姉妹の絆


[明奈side]



あの子が笑えば私も笑う。


あの子が悲しめば私も悲しむ。


だからこの胸の痛みは、優奈が感じてる痛みそのものなんだよ…。















(STAGE.39 -姉妹の絆-)















『明奈、聞いてるんか?』

「ハイハイ聞いてますよ〜」

『なんやその顔は。喧嘩売っとるんか?』

「まさかまさか。あの謙也様に喧嘩を売るなんて恐れ多いですわ〜」



足を組んで、コートにあるベンチに座る私。

と、その横で目を三角にしながら怒る謙也。

後は周りに四天宝寺の奴らがチラホラと。



『貴様その顔やめい言うとるやろーが!』



お、貴様と来たか。

謙也の説教は時々漫才が入ってて、いつも話が逸れるから面白い。

本人には自覚が無いらしいけど。



『一体何があったんや?』



軽く溜め息を吐いた白石が私に尋ねる。

謙也じゃお話にならないからな、アホ過ぎて。



「言っとくけど、私は悪い事をしたなんて思ってないし、あの女に謝る気も更々無いからな」

『お前ホンマ頑固ちゃんやな』

「うるさい」



ガンコちゃんでも何でも私はタイマン勝負しただけだっつの。

アイツらみたいに束になって一人を狙うような卑怯な手は使ってねぇし。



『謝らんで良い』

「……。白石」

『あの女には謝らんで良い。けどな、明奈。お前は仮にも、一応、百歩譲ったとして、女の子なんや。それをよー覚えとき』

そんな言われ様じゃ覚えられねーよ



百歩譲って貰わないと女になれないのか、私は。



『ただでさえお前は氷帝の奴らに狙われてるんや。更に今は青学も加わっとるんやで?束になったらいくらお前でも敵わんわ』

「馬鹿言え。私の部下にも及ばない人数で私を殺めようなんて無理だっつの」

『アイツらは手段を選ばへん』

「ならこっちもそれ相応の手段を使う」

『お前はホンマ…あー言えばこー言う奴やな』

「イエスマンになった私なんて私じゃねえだろ」



我を通してこそ、私の性格は成り立つんだよ。

ま、そんな性格のおかげで両親に嫌われてたんだけどな。



『全然優奈ちゃんに似てへんな。ホンマに姉妹なんか?』



謙也が独り言のようにそう言った。



「はぁ?馬鹿言うんじゃねぇ、この美しい顔立ちを見ろ!優奈の分身みたいじゃねーかっ」

お前一回頭打った方がええんちゃう?

お前に言われたくねぇよ



確かに私と優奈は似てないよ。

性格も真逆、体格だって私みたいに逞しくない。

だけど、私達は正真正銘(華の)姉妹だっての。



「つーか、何で謙也が優奈の事知ってんだよ」

『俺何回か会ったことあるし』

「なんで?」

『白石とよー一緒に居ったから』

「誰が?」

『優奈ちゃんが』



クソめ、コノヤロー白石がァァァ…!

と言う思いを込めて、極上の怒り顔で白石を睨み付ける。



『ちょ、誤解や。俺が学校向かう方向と優奈がテニスクラブに向かう方向が同じやったから…!』

「…へぇぇぇえええ〜…」

『なんやねん、その嫌らしい顔は』



くっそ、私だって優奈とたくさんデートしたかったと言うのに。

白石と私の可愛い優奈が微笑みあってたかと思うとなんか腹立つな。

だけどあの子がそれで幸せならお姉さんの出る幕はないけどなー…!



「………ま、いっか。相手が白石なら。謙也だったらぶっ殺してたけど」

何でやねん



私は黙認することにするよ。

優奈を想う白石の気持ちは何となく分かったし。

この男なら合格だ、ウン。



「私と優奈はな、遠恋状態だったんだよなーずっと」

『そや、それ気になってたんや。何で優奈が東京で明奈が神奈川に居ったんか』

「あ、それは私が親に勘当されたから」

『『…え?』』



白石と謙也は声を揃えて驚いていた。

さっきから話を聞いているだけの財前も微妙に驚いているようだ。



「アレ?優奈から聞いてない?」

『俺は何も…』

「そっか、聞いてないのか」



隠しといてくれたんだな、優奈。



『勘当って…ホンマか?』

「本当だよ」



どんだけ親から罵られても平気だったのは、優奈が居たから。

あの時私を助けてくれたのは…支えてくれたのは優奈だった。



「私…優奈と違って荒っぽくて親の言い付けも守れないような駄目な子だったからさ」

『それでも勘当て…』

「まぁ、正確に言えば私が家を出てったからそうなったんだけどな」



あの時は感情的になってたけど、今思えば勝手な事をしたよな…。

勘当されて当然だった。



「それ以来両親は私とは関わらないようにしてたけど、優奈は頻繁にメールとか手紙を送ってくれてさ…」



あの子は私の唯一の支えだった。

それを失ってしまった今、私は何に寄り掛かって生きれば良いんだろうか。



「気に入らねぇんだ、あの女。私の宝物をボロボロに壊しやがった」

『俺も良い気はせぇへんけどな。あんま自分の体犠牲にして行動すんなや』

「……もう良いんだよ」



私はボソッと呟いた。

それが白石に聞こえていたかは分からない。

でも、私は確かにそう呟いた。







――もう、良いんだよ。




私は優奈を失った。


優奈を守れなかった。


それなのに…

自分を守るなんて出来ない。



優奈の為なら、命だって惜しくない。


私の全てを捧げる。



だから…優奈の記憶を返して欲しい。



いくら祈り捧げたって、いくら願い求めたって、そんなこと出来る筈ないのに。

それでも私は希望を捨てる事が出来なかった。


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