怪しげな計画
[翔子side]
『なら、俺達は俺達の為の練習試合をすれば良いんだろ?』
景吾の言葉に納得したみんなが頷き、散らばり始める。
ウォーミングアップをする為に、軽いラリーをしたり、外周を走り始める部員達。
そんな中、私だけは呆然と立ち尽くしていた。
(STAGE.42 -怪しげな計画-)
どうしてこうなるの?
みんな私の味方だった筈なのに。
景吾も、侑士も…青学のみんなも…。
どうしてみんな笑顔なの?
私の仲間も、北川明奈の仲間も居なくなった。
いや、違う…私の仲間だけが居なくなった。
そう思うと恐怖心だけが降ってきて、震えが止まらなくなった。
「――ッ…」
私はテニスコートを飛び出した。
落ち着け、私。
いずれこうなることは分かっていたの。
景吾が妙な態度を見せ出したあの時から…。
――ブーッブーッブーッ
マナーモードにしていた携帯がポケットの中で震えだした。
まさか…。
慌てて携帯を取り出すと、ディスプレイに出ている名前を見ることもなく電話に出た。
「もしもし…!?」
【よ、成功したぜ】
その一言を聞いて、思わず武者震いをしてしまった。
保険をかけておいて良かった。
これで邪魔者は消える。
「ありがと」
【で、どうすれば良いんだよ?】
「そうね…車を寄越すからこっちに連れてきてくれる?」
【分かった】
そこで会話は途絶える。
上手くやってくれたみたいね
と笑みを浮かべた私は、合宿の入口に行き、彼らが来るのを待った。
近くにベンチがあったから、そこに座った。
あまりに日差しが気持ち良くて…瞼が段々落ちて行く。
知らない間に、私は眠りについてしまった。
『俺が好きなのは、君じゃない』
夢の中で誰かが私にそう言った。
シルエットを見ただけで気付いた。
私の…好きな人。
『サヨウナラ…』
段々小さくなって行く背中。
私は必死に追い掛けた。
走っても走っても届かない…。
嫌だ…
行かないで…
「
――待って…ッ!」
悪夢に魘されるように飛び起きた。
そこには驚いた二つの顔が…。
「…あ」
『倒れてるのかと思ったぜ』
いつの間にか地面に寝そべっていたらしい。
取り敢えず、全体の砂を払って立ち上がる。
「二人だけで来たの?」
『いや、車にあと四人と、お前に頼まれた奴…連れて来たぜ』
「フフッ…ありがと。じゃ、案内するからこっち連れて来て」
私が目で合図すると、車から何人か降りる。
私の仲間と、目隠しをして手を拘束された…北川優奈が。
『何を…するの…?』
優奈は肩を小さく震わせ、脅えていた。
そりゃそうよね。
これから何をされるのか、この子には分からないんだから。
「おとなしくこっちに来なさい」
『誰…?』
「私が誰か…分からない?」
『…知ら、ない……分からない…』
優奈の様子が不自然なことに気付いた。
まさかこの子…記憶が…?
「アンタが私にしたこと、覚えてないの?」
『…何も…思い出せない……』
なるほど、そうゆう事。
だから学校に姿を現さなかったってわけね。
ま、此処にはアンタの居場所なんてもう無いんだけど。
「何でも良い、とにかく来なさい」
大切な囮…だからね。
逃がすわけには行かないの。
「あそこに倉庫があるから、そこで待ってて」
『お前はどうすんだよ?』
「私は…重要人物を連れてくるから」
北川明奈…アンタが居ないと始まらないの。
これから面白い物語、見せてあげる。
『優奈が…!?』
コートに入ると、北川明奈の慌てた声が聞こえた。
どうやら、もう連絡は行ってるみたいね。
「北川明奈、話があるの」
『今それどころじゃねぇんだよ、どけ!』
「そう…、それが優奈の話だとしても?」
『!!』
北川明奈の表情が変わった。
気付いちゃったのかな?
そこまで鈍感じゃないみたいだね。
「他の人に気付かれないように、そこの倉庫まで来て」
『……、分かった』
馬鹿正直なこの女のことだから、きっとホントに気付かれないように来るでしょうね。
これからどうなるかも知らずに…。
『お、早かったな』
「…まぁね。これから面白いもの見せてあげるから、楽しみにしてて」
高らかに笑いたい気持ちを押さえ、私は倉庫で北川明奈を待った。
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