本当の氷帝
『アァン?』
跡部は相変わらずの嫌らしい目付きで、私を睨む。
「
私と勝負しろ」
私は跡部の方に指を突き刺し、跡部を睨み返した。
(STAGE.25 -本当の氷帝-)
『フッ』
私の挑戦に、跡部は不敵に笑う。
『一体何で勝負するって言うんだ?』
「テニスで良いわよ。得意なんでしょ?」
私がそう言うと、跡部は笑みを収める。
そして体ごとこっちを振り向くと、私に言った。
『やめておけ。結果は見えている』
「あら、負けるのが恐いのかしら?」
跡部を馬鹿にするように私は笑う。
大丈夫。
喧嘩ではアンタは1分でゲームオーバーだけど、テニスなら10分は掛かるから。
仮にもこの合宿に参加出来るくらい強いんだろ?
私を楽しませてくれよ。
『後で泣きっ面掻いても知らねぇぜ?』
「それはこっちの台詞よ」
そう言うと、私は跡部に背を向け、スタスタと去る。
『いよいよ明日ばい』
『何があっても裏切らへん、それを誓って欲しい』
『明奈はワイらの仲間や!!』
『頑張りましょーねっ、ユウ君!』
『おうっ、頑張るでぇ!』
『コイツはそんな事する奴ちゃうって知っとるからや』
四天宝寺…
『お前の事は結構気に入っていた』
『度胸だけは誉めてやろう』
『俺はそんなお前さんも、嫌いじゃなかよ?』
『これで涙を拭いて下さい』
『この多数決は無効だよ』
『どうせ掃除するんだろぃ?』
『俺達は何があっても、明奈の味方だからな』
『一体何人で明奈先輩のこと責めてんッスか』
立海…
お前らは、私が守るから。
絶対に…私が守るから…。
私はもう、大切なものを
失いたくないんだよ――
『でもさぁ…酷い奴だよなぁ』
『許せませんよね、英二先輩っ!』
食堂から明かりが漏れていた。
盗み聞きって言うのはあんまり好きじゃねぇけど…偵察だ、仕方ない。
そう思い、私は耳を傾ける。
『大丈夫?翔子ちゃん』
『私は…大丈夫です』
翔子?
あのドブネズミ…何か吹き込みやがったな…!
『慣れてるんです…こうゆう事は…』
『今まで、酷い目にあってきたんだね』
『きっと…私に問題があるんです…』
『違う違う!きっとみんな翔子ちゃんを妬んでるんだにゃー』
にゃーって…お前はネコかよ!
ネコなら目の前に居るドブネズミに負けんなよ!
『私…怖い…。また今日みたいな事があったらって思うと…』
『大丈夫だぜ!俺達が守ってあげるから!』
『ありがとうございます…桃城先輩』
ハイ、ハートひとつGET。
桃城みたいな単純馬鹿のハートを掴んで、何が楽しいんだよ。
もう知らねぇ。
勝手にやっとけば良いだろ?
「ばーか」
私は小声で奴らにそう投げ付け、自分の部屋に戻ろうとした。
しかし…
『ホンマやのぅ』
相槌が返ってきたので、思わず声のした方を見る。
「
に…仁王…!」
『シッ』
声の主は仁王だった。
仁王は人差し指を唇に押し付ける。
「お前…盗み聞きかよ?趣味悪りぃな」
『…お前さんに言われたくなか…』
呆れた顔で私を見る仁王。
ま、どっちも似た者同士って事か。
『明奈、よく聞きんしゃい』
「?」
『今聞いた通り、奴等はもうお前さんの敵じゃ』
確かに…そんな感じだったよな。
"許せない"とか言われてたし。
『金輪際、アイツらに近寄るんじゃなか』
「…分かった」
『よし、良い子じゃ』
仁王は私の頭を撫でる。
オイオイ、私はアンタのペットじゃねぇぞ。
『今日は疲れたじゃろ?もう寝んしゃい』
「そうだな、おやすみ」
仁王に手を振って、私は部屋に戻る。
――バタン…。
部屋に入るとドッと疲れが込み上げてきた。
「優奈…」
『跡部も、みんなも…好きだけど…優奈ちゃんの事を話す時は、みんな別人になる』
「それが本性なんだろ?」
『違う!そんな人じゃ無かった』
――どんな奴らなんだよ…氷帝って…。
『お姉ちゃん!私氷帝に入ったの』
「凄いな、優奈」
『エヘヘ。みんな良い人だし、楽しくなると良いな!』
アンタが好きだった氷帝って、
どんな氷帝だったんだよ…?
『大切なものを失うかもな?』
優奈…
私が知ってる氷帝は
こんな奴らだぜ――?
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