シビアな状況
[明奈side]
『明奈ー、腹減った…』
いつも元気溢れる丸井の顔が、曇っていた。
「まだご飯の時間じゃないわよ」
『
俺にその言葉遣いはやめろぃ。気持ち悪い』
(STAGE.27 -シビアな状況-)
コイツ…今気持ち悪いって言ったか?
「丸井くん、後で私の部屋に来なさい。
たっぷり可愛がってあげるわよ」
『
遠慮するわ』
空腹で機嫌が悪いのか、丸井は私の言葉をサラッと受け流す。
丸井のくせに…生意気な。
後ろで氷帝軍団がマジマジとこっちを見てんだよ。
此処で雑な言葉遣いでもしてみろ。
一気に正体バレますからね。
『北川…じゃない、大和』
「
真田くんしっかりー」
どうやら真田はまだ私の偽名に慣れてないようだ。
お前唯一私を名字で呼んでた奴だもんなぁ。
『今日の夕食は俺達で作ることにした』
「え?何で?」
『朝昼晩、お前に無理はさせたくない』
「別に無理してないけど」
『氷帝、青学側は跡部の専属シェフが全て料理を担当しているらしい』
おーおー、良いご身分ですこと。
っつか、あの女は何してんだよ?
跡部景吾とイチャイチャしてるだけか?
連れて来た意味ないだろ。
「私は…アンタ達に無理させるわけにはいかないし」
『余計な事は考えなくて良い』
「いや、でも」
『
分かったな?』
「………ハイ…」
真田の三白眼に見事敗れました。
真田弦一郎…強し。
『あっちのマネージャー、何やってんッスかね?』
手を洗っていると、赤也が私に話し掛けて来た。
『仕事やってないんじゃ、来た意味無いッスよね』
「まったくだ」
『
城崎の悪口言ってんじゃねぇよ』
痺れを切らしたのか、宍戸が割って入ってくる。
あんな女の何処が良いんだか。
『お前が城崎に怪我を負わせたせいで、アイツは仕事が出来ねぇんだよ』
「あら、あの程度の傷…私だったら何とも無いけど」
『お前と城崎を一緒にすんじゃねぇよ』
『宍戸さん、そりゃ聞き捨てならないッスね。アンタのその言葉、差別ッスよ?』
赤也が宍戸を睨む。
私は内心ハラハラしながら、その状況を見ていた。
『切原…テメェ昨日からこの女を庇ってっけど、一体何なんだよ?』
『そりゃ明奈先輩は立海の…
い゙っ…!』
私は赤也の背中を思いっきり摘む。
お前…立海のマネージャーなんて言うんじゃねぇぞ?
調べられたら一気に正体バレるんだからな。
しかも私は今四天宝寺のマネージャーだし。
『立海の、なんだよ?』
『立海の……あ、アイドルなんッスよ!ちなみに俺は一目惚れッスv』
『ヘッ、くだらねぇぜ』
宍戸はそんな捨て台詞を残して、私達の前から去る。
ナイス、誤魔化し!
お前にしては見事だったぜ、赤也。
まぁ、事実だしな。
『痛いッスよ、明奈先輩』
「
悪り。お前が余計な事言いそうだったから」
『余計って…ホントに立海のマネージャーだったんだから良いじゃないッスか!』
「馬鹿、私は今"大和明奈"なんだよ。アイツらに北川明奈って事がバレちゃいけねぇの。立海のマネージャーっつって調べられたらやべぇんだって」
『そんなの、四天宝寺のマネージャーでも一緒じゃないッスか』
「四天宝寺には転入したばっかだからデータはねぇんだよ」
青学には乾っちゅーデータオタクが居るからな。
発言する時には気をつけた方が良い。
『俺ん中で明奈先輩はいつまで経っても立海のマネージャーなんッス!』
「分かってるって。お前はいつまで経っても私の仲間だ」
『明奈先輩…』
「
ってことで早く練習しろ。ホラ、みんな試合してるぜ?」
『うぉっ、やべ…!じゃ、俺行きますね!』
そう言って手を振る赤也に、手を振り返す私。
ほんっとアイツ…可愛いよなぁ。
弟に欲しいぜ。
ブーッブーッブーッ…!
ポケットに入っている携帯が振動する。
ディスプレイを確認すると、北川ファミリーの奴から電話が掛かっていた。
「もしもし」
【あ、アネキィ…!】
「何だよ、いきなり」
北川ファミリーは解散って言ったじゃねぇか。
今頃何の用だよ?
【あ、あのっ…アネキが居なくなって…アイツらがまた暴れ出したんッス…!】
「
はぁ!?」
あいつら…私が居ねぇと何にも出来ねぇのかよ!
手間の掛かる奴らだな…!
「そいつらに伝えてくれ」
【は、ハイ!何をでしょう!?】
「北川ファミリーのボスは今日からお前だ、ってな」
【え……は、はい…?】
「だから、お前がアイツらを仕切れって」
【………】
暫くの沈黙。
あのさぁ、電話でシーンとすると気まず
【
自分ッスかぁぁあぁぁあ!!】
うっせー!うっせー!
いきなり叫び出すな!
耳が潰れるだろ。
【じ、自分は無理ッス!アネキのようには、なれませんっ!】
「
元頭の私の命令は絶対だ。じゃあな」
【ア、アネキッ】
――ピッ…
私は静かに電話を切った。
こっちだって今大変なんだよ、お前らの相手なんてしてられっか。
溜息を吐き出し、私はコートに向かう。
先程までの賑わった様子は無く、ひとつのコートにやけに人が集まっていた。
『やっと来たな』
跡部がコートに立ち、こちらを向いてそう言っている。
も…もしかして…
「私…?」
『
俺と勝負しろ』
そして跡部はラケットの先端を私に突きつけた。
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