真実の扉


[翔子side]



何を馬鹿正直に…本音を話してるんだろうって思う。

でも、私にはもう何も残ってない。

最後だけは…自分に正直になってみても良いかな、なんて。

そう思ってしまったのは、あの女と出会ったからなのかもしれない…。
















(STAGE.52 -真実の扉-)













「ジロー先輩が…優奈を好きって聞いた時、尋常じゃない程の裏切りを感じた…。私がジロー先輩を好きになって一番に相談したのは、優奈だったから…」



優奈…私はごめんなさいなんて言わない。

アナタに言う言葉じゃないもの。



『それは…俺が勝手に優奈ちゃんを好きで…!』

分かってる!…けど、恐かったの…優奈に裏切られるのが…」




優奈は…真っ直ぐだった。


ある意味、私の憧れだったのかもしれない。

そんな憧れの人に裏切られるのが、恐かった…。




「裏切られるのが恐くて…裏切った…」



優奈が裏切る筈がないって、分かってた。

でも、もしも…私を裏切ってたら…?

そう考えただけで、頭が真っ白になった。



「結局、私も…優奈のことが信じられてなかった…」



過去から抜け出すことが出来ないの…。

信じるのが恐い…だから、疑うことしか出来ない…。



「ジロー先輩、いつも作り笑顔を向けてた私が…中々起きないジロー先輩に怒った時のこと…覚えてますか?」

『…うん、覚えてるよ』

「その時ジロー先輩は、“怒ってる顔の方が可愛いね”って…言ってくれたんです」



この人は、本当の私を受け入れてくれる…そう思った。

今まで外側しか見てくれなかった人達とは違う。


私の素の部分を、見てくれてるんだ…。




「本当に嬉しかった…」





涙が止まらない。

なんでこんなに苦しいんだろう…。


どれだけ涙を流しても、この苦しみは消えてくれない。




「ジロー先輩、私ね…親友に、裏切られたんです」

『え…?』




今まで誰にもしたことのない話…

もう、隠す意味もないよね。




「頭も良くて運動も出来て…自慢の親友だった」

『……うん』

「でも、ある日。私はその大好きな親友に…殺されそうになった」



無意識のうちに、体に力が入った。

思い出すだけで…震えが止まらない。








「助けて…熱い…熱いよぉぉぉおおおお…!!!!















「…ッ…」



言葉が喉に引っかかった。

きっと本能が、これ以上言葉にすることを危険だと感じているんだろう。


だって、ほら。


あの時の光景が鮮明に思い出されていく…――。






































『翔子、翔子!』



私の手を引っ張っては、キラキラした笑顔で笑うの。



「待って…ハルちゃん…!」



引っ込み思案でおとなしい私とは正反対で、活発で明るい女の子。

そんな彼女に誘われて、よく二人でテニスをしてた。




『翔子、中学に上がったらさ、一緒にテニス部入ろうよ!』

「えっ…わ、私に…できるかな…」

『できるよ!翔子とテニスするの、すっごい楽しいもん!』

「ほんと!?」




岩崎遥香は…唯一無二の親友だった。


私には彼女が必要で、彼女には私が必要だった。




『翔子、明日朝練一緒に行こうよ!』

「うん、私も誘おうと思ってた」



朝練も自主練も、全然苦じゃなかった。

彼女が居たから、テニスが好きだから。

暇さえあれば練習してた気がする。

私の頭の中は、テニスのことでいっぱいで…。




『翔子。来週、試合に出ろ』




だから、先生にそう言われた時は…本当に嬉しかった。

1年にして、私はレギュラーの座を勝ち取ったんだ。




『おめでとう』

「ハルちゃん…。ありがとう!」




アンタの喜びは私の喜びだと…言ってくれた。

本当に、本当に嬉しかった。




「…私の靴が…」

『みんな翔子のこと妬んでんだって、気にしちゃダメだよ!』

「うん、ありがと」




周りから妬まれたって、嫌がらせを受けたって、平気だった。

だって私には、大切なものがある。

ハルちゃんとテニスがあれば…何も要らない。


何も…――






『翔子、ちょっと良い?』

「…何?」



周りはいつでも敵だった。

妬み、悪口、嫌がらせ…そんなものは慣れていた。




『なんであんた…ハルカと一緒に居るの?』

「…え?」




でも、それが偽物だったと気付いた頃には、もう手遅れだった。




『今、テニス部の部室に行ってみなよ…全部、分かるから』

「………」






私は走った。




この時、どんな気持ちだったかなんて覚えてない。

ただひたすら…走った。

私こんなに速く走れるんだってぐらい、全力で。


それなのに…

部室の前で、ピタリと止まって動かない私の足。



ハルちゃんが私を裏切る筈がない。



だって、私達は…


唯一無二の親友――














ガリッ…ガリッ…ガリッ…



「…!」




音に釣られてついに開けてしまった、扉。


これが真実の…扉だった。


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