明かされる過去



「ハル、ちゃん…それ…私のラケット…」

…!!翔子…』




ハルちゃんは、勢い良く私のラケットを投げ捨てて…


その場から走り去った。

















(STAGE.53 -明かされる過去-)














残されたのは、傷付いたラケットに、傷付いた私…そして、虚無感。



「…私、の…」



私はボロボロになった自分のラケットを拾い上げ、抱き締めた。

まるで…同じように傷付いた自分自身を、包み込むかのように。



「…うっ……うぅ…」



ガットが切り刻まれて、グリップテープは全て剥がされ、木の部分が丸見えの状態だった。

ずっと一緒に戦って来た、パートナー…。


あまりにも無惨な姿に、抑えることが出来ない感情。

心はすっかり枯れ果てているのに、私の瞳は涙を枯らすことがなかった。









「ハルちゃ…ん…。どうして……?」



ハルちゃんとやりとりしていた手紙達が、私の視界に入って消えてくれない。






“翔子とずっと一緒にいられますように!”





お守り型に折られた手紙の表面に、書かれていた文字。

私はそんな…表面的な愛情が欲しかったんじゃない。


私は…

ハルちゃんの気持ちを…本当の気持ちを、知りたかった…。




「…いってきます」




朝練に行く道程。

ハルちゃんと一緒に歩いた道。


ずっとずっと、この道を…一緒に歩んでいきたかった…。




その日、ハルちゃんは朝練に来なかった。




『翔子の悪口を言ってたのも、翔子の変な噂流してたのも…ハルカだから』



みんなが次々に口を合わせて言う言葉。

それが本当か嘘か、そんな話はどうでも良い。





『翔子…』





あの時の…ハルちゃんの目。

今まで見たことのない、私に対する憎しみの目…。

全てを物語っていた。




『私たちも…最初はレギュラーになった翔子を妬んでた』

『でもね。段々エスカレートしていくハルカが…怖くなったの』




怖い…ハルちゃんが…。




『率先して、翔子の持ち物全て切り刻んでた』

『その時のハルカの目…』





ハルちゃんのあの目が…


怖い…








『異常だった…』










コワイ…――















『翔子…』










































『翔子』

「!!ハル、ちゃん…?」



私の目の前に現れたハルちゃん。

悪びれたような顔をしてた。



『アンタと…ゆっくり話がしたい』

「…ハルちゃん…」



生まれて初めて授業をサボって、ハルちゃんと話し合うことにした。


私の気持ち全てをぶつけたら、

ハルちゃんもきっと…分かってくれるよね――




「…何、このニオイ…」



部室に入った瞬間、異臭を感じた。

次の瞬間、








――ボゥゥゥッ!





「…え…?」



目の前が炎に包まれた。

真っ赤に染まる…私の視界。



「ハルちゃん…なんで…」

『アンタが…憎かったんだよ。絶対私の方が頑張ってるのに、顧問に好かれてるってだけでレギュラーになって…』

「だからって、こんな…!」

私が誰かに負けることなんて、許されないの!!




灯油を撒いていたのか、迷うことなく燃え上がる部室。




「助けて…ハルちゃん…熱い…」

『翔子…私は、アンタが大嫌い』

「ハルちゃ……」

『アンタなんか、消えれば良いのよ!!!』




そう言って、ハルちゃんの足音が遠ざかっていく。

苦しい…息が出来ない…。




「助けて…」




目が開かない……涙が…止まらない。

煙のせいか、それとも…。




「熱い……」




どうして私がこんな目に遭わないといけないの…?


ハルちゃん…







「助けて…熱い…熱いよぉぉぉおおおお…!!!!
















大嫌いだよ――
























































朦朧とする意識の中、出口を見つけた。


人一人通れるくらいの隙間がある。


周りが火に囲まれていることなんて気にもせずに、無我夢中で飛び出した。


私の右腕は赤色に染まって…




その後は、よく覚えていない。


誰かが水をかけてくれたような気がする。



とにかく熱くて、痛くて…私は意識を手放した。




























目覚めた時には病院にいた。


あれだけの煙を吸って…生きていたのが奇跡だって、お医者さんはそう言った。

右腕は火傷による損傷で、今まで通り動かせなくなった。

私の生活からテニスが消えた。


大好きなテニスも、大好きな親友も…

もう私には残っていなかった。




「…ハルちゃん…」






ハルちゃん…岩崎遥香は、


唯一無二の親友だった。



私には彼女が必要で、彼女には私が必要だった。




でも、そう思っていたのは



私だけだった――


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