Act.13 して下さい





悲しかった、苦しかった、辛かった。



でも、何よりも…


変わっていく自分が怖かったんだ…――































-Act.13- して下さい


















切原が投げた槍は…―柳生の胸に。



「グ…ッ!!!」



柳生は槍を掴んで、倒れ込む。

その姿を丸井は見ている事しか出来なかった。



「…や、ぎゅう…?」



柳生が動かなくなって、ようやく事を理解した丸井。

倒れている柳生を揺する。



「オイ、柳生…!?起きろよ…、柳生ッ!!!」



段々血色が悪くなって、顔が青ざめていく柳生。

そんな柳生を見て、"悲しみ"と言う感情が一気に丸井を襲う。

そして芽生える…"憎しみ"。

丸井の目から、涙が溢れ出す。

柳生の顔に一滴、二滴と…流れ出したら止まらない涙。

それと同様に、止まらない…切原への憎しみ。



「赤也…テメェ…!!!!」



丸井は切原に飛びかかって、押し倒す。

涙は切原の顔にも垂れる。



「お前を…殺す!!!



丸井は鞄から落ちた小太刀を握り、切原の顔の前に突き付ける。



「俺だって…こんな気持ちだった…ッ」

「――ッ…!!」



丸井は此処で初めて、切原の気持ちを知る。

死んだ仲間の為に…人を殺した。

切原はその気持ちを分かって欲しかった。



「……でも…、だからって…何でそんな簡単に仲間を殺せんだよ…!?」



切原の気持ちも分からなくはなかったが、仲間を殺した切原への憎しみは消えなかった。



「もう…わかんないッス…。丸井先輩…俺を…












殺して下さい

「――っな…!?」

「柳生先輩の命を奪った俺が憎いんでしょ!?早く…殺して下さいよ…ッ!



よく見れば、切原も涙を流していた。

そんな切原を見ると、丸井も胸が熱くなって…苦しくなった。



「んなこと…出来るかよ…」



丸井は突き付けた小太刀を床に置く。

"殺す"、そうは言ったものの、本当に殺せる筈は無かった。



「俺…もう嫌なんッス…苦しいんッスよ…!!」

「…赤也…」



切原は悲しそうに訴える。

彼は柳生を殺して、自分も死ぬ気でいた。



「ジャッカル先輩が…俺の為に、殺されて……俺は、先輩の為に生きなきゃって…罪のない人を殺して…」

「ジャッカルが…?」

「先輩、俺…自分が怖い…。憎しみでおかしくなって…そのうち人を殺す罪悪感を忘れちまいそうで…ッ!!」

「落ち着けよ、赤也!」

「もう嫌なんッス…ッ。いっそ俺も…俺も死にたい…ッ!!!!」




――バシッ!!!


切原の頬に鉄拳が入った。



「……ッ、何するんですか…」

「テメェ…ふざけてんじゃねえよ!!!」



丸井は大きな目いっぱいに涙を溜めて、切原の胸ぐらを掴む。



「お前が死んだら、ジャッカル気持ちはどうなんだよ!!?」

「――…ッ」

「お前に殺された奴だって、ただの犬死にじゃねえか!!!」



ストレートな言葉しか今の丸井には見つからなかったが、それで十分だった。

回りくどい言い方はいらない。

他人の死を、仲間の死を無駄にしてはいけない。

それが伝われば良かった。



「それに…、お前まで死んじまったら…俺はどうすれば良いんだよ…?」

「丸井…先輩…」








――ピーッ、ピーッ、ピーッ…






聞くだけで嫌な胸騒ぎがするその音は、柳生の首輪から流れていた。

二人はハッと気付き、柳生の方を見る。



「まさか、この音…」

丸井先輩、離れて!



切原は丸井の手を引っ張り、その場を離れる。

数秒経って、その音はピタッと止まる。



そしてその直後…






















――バァァアアアン…!!!









煙で前が見えなかったが、確かに柳生の元で爆発した。

何度聞いても良い心地はしないこの爆発音。

二人は柳生が居た一点を見つめる。



「や、柳生…」

「…柳生先輩…」



柳生の原型はもはや無かった。

そこにはただただ、大量の血が飛び散っているだけ。

柳生の体の一部とも思える物体が落ちていたりもした。

それを見た二人は心底恐怖を感じ、震えるしかなかった。

恐ろしくて、恐ろしくて…息が出来なくなるくらいに苦しくて。



「んだよ…これ…」



初めて見た生々しい人の死に、ただひたすら絶句する丸井。

こんな恐ろしい感情は初めて出会った。

かつて感じた事のない気持ち。

悲しみや苦しみにも似ているが、何処か違う。

言葉では言い表す事が出来ない、そんな気持ち。



「…この気持ちに出会ってしまったら、もう…抜けられないんスよ…」



切原は涙を流しながら、丸井にそう伝えた。


大切な仲間が目の前で死ぬ。

そこで感じた気持ちは、知らず知らずの内に、"生きる執念"を生み出してしまう。

その仲間が大切であればあるほど強く…――。






























死者:立海三年 柳生比呂士
残りの人数:25名

















一人、また一人と…仲間は消えて行く…。

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