初めて告げた思い


偽っていた仮面を外せば

映るのはきっと

本物の私たちの姿――














(STAGE.58 -初めて告げた思い-)













「大好きだったよ。素直で、真っ直ぐで、何事にも一生懸命で…」



そんな優奈と、醜い自分を比べてたんだ。

私が本当に憎くて、本当に大嫌いだったのは…私自身だった…。




『翔子…お願いがあるの』

「私に…?」




淑やかさの中に見える逞しさ。

そしてこの灰色の目が、私の意識を掴んで離さない。




「いいよ、何でも聞いてあげる」




もう、守るものなんてないもの。

プライドも何もかも粉々に崩れ去った。

いとも簡単に…


私が今まで守ってきたものって…何だったんだろう?




『じゃあ、約束して…。もう、過去を振り返らないって』

「…え…?」

『もう…掴めない過去を追い求めないで』

「優奈…」

『過去には届かないんだよ!そんな過去に囚われて、自分を傷付けないで!お願い、だから…!』




優奈が私の…傷だらけの両手首を強く握り締める。

全部、私のカッターが傷付けた跡。

これを持つと安心して、ハルちゃんを思い出しても…痛みが全部忘れさせてくれた。

醜くて大嫌いな自分に、制裁を与えてくれた。

ハルちゃんが居なくなったあの時から…今まで。

ずっとずっと、私の暗い部分を見てきたこのカッター…。




「捨てる、の…?」




優奈はイエスともノーとも言わなかった。

それは、優奈に問い掛けた質問じゃないって…分かったからなのかな。




「私を正せるのは、私しか居ない…その役目を、このカッターが果たしてくれてた」




そんな気がしてた。

だから、ずっと手放せずに居た。


でも…コイツは私の大切な人を、傷付けた…。




「私は…」




これを持ってるから、私は自分も…大切な人さえも…守れないんだ。

思えばこれを持った瞬間に、私の人生は歪んで行った。




「私には…」












『翔子、ずーっとずーっと!何があっても友達だからね!!』



『翔子はさぁ、もっと自信持ちなよ!!』



『ホントだって!親友の私が信じられないのかぁ!?』



『例え誰一人翔子を愛さなくなっても、私が愛してあげるから!』




『翔子』














!?





優奈…。

封印してた記憶を、解放させてくれたこと…感謝するよ。




「…フッ…ははっ…」




こんな時になって、思い出すなんてね…――









『翔子』



『ごめん、ごめんね…』



『こーするしかなかったの…』




『私は…あの人に逆らえない……』











途切れ途切れの記憶から拾い集めた、ハルちゃんの言葉。

そして、ハルちゃんの行動…。

そう、私に水を掛けてくれたのは…ハルちゃんだった。





優奈、ごめん!!私、行かなきゃ!!!

『えっ、行くって何処に!?』

「ハルちゃんは私を裏切ってなんか無かった!だとすれば…!!」

『すれば…!?』




ここで、私はある考え難い結論に至っていた。

ハルちゃんは…もしかして…。




「ハルちゃんは…ハルちゃんは、自殺じゃないのかもしれない!」

『えっ…!?』

「優奈、ごめん!ヘリ貸して!!」

『翔子…私も行く!!』




優奈と一緒にヘリに乗り込めば、ジロー先輩が横たわっていた。

私の…大好きな人。




「ジロー先輩…ごめん、ね…」




ジロー先輩の顔を見たら、また…涙で目が滲んだ。

私はジロー先輩の手を握った。





お願い、ジロー先輩…


私に…

この長年の蟠りを拭い去る勇気を…――







『…んがっ…zzZ…』

「…え?」

『…え?』




それ以上の言葉が、私にも優奈にも出てこなかった。

いつの間にか爆睡していたなんて…。

でもこの時…本当に安心して、本当に嬉しくて…涙が止まらなかった。




『翔子…ジロー先輩生きてたね』

「…うん…よかっ…た…よかったよぉ〜…」

『コラッ、ジロー先輩!!』




優奈はジロー先輩の頭を叩いた。

その反動で、金色の髪が色んな方向に散らばる。




『ん…んん〜…おわったの〜?』

『終わった?』

『…あれぇ…ココ、どこ…?』

『空の上です』

『え…えええ〜っ…!!!痛っ…』




傷を負ったことも忘れ、勢い良く体を起こすジロー先輩。

しかしすぐに思い出したようで、右腕を痛そうに押さえている。

そんなジロー先輩を、ただ申し訳ない思いで見ることしか出来なかった。




『…あれ。なんで翔子ちゃん泣いてるの〜?』

「……ジロー、せんぱい…ホントに…ごめんなさい……ッ…」




傷を付けたのに…それでも普通に接してくれるジロー先輩。

どう言って良いか分からないけど、不安ではち切れそうだった心が、救われたような気がした。




『いいよ〜気にしてないC〜…って、あれ?優奈ちゃんなんでココに?』

『病室出るとき、ジロー先輩に付けた盗聴器を頼りに…』

『えっ…そうなの〜?いつの間にそんな悪い子に』

『まぁまぁそう言わずに』




ジロー先輩も、優奈も…笑っていた。

随分久しぶりに見たような、心の底からの笑顔だった。


大好きな人が、大好きな友達の笑顔が、こんなに力になってくれるってことを

以前の私は知ってたのかな――



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