Act.15 いの心


「…………」



静寂に包まれる中庭で、二人の男子が座り込んでいた。

たまに聞こえる小鳥の囀りは、この地には不似合で――。


































-Act.15- いの心


















「金ちゃん…大丈夫か?」

『…さっきよりかは…』



遠山金太郎、白石蔵ノ介。

二人はつい先程、人が殺されるのを目の当たりにしてしまった。

不二が丸井を刺したところだ。



――信じられなかった。


今まで戦ってきたライバル達が、殺し合うなんて。

あの時の憎しみに溢れた目は、自分達の知っている不二では無かった。

その恐怖に、普段お喋りな金太郎までが黙り込む。



「白、石…」

「…何や…?」

「千歳も…謙也も…銀も、小春も…ユウジも…財前もっ…、あんな目…してるんやろうか…?」

「…金ちゃん…」



あの不二でさえも、殺人鬼の目をしていた。

ならば自分達の仲間も…。

金太郎の心は他の人に対する疑いでいっぱいだった。



「ワイらには…仲間はおれへんの…?」



金太郎は震えながら、涙ぐみながら、白石に訴える。

白石はそんな金太郎を…心を痛ませながら見る事しか出来なかった。


自分も同じ事を思ったから――。




『…ジ…ジジ…ジジジ…ジ』

「!…放送…」



この広い土地全体に響き渡るノイズが、悪魔の予言となっていた。

放送がかかると、心臓が高鳴り出す。


次は何を告げられるのだろうか…?


不安で仕方なかった。



『そろそろ潮時だろう。今から死者を、死んだ順番で学校別に発表する』

「「!!」」



死者、それは皆が知りたかった事。

だけど…。

体がそれを聞くことを拒むように震え出す。

緊張にも似た感情…だけど、そんなに軽いものじゃない。

きっとこの地に居る皆、同じ思いでいる。



『まずは青春学園。乾貞治、海堂薫に続き…河村隆。三名』

「や、やっぱり…乾と海堂は…」



最初に自分達が見たのは、人の死。

それを疑いから確信に変えさせられた白石だった。



『そして氷帝学園。樺地宗弘、日吉若。二名』

「…もう…嫌…。嫌やぁ…ッ!!」

「金ちゃん!静かに!」



思いの外、此処で…今自分達がいるこの場所で、戦いが起きていた事に強い恐怖を感じる金太郎。

一体自分達の仲間は何人殺されているのか…知りたいようで知りたくなかった。

いや…圧倒的に後者の方が強い。

知りたくない、聞きたくない…その思いしか、無かった。



『立海大付属。ジャッカル桑原、柳生比呂士、丸井ブン太…三名』

「………」



二人は祈った。

どうか一人も名前を呼ばれませんように、と。

しかし、その願いは…




『四天宝寺。一氏ユウジ、金色小春…二名』

「――…!!」




放送から吐き出される声と共に、消え去った。



「…ユウ、ジ…こ、は…る」

「そんな…あの二人が…」



目を見開いたままの二人。

驚き、ショック、悲しみ…テンポよく表れる感情に、二人はついていけなかった。



『尚、危険区域は17:00〜、中庭とする。三分以内にそこから離れなければ…首輪は自動的に爆発』

「な…中庭って…此処か!?」

「……白石」

「金ちゃん、はよ逃げんで!」

「…白石っ!!!」



金太郎が叫んだ声が響き渡る。

白石はそのまま固まって、金太郎を見つめる。



「…ユウジと、小春を…殺したんって…まさか…!!」

「金ちゃん…ッ!今まで一緒に戦ってきた仲間やろ!?そんな事する筈無い!!」

「――ッ…!」



消えない…消せない…仲間への疑いが…。

あの目を知ってしまったが為に。

疑いたく無いのに、信じていたいのに…。

それを邪魔する、不二の姿…。



「さぁ、はよ此処から脱出せな…!」



白石は金太郎の手を引っ張る。



「…!?」



しかし、石のように動かない金太郎。



「金ちゃん…何してるんや?早く!」

「………」

「此処におったら死ぬんやで!?」

「……っ…く…うぇぇ…」



金太郎は悔しそうに唇を噛み締め、涙を流す。

それを見て、金太郎を掴む手が少し緩む。



「…白、石…ワイ……仲間信じる心…忘れてしまいそうや…」

「…金ちゃ…」



苦しそうにそう言った金太郎の言葉が、ストレートに心に突き刺さった。

仲間を信じる心…。

それを忘れてしまいそうなのは、自分も同じだったから…。



「毎日一緒に汗流して…毎日一緒に笑い合って…毎日一緒に全国大会に向かって頑張る、なんて…そんな当たり前な事は…もう出来ひんの…?」

「………」



正直、言葉が出なかった。

"全国大会"…そんな単語すら忘れてしまっていた。

毎日毎日、繰り返していた言葉なのに…。



何処で何を間違えた…?


少しずつ…少しずつだけど、自分の中で何かが変わっていった。

他人を…仲間を信じる心は、今では心の片隅にしか存在しなくなっていた。


殺し合い?バトルロワイヤル?


自分達はそんな事をしたかったんじゃない。

ただ単純に…テニスがしたかっただけなんだ――

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