Act.11 を探して




目には目を、歯には歯を。




そう言う諺があるのなら、今の状況はまさにソレ。






醜い生き物には醜い世界を…。


























何処かは分からない。






何故かも分からない。











俺達は、光の無い舞台で踊らされている――





























-Act.11- を探して
















「もうきっと…このBRは一生終わらないよ――?」




そう言って微笑んだ爆魔の顔は、何処か悲しげで。

思わず息を飲み込んでしまう程に…深い瞳。

きっと自分達には分からない深刻な想いが、彼らにはある。

跡部はそう思った。




「終わらない…。いや、終われないんだ」




絞魔もまた、悲しげな笑顔をしてそう言った。


一体このBRとは…何が目的なんだろう?

自分達に何を求めて、何を得ている?


考えてみても、跡部には到底分からない事だった。




「死んでいく仲間を見て…今は悲しいだろ?苦しいだろ?…でもな、人を殺していくうちに…忘れるんだ」



爆魔の瞳に、吸い込まれていく。

顔をそらす事が出来ない、動く事が出来ない。

まるで魔法にでも掛けられているかのように…。




「もう、心なんてねぇんだよ。俺達」





ゆっくりと槍が動き、先端の鋭い刃が跡部の喉元に到達する。

跡部は体を自由に動かす事が出来ずに、汗を一筋…垂らすだけ。


そんな跡部を見て、爆魔はニヤリと笑う。




「大切な人の為に…自分が死ぬ?甘いんだよ、考えが」


「――ッ、うるせぇ…」




跡部は何とか腕を動かして、爆魔が持つ槍を掴む。




「お前はもう、立派な人殺しだ。その服に付いた返り血が、何よりの証拠だろ?」


「…ッ、うるせぇ…!!!」




叫んだ拍子に掴んだ槍を投げ飛ばすように押し出すと、爆魔が二歩三歩、後ろへ下がる。

服にこびり付いているこの血が、自分の罪を示しているようで嫌だった。

けれどこの血は、自分を庇って仲間が死んだ事を忘れない為の…暗示。

忘れてはいけない仲間への想いが、この二人の化け物によって崩されようとしている。


それが今の跡部の恐怖、日吉は何となくそう受け取れた。





そんな恐怖、俺が打ち消す。






そう決心した日吉は、ソッとベッドの下から出てカーテンに隠れる。

カーテンのすぐ向こうには、絵梨香がいた。

今、自分と絵梨香の間には薄いカーテンのみ。

絵梨香は跡部の背中に隠れている為、爆魔と絞魔から自分の姿は見えない。

日吉にとって丁度良い位置だった。






「(…酒本先輩)」


「……!」




小声で絵梨香を呼びかけると、絵梨香は微妙に反応した。




「(アイツ等にバレないように前を向いていて下さい。返事も結構です)」





日吉に言われるままに、絵梨香は行動する。


何故此処に日吉が…?


そんな事を考えていたが、今絵梨香にそんな余裕は無い。

目の前には殺人鬼。

それを思うだけで頭がいっぱいで、他の事は頭に入らなかった。




「(片方だけで良いんで、手を出して下さい)」



そう言われたので、跡部の背中に隠れている方の手を後ろ向きにソッと差し出す。



「(コレを…跡部さんに渡して下さい)」



日吉に手渡された物は、丸状の何かだった。

冷たい、丸状の何か…。




「(酒本先輩、どうぞご無事で。跡部さんにも伝えて下さい)」



そう言い残すと、日吉は爆魔と絞魔に飛び付いた。




「うわっ…!!!何だコイツ!!」


「日吉…ッ!!」




爆魔と絞魔の上に日吉が乗っかり、体の自由を奪う。

予想外の展開に、此処に居る誰もが驚く。




「酒本先輩…!!早く、跡部さんに…!!!」

「――あっ、景吾…日吉がコレ…」



手に持っている物を跡部に渡そうとして、絵梨香は目を見開く。

今自分が握っているのは、間違いなく…手榴弾。




「手榴、弾…?」




跡部も驚きを隠せない表情で、そう呟いた。

何の為に日吉が自分にこの凶器を渡したのか、大体の想像はついた。

けれど、そんな事は跡部には出来なかった。




「俺がコイツ等押さえときますんで、早く投げて下さい…!!」



跡部は奥歯を噛み締める。

絵梨香の手から手榴弾を受け取るものの、そこから何か動作が行われると言う事は無かった。



「何してるんですか…!!?早く…ッ!!!」


「――…ッ、そんな事…出来るかよッ!!!




手榴弾を握り締めて、跡部はそう叫ぶ。

仲間を殺さない…そう誓ったばかりなのに。




「…跡部さん…ッ!!俺は…貴方に死んで欲しく無いんです!!




そう日吉が叫んだ瞬間、スルリと絞魔が日吉の腕から抜け出した。

そして跡部の元に駆け寄り、手榴弾を奪う。





「オイ…お前…!!」





跡部が止めようと手を伸ばしたが、絞魔は既に安全ピンを抜いた後だった。

ピンを抜かれた手榴弾は、日吉と爆魔の元へ投げられる。






日吉ぃ…ッ!!!


景吾、逃げて…!!!





絵梨香は跡部の手を引っ張って、非常口から走って逃げる。

跡部は頭が回らないままに、引っ張られて走る。













そして数秒後…













































――ドォォオオオオン!!!!!
















































勢い良く爆破した手榴弾は、日吉と爆魔を跡形もなく消し去った。

爆散した破片が跡部と絵梨香に傷を残す。


痛い、なんて感情は感じなかった。

それよりも苦しくて、悲しくて…。

またこの気持ちに出会うなんて、思いもしなかった。



涙が二人の頬を伝う。



この戦いに参加して、泣くのが当たり前になっていた。

溢れ出て、溢れ出て…たくさん流れたのに、未だ涙は枯れてくれない。

暗闇から抜け出す出口も見つけられずに、ただひたすら涙を流す。


一体いつになったら、光は自分達を照らすのだろうか。



二人はその想いでいっぱいだった…――


































死者:氷帝二年 日吉若
残りの人数:26名


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