言葉の裏側
[明奈side]
『……っく………
うわぁああああ…!!』
「え…?」
隣に居る優奈が、いきなり大声で叫びだした。
私は勿論のこと、この病室に居たみんながポカンと…丸い目で優奈を見つめていた。
(STAGE.55 -言葉の裏側-)
『うぇ…っく…っふ…』
「え……は?ちょ…いきなりどうしたんだよ…?」
は?なんて言葉、生まれて初めてこの子に向けたかもしれない。
ボロボロと涙を零しては拭う優奈。
私と跡部は顔を見合わせるしかなかった。
『ひっ…く…翔子……』
「翔子…?」
城崎の話は一旦落ち着いただろ?
何でこのタイミングで…?
わっけわかんねーよ、優奈…。
『わ、たし…っく…』
何かを必死に伝えたそうな優奈。
でも、上手く呼吸が出来ないみたいで、何一つ伝わって来ねえ…。
『…ッ…』
優奈は何やらコンセントのようなものを抜いた。
【火をつけるって…なんでそんなこと…】
「ん…?」
何だ?今の音…こえ…?
優奈がポケットの中から機械を出して、それをいじっている。
ノイズの混じった声が、どんどんボリュームを上げた。
【ハルちゃんの両親はとても厳しかった。一番が当たり前。一番でないと、それはもう強くハルちゃんに当たり散らした】
「……城崎…?」
優奈はイヤホンを耳から取り外した。
さっき抜いたのって…これだったのか…。
【じゃあ、翔子ちゃんがレギュラーになったことで…】
【…今となっては想像にしか過ぎないけど、ハルちゃんの制服の下に隠れていた痣は…きっと全部、私のせい…】
誰だ…ハルちゃんって…。
レギュラー?
何だ?何の話?
【私は今でも、そのトラウマを克服出来てない…】
話についていけない…。
のは、私だけじゃねえよな…?
周りをキョロキョロ見回すと、多分同じ事を考えてるであろう奴らが
眉間に皺を寄せてこの変な機械に聞き入っている。
【合宿初日…北川明奈と夕食を作ることになった】
「え?」
トラウマから…なんで急に私の名前が出てくんだよ?
わ…私は何もしてねえぞ、おい。
【本当は火にも近付きたくなかったけど、北川明奈の前で強がっていたかった。弱い部分があるなんて悟られたくなかったの】
――火…?
あの時の、話か…?
やっと思い当たる節が見つかって、私の耳は自然と吸い寄せられた。
そこで語られていた真実は、まるで物語の裏側を聞いているかのように
私の胸に衝撃を残した。
【あれは…事故だよ。明奈ちゃんは、そんなことする子じゃない】
そうだ、確かに事故だった。
私にとっては…ただの事故。
【そんなこと…わかんない。私を本気で殺すつもりだったのかもしれない】
アイツは…
アイツにとっては…
【この女は私を憎んでる…殺されるって、そう思った】
とんでもない恐怖だったってことか…?
『大和先輩が…わざと…火を付けて…』
完全に芝居だと思ってた…。
いや、でも…
『いい気味ね。バイバーイ』
な、なんだよ…城崎ってなんなんだよ…?
もう、わかんねーよ…!
【どうして…こうなるの…?私はただ好かれたかっただけなの!愛して貰いたかったの…!!】
「…跡」
『うるせー黙れ』
「………ハイ…」
いや、分かるけど。
そんなストレートに言わなくても良いじゃねぇかよぉ…。
【君がトラウマになってるのは…炎じゃない】
【え…?】
【大好きな親友が…ハルちゃんが居なくなったことでしょ?】
大好きな、親友…。
コイツにもそんな存在が…。
【だったら、もう一度ハルちゃんに会って来なよ。それで、真実を確かめるんだ。彼女もきっと、翔子ちゃんのことを大切に思ってたはずだよ】
【ハルちゃん…】
『私はまた…害虫駆除で忙しくなりそうです』
『アンタなんて…優奈と同じように、さっさと消えれば良いのよ』
『仲間も記憶も全て失っちゃえば?』
『いい気味ね。バイバーイ』
あの嘲笑ったような笑みの裏に、アイツは何を抱えてたんだろうか。
そして、何と戦っていたのか。
私は城崎の心の奥を…読み取れなかった。
【…無理、です】
【どうして…?】
【 ハルちゃんは、もうこの世にいない 】
――ドクンッ…!
「…え…?」
『どうしてみんな…私の前から居なくなるのよ…ッ!』
この時、城崎のあの悲しそうな顔が
あの言葉の意味が…
頭に貼り付いて離れなかった…――。
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