Act.14 人分の命





生き残れ。



俺の心が悪に染まって行く前に…


俺はお前を守る。






























-Act.14- 人分の命


















「ぐすっ…」



果てしなく続いているかのように長い廊下で、鼻を啜る音が重なって聞こえてくる。



「泣くなよ、赤也…」

「丸井先輩こそ…泣かないでくださいよ…」



消えていく仲間、これからの戦い。

それらの恐怖が彼らの涙腺を緩めていく。

これからどんな残酷な事を経験しなければならないのか、ただひたすら恐ろしくて…。



「震えが…止まらねぇよ…」



丸井の手は小刻みに震えていた。

手を強く握ってみるが、大した効果は無く、震えが止まる事は無かった。



「丸井先輩…。先輩は…俺が守りますから」

「…え?」



切原が震えている丸井の手を取る。



「柳生先輩を殺したのは…俺、だから…。柳生先輩の役目は俺が果たします」

「ばっ…馬鹿言ってんじゃねーよ!なんで先輩が後輩に守られなきゃ」

先輩後輩なんて関係無いんッスよ!!…外はもう…敵だらけ、なんッス……」



切原の目からは、涙が溢れていた。

これ以上仲間の死を見たくない、彼が痛切に思った事だった。



「ホント、馬鹿だな…お前。ジャッカルに命預けられたんだろ?だったらテメェの命を、もっと大切にしろよ」

「…ジャッカル…先輩…」

「お前が死ぬっつー事はな、ジャッカルも…柳生だって、命を失う事になんだよ。…――良いか、赤也」



そう言って切原の肩を、両手でガッシリと掴む丸井。

そして一言。
















…死ぬな








そう言った丸井の目が余りにも真っ直ぐで、それでいて悲し気で…。

自分の事でも精一杯であろうこの場面で、彼は切原の事を、仲間の事を…一番に考えていた。



「さ、此処に居たら危ねぇ。移動するぞ」



丸井は切原の腕を取り、引っ張る。

切原はその勢いで立ち上がり、重い足を引きずりながら歩く。



「大丈夫かよ?」

「…だ、大丈夫ッス。…これくらい…」



怪我をしたわけじゃない。

体が辛いわけでもない。

ただ心の中心部が、ズキズキと痛んで…それが彼の体に重くのし掛かる。



「肩、貸すか?」

「いい…平気ッス」



丸井は切原を心配そうに見守る。

だから…気付かなかった。


前方からこちらに忍び寄る人影に…――。






――ヒュッ



「…ッ、丸井先輩!!」

「!!」



前方から飛んできた物体は、丸井の5p横を通過する。



「誰だ!?」

「――ッ、お前…」



丸井は前方に見える人影の正体に気付いた。

青い、ユニフォームを着ている。

手には…クロスボウ。



「不二…」

「フフッ、ごめん。君を狙うつもりじゃなかったんだ」



彼は笑い切れていない顔を、切原に向ける。

そして血だらけの彼の槍を見た後、鋭い目で切原を睨み付ける。



「やっぱり…君だったんだね。タカさんを殺したのは…」

「!!…ッ、見て…」

「うん、見てたよ。大切な仲間が殺される所を、この目で」



彼の目に映されているのは、"憎しみ"一色だった。

間違いない、彼は切原に憎しみを抱き、切原を殺すために此処に居る。

それを察知した丸井は切原の前に立つ。



「…逃げろ、赤也」

「な…何言ってるんッスか!嫌ッス!!俺は逃げません!!」

「んなとこで意地張ってんじゃねぇよ!!」

「丸井先輩こそ、こんなとこでカッコつけないでくださいよ!!」



互いの仲間を思い遣る気持ちが、互いの思いを妨害する。

大切だからこそ、守りたいのに…。

その思いが強すぎる故に、噛み合わない。



「赤也、何回も言わせるな。お前には三人分の命が懸かってんだ」

「だけど…丸井先輩を見殺しには出来ません!!」

「…バーカ。ジャッカルがお前を守ったんなら、パートナーの俺がお前を守らなくてどうするっつー話だ」

「丸井…先輩…」

「俺の命もお前に預ける。だから…絶対ぇ死ぬなよ」

「先輩…ッ!」



丸井は切原をワゴンの中に押し込める。

そしてボタンを押そうとしたその時…



「ぐっ…ッ!!」



丸井の背中に鋭い太い棒が突き刺さる。

そして丸井の吐いた血が、切原の服にベッタリと付く。



「ま、るい…先、輩…?」



その拍子にボタンが押され、切原は三階へと上がっていく。



「ぅ…あ…ああ…あ…」



目に焼き付けられた丸井の死に、涙と震えが止まらない切原。

またもや仲間が…自分を庇って死んだ。





「う…嘘だ…嘘、だ……うぁぁぁあああああ!!!!




































死者:立海三年 丸井ブン太
残りの人数:24名







…――


「クッ…」

「絞魔?」



焼魔が絞魔の方を見ると、彼は大粒の涙を堪えきれずに流していた。



「爆魔…爆魔…ッ!

「どうした、絞魔?爆魔はお前が殺したんじゃないか」

「俺、は…殺した……掛け替えの無い…パートナーを…ッ」

「パートナー…?」



焼魔はビックリして狂魔の方を見る。

一度は自分の仲間を裏切って皆殺しにした彼が、たった一人、爆魔と言うパートナーの為に涙を流している。



「やはり、こうなったか。絞魔を引き上げて正解だった」

「狂魔様…どうゆう事でしょうか?」

「爆魔が絞魔を仲間だと信じていたように、絞魔にとっても爆魔は唯一無二のパートナーだったと言うことだ」

「では…爆魔の末尾も強ち地獄ではないようですね」

「いや、爆魔はもうこの事実を知ることは無い。彼が見たのは確かに地獄だったんだ」



絞魔は頭を抱えて膝を付く。

そんな絞魔を見て、狂魔は溜息をひとつ。



「情を移されて、絞魔まで死んでは困るからな。彼は今、人を殺せない」

「…そうですね。彼にはこのモニターに映る全ての者が、爆魔に見えるでしょうから」

「厄介な事になったな」

「ええ、前代未聞だらけです」

「それも全て…彼らが仲間を思い遣る気持ちを捨てないから、だろうな――」


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