裏切り


『…!お前…』



桃城は私の顔を見るなり、険しい形相で私を睨みとばした。

面倒だ、帰ろうかな…。
















(STAGE.32 -裏切り-)













足を一歩後退させたその時、



『桃先輩、俺の客ッス』



帽子クンが出てきた。



『越前、テメェ裏切るつもりかよ?』



桃城は私を睨んだ顔と同じような顔で、越前とやらを見る。



『裏切る…?俺、テニスの合宿に来たんスけど

『――…!』



おーっと!良い事言った!

そうだよなぁ、これはテニスの合宿なんだよなぁ。


なのに何故私は川から突き落とされたんでしょうか?




『ってことで、他校のマネージャーさんから情報収集してきまーす』



越前はそう言って部屋の戸を静かに閉めた。

ま、情報はやらねぇけどな。






『よく俺の部屋来れたよね』

「あ?」

『桃先輩の名前書いてあるの、見えなかった?』

見えないわけねぇだろ。こんなデカく書いてあんのに」




確かに桃城には最小限会いたくねぇよ。

でもな、私は何も悪いことなんてしてねぇんだよ。



「疚しい事が何もねぇなら、堂々と会いに行ったって良いだろ?」



私が自信満々でそう言うと、越前は一瞬驚いた顔をして、フッと笑った。



『アンタ、最高だね』



越前は笑みを見せる。

コイツ普段ツンケンしてるけど、笑えば可愛いのに。



「あ、そーだ。助けてくれてありがとな」

『…かなり肩凝ったけどね』

ハイハイすんません、後で揉ませていただきます越前様



私そんなに太ったか?

あ、越前が小さいからか。



「ハハッ」

何笑ってんの?

「…すいません」



突っ込み厳しいな、越前。

自由に笑わせてくれたって良いじゃないか。



『それより、さ…』

「ん?」

『俺、見たんだよね』

「見たって?」

『アンタが川に突き落とされるところ』

「……」



見ちゃったんだ?

って事は当然あの女の本性も知ってしまったって事ですか。



『アンタとぶつかった時、様子おかしかったから』

「あぁ…、熱あったんだよ」

『うん。そうだと思って、後付いてったんだよね』

「ストーカーしたってわけか」

人聞き悪い事言うのやめてくれる?



越前は冷たい目で私を睨む。

悪かったって、ごめんごめん。



『アンタさ、相当恨み買うような事したの?』

「はぁ?してねぇよ。アイツとは合宿で初めて知り合ったんだよ」

『じゃあ何であんな事されるわけ?』



それはこっちが聞きたいんですが。

まぁ…考えられるとしたら要因はアレだよな。



「アイツの大嫌いな子が、私の妹だから」

『妹…?』

「そ、だからアイツは私の事が嫌いなんだよ。…分かった?」



跡部も多分、同じ理由だろ。

だけどその他の奴らは…私が城崎を虐めたから、だろうな。


寧ろ私が虐められてるっつーのによ。




『何となく、分かった』

「そーかいそーかい。なら今後は私の味方したり、私に近付かない方が良いぜ。…Bye」



私は格好良く英語でキメて立ち去ろうとした。



『俺の味方は俺が決めるよ』

「…はぁ?」



けれど越前の意味不明な宣戦布告に立ち止まってしまった。

何を言い出すんだ、このボーイは。



「アンタも川に投げ出されるぜ?」

『やれるもんならやれば良い』

「出来るんだよ、アイツらは。最悪な奴らだから、何しても平気なんだよ!」

自分が何もしてないなら、そんな事怖くないじゃん

「――…」



越前にそう言われて、ハッとさせられた。




さっき桃城が出てきた時、足が後退りしたのは…


何かされるのが怖かったから…――?




「…なら、勝手にしな」



私は越前に背を向ける。



怖いなんて思ってたら、復讐なんて出来ねぇのに…。











――こんなんじゃ駄目だ…!



私は一直線に走り出した。


























――バンッ!!


部屋のドアを勢い良く開ける。




城崎翔子っ!

『やっ…アンタ…何よ!?』



考えた。

また死にそうな思いをさせられるのが怖いなら…

相手にも同じ事をすれば良い。


それで五分五分だ。




「さっきはどうも〜」

『…ッ、生きてたの…?』

「…殺すつもりだったんだ?



私は冷ややかに笑った。

いや、笑い事じゃねぇけどな。


この女…限度ってモノを知らねぇ。




『何、しに来たの…?』

「勿論、さっきのお礼を」

『お…お礼…?』




――パァァアンッ!!


私は全力で城崎を叩いて、押し倒した。










嫌ぁぁあああ!!!



城崎の悲鳴が館内に響き渡った。

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