Act.12 酷な運命


「爆魔が…死んだ」



前代未聞のこの戦いに、狂魔は驚いていた。



「こちら側の人間が死ぬのは、初めてですね」



狂魔は眉間にしわを寄せて考え事をする。

そして一言、こう言った。



「生き残ったあの時から、彼はこうゆう運命だったのかもしれない…――






























-Act.12- 酷な運命

















狂魔の言葉を聞き、焼魔は彼を見つめる。



「裏切り者の末尾は死…と言う事ですか?」

「"死"―ならまだマシなもんだ。爆魔の末尾は、"地獄"」

「地獄…と言いますと?」



焼魔がそう質問すると、狂魔の目つきが変わる。



「"絞魔は仲間だから、自分を殺す筈が無い"。恐らく彼はそう思っただろう」

「…爆魔に、まだそんな感情が残っていたと言うのですか?」

「人間は段々過去の感情を忘れていくものだ。実際私も、もう昔の感情など殆ど思い出せん」



狂魔がそう言うと、焼魔は悲しい顔をして、たくさんのモニターがある方向を見る。

どうやら彼女はまだ…"過去の感情"を忘れられずにいるようだ。



「今まで幾つかのBRに、彼らは参戦しただろう?」

「しましたね。二人で」

「それによって、爆魔の中で"絞魔に対する信頼"が生まれてしまったんだ」

「…信頼?」



二人で敵を殺して、二人でこの戦いに勝つ。

その協力プレイが、いつの間にか爆魔の心の中に"信頼"と言う感情を生み出していた。

しかし、彼は最後の最後…信頼していた仲間に殺されてしまった。


殺される寸前の爆魔の心情は、まさに"地獄"。



「その感情が無駄だと言う事を知りながら、まだ彼は希望を持っていた」



仲間を信じても良い、と言う"希望"を――。

尤も、その希望は最期に粉々に砕かれてしまったのだが。



「…裏切り者は、いつか裏切られる運命なんだ」



狂魔はそう言って、無線機を手にする。

そして狂魔を呼び出す。



「絞魔、無事か?」

『狂魔様…、俺は無事です。爆風と同時に逃げましたから』

「そうか。ならもう戻って来い」

『でも…俺はまだ何の役目も果たしてません』

「そんな事は無い。殺しただろう?二人」

『…ですが、一人は』

良いから戻ってこい

『…ッ、わかりました…』



絞魔がそう言うと、プツッと通信が途切れる。

彼は納得がいかないようだったが、狂魔に強く言われたので、仕方なく切り上げた。



「何故、絞魔を戻したのですか?」



焼魔の問いに、狂魔はモニターを見ながら



「その内分かるだろう」


とだけ答え、その後は何も喋らなかった。








――…



その頃、切原はフラフラと校舎内を歩いていた。

廊下は長く、広く。

学校にしては広すぎるこの校舎内で、意識を朦朧としながら一人…歩いていた。

自分が人を殺した事に、恐怖を感じていた。

服に付いた返り血と、槍に付いた血が、自分の犯した事をハッキリと映し出していた。



「はぁ…はぁ…はぁ…ッ」



呼吸が苦しい。

胸が締め付けられるように、熱い。




「クッ…!」


切原はその場に膝を着く。

大量の汗と、大量の涙が、床にぽとぽと垂れる。


その時、人の声が聞こえた。









「ホントに殺し合いなんて起こってんのかよ?」

「私にはわかりません」




その声に、切原は立ち上がる。

聞いた事のあるような、ないような…そんな声が聞こえる。

今の切原の精神状況では、確実に判断する事が出来なかった。



「出来るわけねぇよな、普通に考えて」

「そうですね。普通の人間ならば、人を殺すなんて不可能な事です」



声が段々近付いて来る。


"普通"―そんな単語が切原の耳に聞こえてきた。



「…ハッ…、んな言葉…この世界には、ねぇんだよ…」



赤也は一人、そう呟く。

この世界に常識なんてない、それは死の境地に立った者だけが知る。




「…ん?柳生、誰か居るぜ?」

「アレは…切原くん?」



そう言って二人は全く警戒せずに、切原に近付く。

しかし近付いてみると、切原の服には大量の血。

その上武器にも血がベットリと付いている。




「お前…どうしたんだよ?」



丸井が切原に尋ねるが、返答は無し。

いつもと様子が違う、二人はそう感じずにはいられなかった。

それと同時に、やはり戦いはこの敷地内で行われている。


そう確信してしまった。



「一体…何が起こってんだよ…?」

「…………」

「なぁ、赤也!?」



丸井が赤也の肩を強く掴む。

すると、赤也はピクリと反応した。



「…ジャッカル…先輩が……」



"ジャッカル"と言う単語に丸井と柳生は反応する。

嫌な予感がする。

胸騒ぎが収まらない。


そして切原は、二人の不安を現実にする。





「ジャッカル先輩が…



















殺された……」














ドクンッ、胸が高鳴った。











「嘘…だろ…?」





自分の仲間が殺されたなんて、丸井には信じられなかった。

いや、普通の人間ならば…信じる事なんて出来ない。




「…嘘で…こんな事…、言えっかよ…ッ!!」



切原は涙ながらに訴える。

丸井は自分のパートナーが死んだと言う事実を認めたくはなかったが、切原の表情を見ると認めざるを得なかった。



「お前は…誰か殺したのか…?」



切原が持っている槍を見て、丸井は尋ねる。



「………」

「…なん、で…なんでだよ!?お前は…ジャッカルが死んだ時、命の重さを知ったんじゃねえのかよ!??」

「…ッ…俺、は…」

「お前…人として最悪だぜ!?

「――ッ!」



丸井がそう言うと、切原の手が動く。


そして…
































――グサッ!!!













槍が胸に刺さった。

- 14 -

*前次#


ページ: