完璧な悪意
『まさか、アンタが優奈の姉だったとはね』
城崎翔子は腕を組みながら、フフンと笑った。
彼女の笑みの意味は
何なんでしょう――?
(STAGE.31 -完璧な悪意-)
途切れる息に、高鳴る鼓動。
立っているのも必死なくらい、頭がくらくらする。
『アンタの目…優奈を思い出してイライラする』
そんな城崎の言葉に対抗する気力も無く、私はただただ壁にもたれ掛かっていた。
跡部と同じような事言いやがって。
あー…今日はホント駄目だ…。
体が重い…。
悪いけど、無視させて貰うよ。
「――ッ…」
重い足を必死に動かして、城崎の横を通る。
何だ、この怠さは…。
結構重症だぜ…?
『ちょっと、待ちなさいよ』
城崎に肩を叩かれ、よろめいて尻餅をつく。
やりやがったな…。
『あら、いつもの威勢が無いと思ったら…アナタ体調でも悪いの?』
鼻で笑うように言葉を発する城崎。
顔見りゃわかんだろ。
お前の目は節穴か。
『フッ…。こんな絶好のチャンス、見逃す訳にはいかないわね』
「
…ッ、ちょ…」
強引に手を引っ張られ、外へと連れ出される。
やめろよ…何するつもりなんだよ…?
手を解きたくても、そんな元気は残っていなかった。
『此処は涼しいわね』
と言われ、連れて来られたのが…川沿い。
冷たい風が私の頬を刺激した。
『アンタなんて…優奈と同じように、さっさと消えれば良いのよ』
ポンッ、と背中を押された。
――バシャンッ…!!
案の定、私は川の中へドボン。
必死にもがいてみても、川は結構深く、小さな抵抗も掻き消されていく。
『いい気味ね。バイバーイ』
城崎は私を置き去りにして、その場を去る。
次第に私の意識も
遠ざかっていった――。
「―――…」
明るい光が私の目に入ってきた。
もしかして私…死んだ?
『…コイツ、目開けながら死んどるんちゃうんか?』
聞き覚えのある声が微かに聞こえてきた。
この声は…
――ガバッ!
『お、復活したばい』
「謙也…千歳…」
私…生きてた…。
なんで――?
『越前がお前を此処まで運んで来てくれたんや』
「越、前…?」
『ホラ、白い帽子被ったちっさい奴』
「…あぁ…!」
あの時スルーしてくれた子!
まさか命まで助けられるとは…。
『お前ホンマにやばかったんやで?』
「え…?」
『びしょ濡れで顔真っ赤にして』
「びしょ濡れ…?」
あぁ、そっか。
私アイツに突き落とされたんだっけ。
『
あぁ…!ち、ちなみに…』
「ん?」
『…目隠しして、やったから大丈夫や…』
「はぁ?」
『
聞き返すなドアホ!着替えはちゃんと目隠ししてやったから見てへん言うとるんや!』
「あぁ…。別にいいのに」
そんな事に拘りは無いんだけど。
第一、着替えて無かったら今頃高熱で死んでたかもしれねぇしな。
『
別にいいのに、て…。俺らの努力なんやったんや』
「…何?
"キャー、謙也くんのエッチ"とでも言って欲しかったのか?」
『いや、もう何でもええけどな…』
『
明奈に女の子を求めるのは無駄たい』
悪かったな、女の子じゃなくて。
ホント、めんどくせぇ奴ら。
「私、越前に礼言ってくる」
『オイ、まだ立たん方が…』
「いーよ、大分マシになったし。ありがとな」
そう言ってベッドから抜け出す。
全然体の軽さ違うぜ。
『明奈、ホンマ気ぃ付けや』
謙也が真剣な瞳で私に言う。
「何を?」
『何をて…。お前殺されそうになったんやぞ?』
『いい気味。バイバーイ』
…
謙也の馬鹿野郎。
思い出したら何か苛立って来たじゃねぇか。
「私が弱ってる時にしか攻撃出来ねぇ弱い奴なんて…怖くねぇんだよ」
『明奈…』
クソッ、腹立つぜ。
まぁこれが私だったから良かったものの。
もし他の奴に手出してみろ。
その時はお前を重りと共に川へサヨナラするからな。
――コンコン。
"越前・桃城"と書かれているプレートの部屋をノックする。
うわー桃城出てきたら厄介だな。
『おいッス、どちらさん?』
出たー!!
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