正体
[赤也side]
目の前であの跡部さんに勇敢に立ち向かう明奈先輩。
それは未だかつて
俺も見たことのない、
明奈先輩だった。
(STAGE.29 -正体-)
「明奈先輩って…こんなに強かったんッスか…?」
俺は明奈先輩から目が離せずにいた。
強いなんてもんじゃねぇ。
女子で跡部さんについていける奴なんて、いねぇぜ…?
『何だ、お前知らなかったのかよ?』
「丸井先輩知ってたんッスか?」
『当たり前だろぃ。みんな知ってるぜ?』
周りを見渡すと、みんなの冷たい目線が俺に集中した。
『赤也はホンマにアホやのぅ。何で明奈がマネージャーなったか、分かっとらんのか?』
「え…人手が足りなかったから?」
『不正解』
「じゃあ何で…」
『俺が…アイツのテニスに、一目惚れしたからじゃ』
仁王先輩が優しく笑う。
この人…明奈先輩の事になると顔が柔らかくなるよなぁ…。
って、そんな風に見えるのは俺だけか。
ペテン師だもんな、何考えてるかわかんねぇぜ。
「それって、
スコートに一目惚れしたとかじゃなくて?」
『
人を変態扱いするんじゃなか』
「痛っ…!」
仁王先輩からパンチ食らいました。
酷ぇよなぁ、冗談なのに。
ま、仁王先輩相手じゃ冗談に聞こえない部分はあったけどさ。
『仁王が必死になって説得するもんだから、一度明奈のテニスを見てみようって事になったんだ』
『幸村…必死にはなっとらん』
『あぁ、ごめんね。俺の偏見だったかな』
フフッと笑う幸村部長。
それがまた怖ぇーのなんのって。
口調は優しいのに、言ってる事は喧嘩腰なんだもんな。
俺もこの人には腰が下がりっぱなしだ。
「んで、どーだったんッスか?明奈先輩のテニスは」
『入学したての赤也よりかは手応えあったな』
「うわっ、ひでぇー!」
いちいち重いんだよなぁ、部長の言葉って。
俺今マジでショック受けたぜ…?
『まぁ。
強ち冗談じゃないけど、それは冗談で』
「ちょ…どっちなんッスか?」
この顔はマジだな。
相手が明奈先輩だから許すけどー…!
『女子がするテニスじゃない、って驚いたところで仁王が入部届け持ってきたんだ』
『ほんで入部じゃ』
「でもその入部届け、明奈先輩は名前しか書いてないんっしょ?」
『モチ』
「
ハメられたっつってましたもんね」
つくづく可哀想だよなぁ、明奈先輩。
いっつも仁王先輩にハメられてるところを見ると可哀想でしょーがねぇ。
ま、それも明奈先輩の長所なんだけどな。
『二人も勧誘したっちゅうのに、お礼貰っとらんぜよ』
『フフッ、そうゆう事は真田に頼んでくれ』
『…練習メニュー増量されそうで嫌やのぅ』
確かに、仁王先輩って勧誘上手だよな。
明奈先輩も柳生先輩も、仁王先輩が連れて来たんだっけ。
この人の目に狂いは無いけど…。
『次は誰を連れて』
「
ライバル増えて嫌なんでもう止めてくださいね」
あと一人連れてきたら俺のレギュラーの座が危ねぇじゃねーか。
でも俺は誰にも負けねぇけど。
つーか多分
ジャッカル先輩辺りが抜けだな。
『覚えとるか?幸村』
『勿論、覚えてるよ。あの時の明奈って』
『あぁ。確かこんな目付きしてたのぅ――』
仁王先輩と幸村先輩が微笑みながらコートに目を移す。
明奈先輩…。
悔しいけど、アンタ俺よりかっけぇよ。
俺より喧嘩も強いし、俺より度胸あるし、俺より仲間を思ってる。
アンタがマネージャーで…良かった。
『Advantage…跡部や』
忍足さんが悪戯に笑みを浮かべる。
何でそんなに明奈先輩を嫌うんだよ?
本当の明奈先輩を知らないだけじゃねーか。
悔しい…。
明奈先輩の良いところ、少しでも伝われば良いのに…。
『精市』
今まで黙って試合を見ていた柳先輩が口を開いた。
『非常に危険な状態だ』
『と言うのは?』
『風…先程より強くなっているのが分からないか?』
『
…カツラか』
幸村部長が溜息を吐く。
まー…そうだよな。
その反応は間違ってねぇよな。
テニスでカツラが吹っ飛ぶなんて、普通なら笑い話で終わるけど…。
明奈先輩の場合ちょっと違げーよな…。
どうかカツラが飛んでいきませんよーに。
『――ッ…!』
明奈先輩が急に目を瞑った。
眉間にシワを寄せながら、必死で目を開けようとする明奈先輩。
その様子をジッと見ていると、
――ポロッ。
明奈先輩の目から何かが落ちた。
目から何かが…
落ちた?
って、まさか…
カ ラ ー コ ン タ ク ト … !
『――…!』
跡部さんが反応した。
どんだけ目ェ良いんだよ、あの人…!
まぁ、俺も人の事言えねぇけどよ…。
そしてボールは跡部さんの横を通過した。
『お前…』
唖然とする跡部さん。
勿論俺も(違う意味で)唖然としていた。
- 29 -
*前次#
ページ: