跡部景吾
[明奈side]
風に吹かれ乾いた瞳から落ちた物体は
ダークブラックの
カラコンだった――。
(STAGE.30 -跡部景吾-)
ポロって何だよ、ポロって。
ヅラ以前の問題じゃねぇか!
『灰色の目…』
『そーゆう事かいな』
忍足はゆっくりと審判台から降りる。
マズイ…
完璧にバレた。
「あーあ…。バレたもんは、しゃあねぇな」
私は豪快にカツラを引っ張り上げ、投げ捨てる。
そして地毛の赤い髪を靡かせると、灰色のこの目で奴らを睨む。
「四天宝寺3年、北川明奈だ。ヨロシクな」
『北川…その名はもう、聞くことはねぇと思っていたんだがな』
「姉として…優奈の存在を消させはしねぇ」
絶対に、優奈の敵は討たせて貰うぜ?
『くだらねぇ…。お前とテニスなんて、するんじゃ無かったぜ』
「負けそうだったもんな?」
『口の減らねぇ奴だな』
跡部は勢い良くラケットを頭の上に掲げる。
『体で教えねぇと、分からないんだろ?』
そして更に勢いをつけ、私の頭上に振り下ろす。
――パシィッ…!
『「!!」』
私の目の前に、大きな背中が現れた。
その背中に纏っているユニフォームは、立海のでも、四天宝寺のでも無い。
彼は…
『手塚…!』
手塚国光、青学の部長だ。
手塚は振り下ろされたラケットを、素手で受け止めた。
青学って…城崎翔子の味方じゃなかったっけ…?
『手塚部長!何でそんな奴助けるんッスか!』
と、フェンスの外で叫ぶ桃城。
いやいや、助けられたとか思ってねぇから。
『喧嘩道具に…テニスを巻き込むのはやめろ』
『……チッ』
跡部は手塚の手を振り払う。
あらまぁー随分と、テニスLOVEな奴だな。
けど…氷帝の奴らよりかは、断然まともだ。
『明奈っ…大丈夫か!?』
四天宝寺の奴らが私の元に駆け寄る。
「うん。なんもされてねぇし」
『なら良かった。けど…』
白石が苦笑いで氷帝軍団の方を見る。
『正体、バレてもたなぁ』
そして私に向けて微笑む。
ごめんなさいね、白石クン。
君のレッスン無駄にしちゃって。
こんな事言ったらいけないけど、私は正体バレて良かったと思ってる。
所詮ヤンキーは、お嬢様にはなれねぇって事なんだよ――。
「跡部景吾…ッ!」
コートから出て行こうとする跡部を呼び止める。
跡部は立ち止まり、無言で振り向いた。
私は正直言って、アンタのこと大嫌い。
それでもずっとずっと
私はアンタを待ち続けた。
試合出来て良かった。
心からそう思ったよ。
「お前、やっぱ強ぇーわ」
『……』
テニスに関しては、お前の事を認めてやっても良い。
でも、私の怒りはまだまだ消えねぇぜ。
優奈が苦しんでる限り…私はお前らを許す事は出来ねぇんだよ。
『…殺したいほど憎い相手に、よーそんな事言えますわ』
財前は呆れたような、悲しそうな…複雑な表情で私を見る。
何でだろうな?
自分でもよくわかんねぇや。
だけど、跡部の正体…知ってっから。
アイツはきっと…振り下ろしたラケットを途中で止めるような、そんな奴だ。
「八方美人だから、だろうな?」
『
絶対違う思いますけど。八方美人は生徒殴り殺そうとしません』
「殺そうとはしてねーだろ。ちょっと威嚇しただけだ」
『
明らかに顔死んでましたけど』
どうやら財前は、私がナンパされた三人の男をボコボコにしていた場面が頭から離れないようだ。
まぁ、初対面がアレじゃ印象に残るのは仕方ねぇけど…。
早く頭の中からその記憶消してくれ。
『明奈はん、今日はゆっくり休みはる方がええ』
「銀さん…」
あんま喋った事無いけど、多分銀さんは私の事を一番よく見てる。
気配りが出来るっつーのかな。
今だって、私が体調悪いの…見抜いてるんだもんな。
「なら…お言葉に甘えて…」
あんま寝れてない上に、このハードな試合…。
体には毒だぜ。
『おう、真っ直ぐ部屋に帰りや』
「途中で曲がるけどな」
『
アホ。ギャグ古いねん』
謙也とのつまらない漫才を披露した後、私はコートから去った。
やべ…
足元が段々ふらついてきやがった。
『…!!』
途中で誰かとぶつかった。
「あ、悪り…」
『アンタ…』
「あぁ…?」
ってコイツ青学の選手じゃねーか。
今戦う元気ねぇよ。
「ちょ、出会わなかった事にして通り過ぎさせて貰うわ…」
『……』
私は本当にそのまま通り過ぎて、何事も無かったかのように部屋に向かって歩き出す。
にしても物分かり良かったなー今の奴。
帽子クン、ありがとう。
『北川明奈…』
「うわっ…」
スーパーウルトラ厄介星人に会ってしまった。
城崎翔子…。
今アンタの名前も聞きたくねーって…。
ぼーっと霞む目の前を、私はじっと見つめていた。
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