SOSの電話
[幸村side]
5時間目の休み時間。
鞄の中で震えている携帯を手に取った。
(STAGE.08 -SOSの電話-)
ディスプレイに映る名前を見て、俺は軽く溜息を吐く。
こんな時間に一体何の用なんだろう?
「…もしもし」
取り敢えず電話に出てみる。
【ゆ、幸村ぁ…!!】
電話越しに聞こえる声は、微妙に震えていた。
もしかして…泣いてる?
「明奈…?」
【うっ…お前の声聞いたらなんか安心して目から鼻水が…!!】
「
ハイハイ、涙が出ちゃったんだね」
泣いてるのかギャグかましてるのか、全く分からないから。
相変わらずのテンションだな。
【もう私…どうして良いかわかんねぇよ…ッ!】
そう言って泣き叫ぶ明奈。
俺の方こそどうして良いか分からないんだけど。
「何かあったのかい?」
【妹が…優奈が…ッ】
「優奈って…明奈が溺愛してたあの優奈ちゃん?」
【あぁ…今日久しぶりに優奈に会ったんだ…】
「うん。それで?」
と、聞き返した瞬間、ガラッと教室のドアが開いた。
「あっ…明奈、ごめん。先生来ちゃったから、また後で掛け直す」
明奈にそう告げて、電話を切る。
その時間ずっと、俺は電話の内容が気になって仕方なかった。
妹に何かあったのかな…?
『精市、話がある』
部活が始まる少し前、蓮二にそう言われて、俺は蓮二についていく。
「なんだい?」
『噂で聞いたのだが…青学、氷帝、四天宝寺が強化合宿をすることになったらしい』
「へぇ…何でまたその三校が?」
『否、三校だけでは無い。その中に…立海も入っているらしいが』
蓮二のその言葉を聞いて、俺はピンと来た。
もしかしてさっきの電話…。
『お前が許可したのか?』
蓮二にそう問われ、
「…多分、俺が許可した事になるんだろうね」
とだけ言って、俺は携帯を取り出した。
「後は本人に聞いてみる事にするよ」
『本人?』
「何か事情がありそうだし、一応合宿には参加するって形で進めておいてくれる?」
『…分かった』
蓮二はそう返事すると、コートに向かって歩き出した。
その背中を見送り、俺は着信履歴を見る。
そして一番上にある"北川明奈"の所で、ダイヤルボタンを押す。
【幸村!】
と、勢い良く電話を出る明奈。
「ねぇ、明奈。合宿って…何の話かな?」
【…あ。もう聞いたのかよ…?】
「君は仮にも四天宝寺の生徒なんだ。勝手なことをされたら困るんだけど」
【うっ…ス、スマン…】
これくらいは言わせて貰わないと。
強化合宿に参加するのは俺達なんだからね。
【でも…】
明奈がゆっくりと口を開いた。
【今回だけは…頼む…】
「明奈?」
【私が妹にしてやれるのは…これくらいなんだ…】
妹…?
そう言えば、さっきの妹の話って…。
「それは…妹が関係してるのかい?」
【ああ。お願いだから、黙って私の頼み…聞いてくれ】
これだけ弱ってる明奈の声を聞くのは珍しかった。
そんなに頼まれたら…嫌なんて言えないだろ?
「合宿の目的は…何なんだい?」
【…私が狙うのは氷帝一校のみ】
「氷帝?」
【アイツらが許せねぇんだ。だから…】
明奈はそこで暫く黙り込んで、信じられない言葉を言い放った。
【アイツらに復讐する】
俺は目を見開いた。
今まで明奈の口から"タイマン""乱闘""喧嘩"、そこら辺の単語は聞いたことがあっても…
"復讐"なんて聞いたことは無かった。
一体…大阪で何が起きてるんだ?
【取り敢えず、明日氷帝に行って偵察してくるからよ】
「本気で言ってる?」
【冗談で此処までしねぇよ】
どうやら明奈の決意は固いようだった。
まぁ…一回決めた事を投げ出す人間では無かったけれど。
「なら、その言葉遣いはやめた方が良いんじゃない?」
【あぁ?言葉遣い??】
「北川家の跡取りらしく、上品にいかないと」
【馬鹿野郎、跡取りは私じゃねぇよ】
「でも、妹がどうなってるかは知らないけど、今は明奈が跡取りなんだろ?」
今までの話からして大抵の事は読める。
妹に何かが起きて、その何かを起こした原因が氷帝で、氷帝に復讐する為に明奈は合宿を計画した。
きっとそんなところだろう。
何が起きたかは知らないけど、明奈が決めた事なら…俺は協力するよ?
【分かった。サンキュー、幸村】
「どういたしまして」
【合宿は二週間後だからな】
「あぁ、楽しみにしてるよ」
とだけ言って、電話を切った。
氷帝が何をしたかは知らないけど…あの明奈が本気で怒るくらいだから、きっと凄い事をしちゃったんだろう。
俺は仲間として、明奈を守るだけ。
無いとは思うけど、明奈を傷付けちゃったその時は…
俺も許さないからね――?
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