「どうゆうことよ?」
『フッ…自分で考えな』
跡部は嫌らしい笑みを見せ、私に背を向ける。
大切なもの…。
もう、奪っただろ…?
お前達は、私の大切な妹を奪ったじゃねぇか。
これ以上何を……
「!まさか…」
立海、四天宝寺…
私の大切な…仲間達…。
…ふざけんなよ。
アンタが憎いのは私だけなんだろ?
だったら私だけを狙えば良いじゃねぇか…!
なんでアンタはいっつもいっつもそうやって…。
「
待ちなさい!」
許せない、お前だけは…。
私は跡部に向かって大声で叫んだ。
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