敵状視察


[明奈side]



程良く日差しが差し掛かる朝。

私は氷帝の服を身に纏い、コスプレをしていた。
















(STAGE.09 -敵状視察-)














「目の色はこれで良いのかよ?」



実は私のお父さんはイギリス生まれの大富豪。

いわゆるハーフというやつだ。

私も優奈も、目は灰色に近い色をしていた。



『あら、そっちの方が威厳あるじゃない?』



と、強気で言うお母さん。

何気に私を応援してくれてるみたいだ。

ま、それもそうか。

自分の娘を記憶喪失に追い遣った氷帝軍団と実の娘なら、普通は実の娘を応援するだろ。



「じゃ、東京まで行ってくる」

『明奈…ホントに気をつけて…』

「大丈夫だって。私タフだから」



無理に笑顔を作って、背中を向ける私。

此処まで来てアレなんだけど…実を言うとすげー不安で。

喧嘩は強くても、心はそこまで強くない。

そこはやっぱり女なんだな、私…。

ただ一つ、優奈を想う気持ちが支えになってるだけ。

この気持ちが無くなったら、私はきっと壊れてしまう――。











「…ッ」


どれくらい寝ただろう?

ふわふわと浮く飛行機の中で、私は目を覚ました。



「…東京…」



華やかに栄えている数々のビルが、小さな窓から見えた。

この中に、私の敵がいる。

心臓が高鳴っているのが分かった。

不安と決意が入り交じった、複雑な感情。


氷帝学園とは、一体どんな所なんだろう…?









明奈!



空港に辿り着くと、後ろから私を呼ぶ声がした。

その声はどこか懐かしくて。

振り返って見ると…見慣れた顔があった。



「お…父さん…」



お父さんが東京に居るのは分かってた。

だけどまさかこんな所で会うなんて…。



『久しぶりだな』

「な、何で此処にいんだよ…?」

『母さんに聞いてね。迎えに来たんだ』

「そうか…、ありがと」



久しぶりに会う父親に、照れを隠せない私。

ぎこちない態度をしていると、お父さんが私に束になった紙を渡して来た。



「何だよ…これ?」

『氷帝学園、テニス部員のデータだ』

「ちょ、氷帝のテニス部って…200人以上いるんだぜ!?」

『あぁ、知ってるよ。だからレギュラーの情報を中心に集めた。準レギュラーは大雑把な事しか載せて無い』

「へぇー。それでも結構な枚数はあんだな」



と、分厚くなった紙の束をペラペラと捲る。



『明奈…辛くなったら、お父さんに言うんだぞ』

「サンキュー、お父さん。でも大丈夫だから」

『なら良いが…お前は仮にも女の子だからな。そこら辺忘れるんじゃないぞ』



仮にもって…何気に毒舌になったな、父さん。

まぁ確かに女の子らしくない女の子だけどさ。



『おっと、時間がない。お父さんはもう行くからな』

「うん。忙しいのにありがとな」



私は手を振って、お父さんの後ろ姿を見送った。

忙しいのによくもまぁ此処まで個人情報を集めれたもんだ。

お父さんのその努力…無駄にはしねぇからな。

と、心に誓いながら、私は資料に目を通す。


まず最初に浮かび上がった人物…跡部景吾。

氷帝学園中等部からずっと部長の座をキープしている。

容姿端麗、成績優秀、財閥の息子、で…おまけにテニスも強い。

才色兼備とはまさにこの男の為に作られた言葉だな。

ハッキリ言って、私はパーフェクト人間は嫌いだ。

自分が欠点だらけの人間だからかな。

完璧な人間は異常に腹が立つ。

でもまぁ…これくらいの奴の方が、倒し甲斐あるよな。


会うのが楽しみになって来たぜ――。










『起きてください、着きましたよ』



と、お父さん専属の運転手さんに起こされる。

なんだかんだで私寝過ぎだよな…。

キンチョーなんて普段しねぇもんだから、疲れが溜まってんだよ。



『こちらが氷帝学園です』

「どーも」



と、車から降りれば、目の前には小綺麗な学校が。

これが氷帝か…。



『いってらっしゃいませ』

「行ってくるぜ。サンキューな」



と、会話を交わして、私は氷帝の領地に入っていく。

どうやら今は授業中らしい。

校舎には生徒の姿は無かった。







――キーンコーンカーンコーン



と、丁度良くベルが鳴る。

それと同時に、生徒達の賑やかな声が聞こえて来た。

昼食の話、授業の話…たわいない話が私の耳に入る中、変わった話をしている人達が居た。





『あの女、最近学校に来てないみたいね』

『そりゃそうでしょ〜。跡部様を敵に回した時点でもう終わりよ』

『そう思うと結構ネバった方よねぇ』



あの女って…優奈のこと…?



『城崎だけは敵にしない方が良いわね』

『そうね。あの子、跡部様に気に入られてるみたいだし』



城崎…?

どうやら、話を聞く必要があるみたいだな。




「ちょっと良いかしら?」



と、幸村の言った通り上品に話しかけてみる。

一応私も財閥の娘だからな。

これくらいは出来る。



『貴方、氷帝の生徒?見ない顔ね』

「あら酷い。影が薄いから目立たないだけで、正真正銘氷帝学園の生徒よ」



この言葉遣いに違和感と吐き気を覚えた。

私じゃねぇぇ…!



「私普段学校に来てないもので…城崎って誰か分からないんだけど」

『あぁ、城崎?貴方も気をつけた方が良いわよ』

『城崎翔子はテニス部のマネージャーなの』

「テニス部のマネージャー?」



そんな情報、私の手元には無かったけど。



『最近入部したらしく、今ではレギュラーにちやほやされてるわ』



なるほど、最近入部したから情報が無いのか。

後でお父さんに情報収集頼んでおこう。



『城崎は北川優奈ってゆう子と仲が良かったんだけど…』

「…北川、優奈…」


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