緊急事態


[優奈side]



私は誰なんだろう…


この人達は誰なんだろう…



ずっと、暗闇の中で彷徨っていた。
















(STAGE.44 -緊急事態-)














「お姉…ちゃん…」

『私…知ら、ない…。この女がよそ見したから…!』



頭から血を流して倒れているこの人は…大好きな、お姉ちゃん…。

思い出したのに…大切なモノを取り戻したのに…それと引き替えにまた奪われて行く。

嫌だ…怖いよ…独りぼっちはもうやだよ…。



「お姉、ちゃん…死なないで…お姉ちゃん…ッ!」



呼びかけるけど全く反応が無い。

気が動転していて、何をして良いのかが分からない。

私は冷静な判断を失っていた。



ガラッ…!



どうした!?

「――ッ…」



勢い良く開いた扉の向こうに、人が駆け付けていた。

今なら分かる…この顔…。



「け、い…ご…」

『!優奈…』



景吾が私の名前を呼んだ。

私の事を、忘れていた筈なのに…。



『明奈…オイ、しっかりしろ!』

『跡部、頭打ってるみたいや』

『チッ。病院までヘリで運ぶか』

『俺の親父の病院ならこのすぐ近くにある筈やで』

『よし、なら案内しろ』



何、コレ…どうなってるの…?

どうしてお姉ちゃんが此処に居て、景吾と侑士…それに翔子も此処に居るの…?

分からない…一体何が起きてるの…?



『あっ…』

「!!」



白石…くん。

四天宝寺の白石くんまでどうして此処に…。



『なんで優奈が此処に…』

「白石くんこそ…」

……え?



白石くんは驚いた顔をして、私の肩を強く掴んだ。

痛い…と言えないほど真剣な眼差しを私に向けて。



『お前、記憶戻ったんか!?』

「私が記憶失ってたこと…知ってるの…?」

『覚えて…ないんか?』

「何を…」












「白石くん…ッ!!」












頭の片隅にあった記憶が、私の頭を走り抜けた。

そうだ、私は…。



『お前は、俺を助けて事故にあったんや』

「そっか…そうだったね。白石くんが無事で良かっ……」



顔を上げた瞬間、またもや力強く…今度は抱き締められた。

こうゆうの、卑怯だよ。


涙が溢れそうになるから…。



『俺なんか助けんで良かったのに…もうあんな無茶はアカンで』

「何言ってるの。白石くんが生きてたんだから、私の無茶は無駄じゃなかったんだよ」

『アホ。お前記憶なくなったんやぞ。ホンマ…もう一生俺のこと思い出せへんかと、思った…ッ』



白石くんの肩が、微かに揺れていた。

ごめんね、悲しい思いをさせて。

私、大切な思い出を忘れるところだった。



『これは…ヤバイかもしれへんな』

『どうゆう事だ?』

『傷がかなり深い…最悪の事態も有り得るで…』

『クソッ…!ヘリはまだか!?』



私と白石くんは顔を見合わせた。

最悪の事態…。

そんなの考えたくない…やだ…やだよ、お姉ちゃん…。



『跡部さん!ヘリが到着しました!!』

『よし!樺地、コイツをヘリまで運べ!』

『ウス…!』



大きなヘリの音も、私には聞こえなかった。

お姉ちゃんは、私の為に…私のせいで…。

自分を責めることしか…出来なかった。



『俺達は一足先に病院へ行く!お前らは後からバスで来い!』

「ま…待って…!私も…!!」

『無理だ、これ以上人は乗せられねぇ。病院はそう遠くは無い、バスでもそんなに時間は掛からない筈だ』

「だけどお姉ちゃんは私のせいで…」

『嘆くのは後にしろ。今はとにかくコイツを病院に運ぶ事が先決だ、どけ!』



私が一歩後ろへ下がると、景吾は力強く扉を閉めた。

ヘリはそのまま空高く飛び上がり、病院の方向へと向かっていった。



『優奈、俺達もバスで後追うで』



白石くんに腕を引っ張られ、バスに乗り込む私。

嫌な事ばかりが頭を過ぎってしまう。

もしかしたらもうお姉ちゃんは…。


ううん違う、そんな事は無い。

だってお姉ちゃんは、無敵のお姉ちゃんだから…――












『跡部、明奈の容態は?』

『幸村…。分からねぇ、今手術中だ』



上に赤いランプが光っていた。

手術中の合図だ。

私は勿論、此処に居る全員がどうすることも出来ず、ただただお姉ちゃんの無事を祈るだけだった。



『優奈、愛してるぜ!』




お姉ちゃん、ごめんね…。

私、お姉ちゃんに頼ってばっかりだよね。

いつでもお姉ちゃんに助けて貰ってた。

それなのに、私はお姉ちゃんを傷付ける事しか出来ない。

今回だって…。


だからお願い、お姉ちゃん。



私に直接、謝らせてよ…――









何時間か経って沈黙が慣れ始めた頃、赤いランプが消えた。

それと同時に、お医者さんが慌ただしく出てきた。



「あのっ、お姉ちゃんは…!?」

『手術は成功しました。けれど…』



お医者さんの言葉には、誰もが息を飲んだ。

曇った表情に、心臓が高鳴る。



『傷が深いので、後遺症が出る恐れがあります。最悪の場合、目を覚まさないと言うことも…』



一瞬、頭が真っ白になった。

ショックのあまり、意識が朦朧とする。








――ガタンッ…!







『優奈!』



そして私はそのまま意識を手放した。

- 44 -

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