Act.9 しみの感染







これほど強い憎しみには



覚えがない。






ただただ俺は、あの人の為に戦う――









































-Act.8- の合図



















「…クソッ…クソォォオオオ…!!!




静かな校舎に切原の叫び声だけが響く。

彼は今涙を止める術を知らない。

この溢れる想いは、ジャッカルに対しての…申し訳なさ。

自分に対しての…不甲斐なさ…。



「アイツ等…許さねえ…!」



絶対に、潰す。

それも全て…ジャッカルの為に。





――ザッ…





その時、後ろから砂の混じった足音が聞こえた。

まさかあの二人が…、そう思いながら後ろを振り返った。



「なんだ、切原じゃないか」



まだ汚れを知らないその声は、河村だった。

取り敢えず切原は胸を撫で下ろす。

涙を拭って、立ち上がる。



「河村さん、どうも」



平然と装う切原の裏に潜んでいる、悪。

仲間…そんな奴は此処にはいない。

それを河村に教えているかのように醜い心が、切原にはあった。



「何だか大変な事になったな」

「…そうッスね」

「乾や海堂は…本当に、死んだんだろうか…」

「…わからないッス」



乾と海堂は死んだ、切原はそれを知っていた。

だけどそれを教えてしまっては、河村はきっと自分を警戒する。

そう思った為、分からない振りをした。



「俺の武器、扇子なんッスよね」



そう、切原の武器は扇子。

いわゆるハズレ武器。

これでは自分を守る事も、相手を殺す事も出来ない。

そう思った切原は作戦に出る。



「河村さんの武器は?」

「俺のは槍だ」



シメた、切原は自然と笑いが込み上げた。

この戦いでは…人を信じた奴が負ける。

無防備な奴が、死ぬ。



「悪いッスね、河村さん」

「――ッ…!!」



そう言って河村の武器を奪い取る切原。

河村はいきなり焦りだして、後退る。




「な、何するんだよ…切原…?」

「俺…この戦いで死ぬわけには…いかないんスよ」



自分が死ぬと言う事は、ジャッカルの想いを無駄にすると言う事。

それだけは絶対に出来なかった。

例え誰かをこの手で葬らなければならないとしても…――



「みんなを殺して、俺が生き残る」

「き…切原…」



それしかジャッカルの為に出来る事が思い浮かばなかった。

自分を命懸けで守ってくれた、ジャッカルの為に…。




「冗談、だろ…?お前はこの戦いを、一番反対してたじゃないか…」

「…分かって下さい。俺だって…、こんな事をしたくはなかった…」



仲間を裏切りたくはなかった。

けれど、何よりも…ジャッカルの行為を裏切るのが今の切原にはどうしても出来なかった。



「スンマセン…河村先輩…ッ!!」

































――グサッ…!!






























グハッ…!!

































赤也が振り下ろした槍は河村のお腹を貫通した。

河村が血を吐き出す。

それと同時に返り血が自分に降りかかる。

最悪の感覚に、最悪の感触。

人を殺すと言うのが、これ程不快だとは思わなかった。




「…ッ…許してください…」




無理矢理止めていた涙が、再び溢れ出す。

そして切原は河村をソッと寝かせる。

河村の顔の上に、涙が数滴垂れた。



「…サヨナラ…」



そう言って河村が眠る、その場を後にした。






































死者:青学三年 河村隆
残りの人数:27名























――…


「どんどん減っていきますね」

「涙ながらの戦いも、最初のうちだ」



狂魔と焼魔が暗闇の部屋で語り合う。



「しかし、減るペースが多少遅い気がしますが…」

「私達が参上しましょうか?」



絞魔と爆魔が狂魔に話しかける。

狂魔は少し考えた後、



「そうだな…」



と呟いた。

絞魔と爆魔は"了解"と言って、ニヤリと笑う。

顔まで覆われた布を取れば、青光りする絞魔の黒髪と、爆魔の鮮やかな金髪が光る。



「銃を持って行くなよ。戦いが終わってしまう」

「わかってますよ」

「それなら…槍を貰っていきますね」



二人は高まる想いを押さえる事が出来ずに、部屋を飛び出す。



「久しぶりですね、絞魔と爆魔が参戦するのは…」

「あぁ。不動峰・山吹・聖ルドルフで起こしたBRは、最初から10人は死んでいたからな」

「最終的には全員爆死しましたがね」

「あれはつまらない終わり方だったな」



はぁ、と溜め息をつく狂魔。



「今回で終わる事が出来るだろうか…」

「それは…わかりません」



二人が抱える闇は、この暗闇よりも深く…

決して光が点る事もないのだと、そう感じさせるような闇。




「BRの始まりは私達の代だったよな」

「もう三十年以上前になりますかね」

「いつになったら終わる事が出来るんだ…」




狂魔は悲しそうに、そう…囁いた。

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