ルーキーの答え
『おはよーございます、期待のちびっ子先輩』
朝からクソ生意気なルーキーを発見した。
「おはよー、青学のちびっ子」
私も対抗して越前を挑発してみる。
今日はこんな会話で始まりを迎えた。
(STAGE.41 -ルーキーの答え-)
「今日でいよいよ合宿も終わりだな」
『………そうッスね』
「何だよ、私に会えなくなるから寂しいってか?」
『
あーハイハイ。そうかもね』
相変わらず可愛くない奴だ。
一言寂しいと言えば抱きしめてやっても良いのによ。
『結局俺達…この一週間、何やってたんッスかね』
「テニスじゃねぇのー?」
『…みんながテニスに集中してたと思うんスか?』
「ハッ、思わないけどな」
結局私達は、啀み合って僻み合って…何がしたかったんだろう?
何を…求めていたんだろう?
復讐なんてしたって、優奈の記憶が戻るわけでもないのに。
馬鹿みたいだよな。
「もうやめだ」
『…何が?』
「復讐なんて馬鹿馬鹿しい。何であんな奴に私の大切な時間を使わなきゃいけねぇんだよ」
『へぇ。それが…』
"アンタの答えなんだ?"
越前はそう呟くと、黙って私から離れて行った。
私の答えと言うよりも、優奈の答え…なんだよな。
あの子は私のことも氷帝軍団のことも好きだから、きっと復讐なんて望んでないだろう。
そんなこと最初から分かり切っていたのに…――。
「ゴメン…」
小さく囁いた私の言葉は、風と共にコートの方へ流れていった。
追い風に押されるように、コートに引っ張られるように、私は歩いた。
「…ん?」
青学、氷帝、立海、四天宝寺。
まるで公式試合のように、きちんと整列している奴らの姿が見えた。
あぁ、そうか。
この試合は、それほど大事な試合なんだ…。
『これで全員揃ったな』
私がコートの中に入ると、跡部が不敵に笑った。
氷帝側にはきちんとあのドブネズ…お姫様の姿があった。
コイツとの勝負は終わった。
もう話すこともなければ、会うこともない。
本当に、これで終わり。
憎しみなんて感情は厄介なんだよ。
でももっと厄介な感情が…
『お前、審判やれ』
「………」
この感情なんだよな…。
ええい、鬱陶しい。
話し掛けるな、こっちを見るな。
何だよ、この心臓の音は。
心臓ごとむしり取ってやりてぇ。
「い……、良いのか?私は敵だぜ?」
『お前なら正式なジャッジを下せると見込んでの指名だ』
「へぇ…分かってんじゃねぇか」
『ま、コイツらを納得させるには少々時間を要したがな』
跡部はチラッと青学側に目をやる。
…なるほどな。
コイツらが私を見る目は、まだ敵を見る目のままってわけね。
『部長が言うから認めたけど…俺は正直納得いってねぇッスよ』
桃城は相変わらず凄い目付きで私を睨む。
ハイハイ、分かってますって。
『ちょっと良いッスか』
帽子を深く被りながら言葉を発したのは、青学のルーキー。
越前リョーマ様々。
『どうした?』
跡部が越前に問いかける。
多数の視線が越前に集まっている中、越前はこう言った。
『俺、試合しないッス』
この言葉には誰もが驚きを隠せなかった。
強豪が揃うこの合宿で、一番試合をやりたかったのはコイツだろうに。
「ど、どうしたんだよ?コイツらと試合したかったんじゃねぇのかよ?」
『そうだけど…でも、出来ない』
「なんで…?」
帽子の鍔に隠れていた越前の目がこっちを向いた。
『この勝負は、俺が望んでたモノじゃない』
越前の発言に、一同沈黙。
どう言葉を発して良いのか、どの言葉を選べば良いのか、分からなかった。
『俺が潰したいのは、この人達であって…アンタじゃないから』
越前は私にそう言った。
その言葉の意味…私にはなんとなく分かるよ。
『どうゆう意味だよ、おチビ?』
『そうだぜ、越前!コイツは酷い奴なんだぜ!?だから俺達は』
『
桃先輩。この人に何かされたんスか?』
『え?い、いや…俺は…』
何かされたのは私の方だもんな。
あの時のビンタは結構痛かったぜ。
『俺達の敵はこの人達でしょ?他人の喧嘩に口出ししてる暇はないッスよ』
コイツ、結構口上手いな。
他人の喧嘩か…言ってくれるじゃねぇの。
『フフッ。確かに、俺達が介入する問題じゃなかったみたいだね』
『…そうだな』
幸村と跡部は笑みを浮かべる。
『………そう、だよな。俺、熱くなって周り見えて無かった』
『桃……。そだね。北川さん、酷いこと言ってごめんね』
『すいません…ッ』
桃城と菊丸が頭を下げて謝る。
なんか…そんなクソ真面目に謝られるとこっちもどうして良いのかわからねぇんだけど。
『北川、部員の失態について俺からも謝ろう。すまない』
「い、いや…もう、良いよ。別に気にしてないし」
手塚から謝られると妙に怖いんだが。
困った私は越前の顔をチラッと見た。
『これが、俺の答えッス』
越前は私の顔を見ると、生意気に笑う。
「なるほど…そうゆうことね」
つられて私の顔からも笑みが漏れた。
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