妹との再会
私はただただ固まって呆然としていた。
大好きだった妹から…まさかこんな事を言われるなんて…。
(STAGE.07 -妹との再会-)
「…優奈…じょ…冗談だろ…?」
『?』
優奈はポカーンとした顔で私を見つめる。
嘘?冗談?
違う、私の妹はそんな器用な事を出来る子じゃない。
いつだって素直で真っ直ぐで…可愛い、妹…。
「優奈…まさか『
優奈…ッ!』
バンッ、と乱暴に玄関のドアを開けて出てくるお母さん。
その表情は物凄く焦っていた。
「お、母さん…?」
『明奈…』
お母さんは私を不安げな表情でジッと見つめる。
何…?
お母さんのその目は…私に何を訴えてる…?
「一体…どうなってんだよ…?もしかして優奈は、記憶『
明奈ッ!!』
『――ッ…』
お母さんが声を荒げると、優奈が震えだした。
『ご…ごめんなさいね、優奈っ。大丈夫だから…家に入ってなさい』
お母さんは家に優奈を押し込めるように入らせた。
そして私達のところに近寄る。
『…気付いて、しまったのね…』
「優奈は…記憶喪失、なのか…?」
『……ええ…』
お母さんは俯いてそう答えた。
私は白石と顔を見合わせ、息を飲み込む。
『病院で目を覚ました頃には…もう全てを忘れていたわ』
「何で…どうしてこんな事になったんだよ?」
『詳しくは分からないわ。けれど…あの子の体に無数の傷があったの』
「傷…?」
『そうよ…。痛々しくて…見ていられないくらいの…傷が…』
お母さんは涙を流し始める。
そんなお母さんを見て…チクッと胸が痛む。
『きっと…あの人達が付けた傷よ…』
「あの人達?あの人達って…」
『氷帝学園の生徒よ』
「氷帝…だと?」
『えぇ…多分…、テニス部の…』
確かあそこもテニス強かったっけ。
全国大会に必ず出場してたよな。
『明奈、お願いがあるの』
「…お願い…?」
『優奈の代わりに、貴方に北川財閥を継いで欲しいの』
「………」
私は激しい怒りを感じていた。
私の可愛い妹を、何処の何奴か分からない奴に傷付けられて…。
それで私が黙ってる筈ないだろ…?
「私が継ぐ必要はねぇよ」
『明奈…?』
「懲らしめてやる、そいつらを」
『こっ…』
「そしたら…優奈に継いで貰えば良い」
それが今、私に出来る唯一の優奈を救う方法。
アンタのピンチに気付いてやる事が出来なかった。
こんな姉ちゃんで…ごめんな…――。
『ホンマに言うてるんか?』
白石を家まで送る道で、彼は私に言った。
つーか、本当は逆なんだけどな。
何でお前が私に送られてんだよ。
「当たり前だろ」
とは言ってみても…どうやって懲らしめれば良い?
大阪に引っ越して来たばっかりなのに、氷帝に引っ越すなんて無理だし。
私は考えた末に白石に尋ねた。
「白石…何とかならねぇか?」
『……何も考えて無かったんかい』
白石は呆れ顔で溜め息を吐く。
そして思いついたようにこう言った。
『せや。合宿をやればええんちゃう?』
「…合宿?」
私が眉間にシワを寄せて白石を見つめると、
『良いか?よー聞きや』
と言って話し出す。
『明奈は元立海のテニス部マネで、今は四天宝寺のマネージャーや』
「おう」
『明奈のコネで立海の奴らを集めて、勿論俺達も参加する』
「それで?」
『強豪二校が揃うんや。氷帝が参加せぇへん筈ないやろ?』
「まぁ…確かに」
『で、そこに青学も加えて、合宿の開始や』
「……出来るのか?」
と、私が半信半疑で尋ねると、白石がこう言った。
『妹の為なんや。やるしかないやろ?』
その言葉に武者震いをした。
今あの子の中に私は居ない。
私との記憶は全部…消えてしまったんだ。
それもこれも、全てアイツらのせい。
許せるわけが無いんだ。
「よし、やるぜ。私は立海の奴らに頼んでみる」
『ほな、俺は明日みんなに伝えとくわ』
「悪りぃな、ヨロシク」
そう言って手を振って、私は自分の家まで走って帰った。
「ただいま」
『明奈…さっきの話…』
玄関を開けると、お母さんが心配そうな顔をして駆け寄って来た。
ごめんね、お母さん。
この怒りだけは…収まりそうにないや。
「お母さんは何も心配しなくて良いから」
『でも…もし貴方に何かあったら…』
「今まで何回も危険な場面に遭遇したけど、何事も無くピンピン生きてんだ。大丈夫だって」
自信満々に笑顔を向けると、視界に優奈の姿が映った。
ゆっくりと優奈の方に近付くと、段々と明確に見えてくる無数の傷。
色白で華奢な体には何とも不似合いだった。
『あ、の…』
困ったように私をじっと見つめる優奈。
その表情に、胸の奥が熱くなって、涙が零れそうになった。
「姉ちゃんが…助けてやるからな」
と、一言だけ残して、私は自分の部屋に移動した。
氷帝の奴らを懲らしめたって、優奈の記憶が戻る訳でも、誰かが幸せになれる訳でも無い。
それでも、この抑えられない気持ちを、妹を失った私の怒りを、氷帝の奴らに伝えたかった。
お前らはこの私を怒らせたんだ。
覚悟しろよ?氷帝軍団…――
そして私は携帯を取り出し、幸村に電話をかけた。
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