さようなら


そして別れの朝、私は物凄い顔をしていた。

朝まで泣きはらした目はパンパンに腫れていて。

見るも無惨な姿になっていた。
















(STAGE.03 -さようなら-)








『おはよう』

「……え?」



ちょっと待って、何で君達が此処に…?



「飛行機の便教えたっけ?」

『馬鹿だな、明奈は。この手紙に二枚目がある事を知らなかったのかい?』

「二枚目!?」

『寧ろ君がどうやって此処に来たかが不思議なくらいだよ』

「朝、迎えの人が来てそのまま…」



動揺し過ぎて一枚目しか読んでなかった。

いや、読んだか?

それすらも覚えがない。

その点、君達はなんか凄いよね、相変わらず。

人の手紙をご丁寧に隅々まで読んでくれて。




『それにしても、凄い顔だね』

触れないでくれ

『気にするんだ、君でも』



君でもって何ですか。

そりゃあ気にしてますよ。

私を何だと思ってるんだ。




『明奈せんぱ〜い…』

「赤也」

『明奈先輩…敵になっちゃうんッスね…』

「……ん、敵?」

『これを見ろ』



柳が手紙を差し出す。

手紙を広げてみると、そこには確かに二枚の紙が入っていた。

私は二枚目を手にする。



「えーっと、飛行機の便は…って、これはもう良くて。転校先……大阪の…四天宝寺ィ!?

『そうゆう事だ』



し、四天宝寺って確か…テニス強いとこだよな。

よく知らねぇけどさ…。



『四天宝寺についてよく調べてみた。飛行機の中で読むと良い』



と、柳は資料を何枚か渡してくれた。

私の為に…調べてくれたのか?



「柳、お前…。実は私の事を」

好きでは無い

「酷っ!」

『だが、お前の事は結構気に入っていた』

「え?」



な、なんか…照れるな。



『精市と弦一郎のダブル説教を物ともせずに、再度同じ事を繰り返すその勇気がな』

あーそうですかそうですか




やっぱりそんな事かよ。

ケッ、少しはロマンチックな雰囲気にさせろってんだ。




『確かに、君には色々と苦労かけられたね』



と、ニッコリ笑う幸村。

これを、どう対処すれば良いのか…。



「ゆ、幸村も…真田も、迷惑かけたな」

『まったくだ』

「でも、もう迷惑はかけねーから!」

『ああ』

「四天宝寺の部長と副部長にたっぷり迷惑かけてくるからさ!」

この恥曝しが。自重しろ』



最後に鉄拳のようなツッコミをどうも。

説教されっぱなしだな、私も。



『しかし、お前の度胸だけは誉めてやろう』

「真田…」



初めて真田に誉められた。

こんな時だけど、なんかこう、じーんとくるぜ…!



『度胸はあっても、他には何もないがのぅ』

テメェ…私を騙してテニス部に入れた事忘れてんのかよ」

『騙したなんて人聞きの悪い。お前さんが悪いんぜよ?』

「あーあー確かに入部届けとは分からずにお前に情けを掛けて名前を書いた事には深く反省するよ、ごめんなさい、馬鹿ですみませんでしたね!



そうだよ、そうなんだよ!

お前が姉さんの病気を治す為に署名を集めてるとか何か意味わからねぇ事言ったせいで、私は幸村の奴隷にならなければいけなかったんだよ!

あたしゃ情に弱いタイプなんでね、簡単に乗っちまったよ!


こんな私でごめんなさいね!



『じゃが…俺はそんなお前さんも、嫌いじゃなかよ?』

「に、お…」



オイオイ、お前ら!

その貶してから誉めるやり方ヤメロよ。

普通に誉められるよりも嬉しいじゃねぇか…!



「私も……いや。この際ハッキリ言っとくぜ」

『何じゃ?』

「アンタらなんかより、私の方が何千倍もお前らの事愛してるんだからな!!



なんて変な事を口走れば、揃いも揃ってポカーンとした顔しやがる。

またやっちまったか…!



『クックック…!』

「おい、仁王。何笑って」

『やっぱり、お前さんは最高じゃ

「………」



このハゲ!

アンタは私の目をどんな酷い状況にしたいんだ?

既にこんだけ腫れてる目を…見えなくなるくらいに腫れさせるのかよ、バーカ!




「うっ…」

『大丈夫か?明奈…』

「ジャッ…カル」



ったく、何でお前はいっつもいっつもそんな寂しそうな目をしてやがるんだよ。

そんな目で見られたらこっちだって悲しくなるじゃねーか。



「おまっ…出て、くんなよ……」

『ス、スマン…』



謝ってんじゃねーよ、そこは突っ込めよ。

くそぅ…涙が止まらねぇよ。

後で鏡見るのが恐いぜ…(特に目の周辺)。




『明奈さん…』

「や…」



柳生ぅううぅぅう…!

何だか私、アンタに泣いてる所ばっか見られてないか?

カッコワルイぜ…。



『これで涙を拭いて下さい』



そう言ってハンカチを渡す柳生。

お、お前は…ッ!

こうゆう時まで紳士にならなくて良いんだよ!

涙だけじゃなく鼻水まで付けてやるからな、チクショー!




『おい、これ…やるよ』



丸井が私に何かを差し出す。



「ガ、ガム…?」

『俺のき、ちょーうな食料をお前にあげるんだからな。心して食えよ』

「ま…丸井。あ、ありがとう!これ食って…一人前のヤンキーになるぜ…!」

『…はぁ?』

『何言ってるんッスか!明奈先輩はもう立派なヤンキーッスよ!』

「そ、そうか…ありがとな!」




ありがとう、みんな…。


私は立派に旅立つよ!

今まで迷惑かけてゴメン。

何だかんだ楽しかったぜ。



本当にありがとう…!

そんな思いを残して、私は大阪へ旅立った。

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