懐かしの面々


[明奈side]


お母さんから一本の電話が入った。

その内容は


"優奈が誘拐された"















(STAGE.43 -懐かしの面々-)















『そう…、それが優奈の話だとしても?』



あの女が優奈を連れさらったことは目に見えている。

だけど、アイツが今一番憎んでいる優奈を連れさらって何もしない筈がない。


チクショー、手の震えが止まらねぇぜ…。



『明奈、どうしたんだい?』

「幸村…」




『他の人に気付かれないように、そこの倉庫まで来て』


確かあの女はそう言ってたよな…。

一体何がしたいんだよ?

ワケわかんねぇよ、もう。



「私ちょっとトイレ行って来るから、ウォーミングアップ終わったら審判頼む」

『分かった、ジャッカルにやらせておくよ』

「あぁ。ごめんな、頼むぜ」



苦笑いを残してコートの外へ出たけど…足が重くて一歩踏み出すのに戸惑ってしまう。

こんな所で躊躇したって意味ねぇだろ…。

それよりも、ちょっとでも早く優奈を助けることが先決じゃねぇか。



「――…ッ」



意を決心した私は約束の倉庫へ向かう。

高鳴る鼓動が鳴り止まない。

正直嫌な予感しかしないけど、到着しないことには何も分からない。



頼む、無事でいて――











ガラッ…




静かに扉を開けると、一番最初に飛び込んできたのは優奈の姿。



「優奈…ッ」

『!』



自分を呼ぶ声に反応する優奈。

良かった、まだ何もされてないようだ。



『ちょっと遅いんじゃない?待ちくたびれたっての』

「お前…こんな事して無傷で済むと思ってんのかよ」

『やだ、怖〜い。…でもまぁ、無傷で済まないのはアンタの方だけど』

「アァ?」



城崎は優奈の腕を掴んで引き寄せると、ポケットからカッターナイフを取り出した。

そして鋭利に尖ったナイフの先を、優奈の首に突き付けた。



『抵抗したら刺すからね』

「なんの真似だよ」

『まだ分からないの?私の狙いはアンタなの。アンタを懲らしめる為に、優奈には囮になって貰ったわ』



ってことは、最初からコイツの目的は私だったってわけか…。

それならそれで安心なんだけどな。



『なら、みんなヨロシク。死なない程度にやっちゃって』



薄暗くて顔がよく分からないけど、城崎翔子の仲間が何人かちらほら見えた。

ホント卑怯な奴らだな。

私は逃げも隠れもしないから、来るなら来いよ。



『ちょっと…早くボコボコにしちゃってよ』



どうやら何か揉めているようだ。

城崎翔子の焦っている様子が窺える。



『ストレス溜まってるんでしょ?私が良いストレス発散用意してあげたんだから、やりなさいよ』

『ば、馬鹿野郎…出来るわけねぇだろ!



今の声は…何だか聞き覚えがある。

最近聞いたような…誰だったっけ…。

喉の奥まで出かかっているけど、そこから先がなかなか出てこない。

思い出そうと必死に頑張っているうちに、男達が私の近くまで来て



『すいませんでした…!!アネキの妹さんとは知らずに、申し訳ないことをしてしまって…!』



と頭を下げた。



「………あ」



思い出した。

合宿中に電話してきたアイツだ。

確か総長を任せた筈だけど…こんなところで何してんだ。



『ちょっと…アンタ、裏切る気!?』

『お前、喧嘩売る相手間違ってんだろ!』

『アネキ…会いたかったッス!!』



よく見れば見知った顔がたくさんあった。

何だか懐かしいな…北川ファミリー…。



『いや〜アネキの妹さん、美人ッスね〜』

「だろ?つーかお前目隠しとロープ取れよ。可哀想だろ」

『あっ、ハイ…!すみません!』



解放された優奈の視界と手。

これでひとまず安心だな。



『にしても…何でアネキがこんな所に居るんッスか?』

「それはこっちの台詞だろ」

『あ、そッスよね、ハハハ』



和やかな雰囲気に包まれる中、穏やかでない女が一人居た。

物凄い形相で私を睨んでいる。

自分の計画が壊れ、プライドまでもズタズタにされたわけだもんな。



『…るせない…』

「あ?」

『アンタだけは…許せない…!』



城崎は冷静さを失い、発狂していた。

これはまずい…と、私は優奈を引き寄せた。



『私の計画を…アンタはぶち壊した…!』

「それは悪かったな。私は計画通りに進められると困るもので」

『景吾も侑士も…アンタを嫌ってた筈なのに…!』

「確かに、めちゃくちゃ嫌われてたな」



『…どうして…?』




城崎翔子の目から、一筋の涙が落ちた。

どんどん溢れ出す涙は、一体何を訴えているんだろう…――





『どうしてみんな…私の前から居なくなるのよ…ッ!』




城崎翔子は側にあった古いラケットを手に取り、私を目掛けて振り上げた。

落ちてくる位置は分かっていたので、受け止めようと身構えた。


けれど…













『――お姉ちゃん…ッ!』








優奈のその一言で、注意力が散乱してしまった。






受け止めれた筈なのに。




身構えていた筈なのに。








ラケットが降ってくることよりも、優奈が発したその一言が…





私の頭を支配した。























バキッ…!!








ラケットが私の頭に当たって折れたところまでは覚えていた。

けれどその後、私の意識は徐々に徐々に…私の体から消え去って行った。

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