Act.17 掛けの答え


殺す事が悪なのか?


死ぬ事が善なのか?



その謎掛けに…答えはあるんだろうか――?


















-Act.17- 掛けの答え




















「仁王は此処に書いてある材料を探してくれ」

「了解」



パソコンのディスプレイを覗いて、探し出す仁王。

その間に柳が切原に尋問をする。



「何故そんなに血まみれなんだ?」

「………」



しかし切原は黙ったまま口を開けようとしない。



「誰かにやられたのか?」

「………」

「誰かを殺したのか?」

「………」



何を聞いても全く何も言わない切原に溜め息を吐く柳。

一か八か、と思い、こう呟いてみた。



「ジャッカル、柳生、丸井…」

「…ッ…!!」



確かに反応した切原に、柳は質問する。



「お前は何か…知っているんだろう?」



切原は悔しそうに、泣き始めた。

そして自分を守るように、自分の腕をギュッと掴む。



「お…俺、がっ…俺が、居たから…みんなは…ッ」

「三人は誰に殺されたんだ?」

「ジャ、ッカル…先輩は…忍足、に…」

「どっちの忍足だ?」

「…ッ…両、方…ッ」



それを聞き、顔を見合わせる仁王と柳。

タッグを組んで殺し合いをしている奴が居ることに驚いた。

もはや、殺し合いを楽しんでいるようにしか思えない。



「随分と…歪んでしまったな」

「十人十色じゃよ、参謀。俺達がこうやって首輪の解き方を探しているように、殺し合いを楽しんでいる奴らだって居るっちゅーことじゃ」

「…そうだな」

「あ、あの…首輪の…解き方、って…?」

「あぁ。普通の人には不可能に近いが、確かに首輪の解き方は存在する」

「何も心配はいらんよ。参謀は普通の人じゃなか」

「変なプレッシャーをかけるな」



仁王は悪戯に笑い、黙り込む。

そして今度は真剣な顔でこう言った。



「覚悟は決めちょる」



仁王のその瞳があまりにも真剣で。

息を飲み込む切原と柳。



「失敗したその時は…」

…俺と一緒に…死ぬだけだ



柳は仁王を見て、微笑する。

一見冗談のような遣り取りに見えるが、二人の心にチラチラと見え隠れする"本気"。

切原が表れた事によって知った現実。

否、計算高い二人だからこそ、本当に戦いが起きていた事は計算内だった。

この地に連れてこられたその時から、こうなる事は予測出来ていたのかもしれない。



「怖く…ないんッスか…?」



切原は不安そうな顔で、二人を見つめる。



「俺は…こんな所でいつまでも生き残っとる方が、よっぽど怖いと思うがのぅ」

「精神的に耐え難いところがあるな」

「ぐだぐだと生かされるよりも、いっそ豪快に殺してくれた方が…有り難いかもしれん」



その言葉を聞いて、切原は少し心が軽くなった気がした。

死んでいった大好きな先輩達は…もう辛い思いをする事は無い。

それだけで十分だった。



「なら…今まで死んだ人達は…死んで良かった、って…事ッスか?」

「それは…俺にもわからん。死んだ奴らの命を邪険にしたらアカンって言ったらそうかもしれん。やけど…今、この地で生きてる事よりも辛い事は…他にないじゃろ?」

「…そ、ッスね…」

「もう、俺達にはわからん領域にまで達しとるんじゃ。ここの異常さは」



仁王は、棚に伸ばしている手を止める。

そしてそこで漸く、ある事に気付いてしまった。







――わからない領域にまで達している。







違う、そうじゃない。

分かってたんだ…本当は。


この異常な世界に、染まっていく自分達を。


それでも、それを認めたくなかった。

だから分からないフリをしたかった。


でももう遅い。

気付いてしまった。







人の命を奪う事が…本当に悪い事なのか…?

!!



柳がボソッとそう呟いた。



「な、何を言っとるんじゃ…?」

「そうッスよ、柳先輩…!悪い事に決まってるじゃないッスか!!」

「仁王、お前はそう思ったんじゃないか?」

「――ッ…!」

「!?に、仁王先輩…?」



心を読まれた。

一瞬の自分の心の歪みを…。



「人が生きる苦しみから逃れる事が出来るたった一つの方法、それが"死"。ならば人を殺す事は、善悪で言う"善"の方に入るんじゃないか。そう、思ったんだろう?」

「…流石じゃな、参謀」

「仁王先輩…そんなの、嘘ッス!人の命は…何物にも代えられないくらい大切なんッスよ…ッ!!」

「そんな事、おまんに言われたくなかよ」

「な、何で…ッスか!?」



仁王は切原の武器を奪い取り、切原に突き付ける。



殺したんじゃろ?

「!!…ッ…」



切原は唇を噛み締めて俯く。



「何人殺した?」

「…――ッ、…二人…」

「誰じゃ…?」

「……河村さん…と…柳生…先輩…」

「!!」



目を見開く仁王。

まさか、自分のパートナーが自分の仲間に殺されていたとは…。

驚きと動揺を隠せない様子で、足が竦む。



「ふざけるんじゃ…」

「ふざけてませんっ…!だから…だから人を殺す事なんて…認めて良い筈が無いんッスよ!!



切原の訴えに、黙り込む二人。



「そこまで言うんなら…誓いんしゃい」

「何をッスか…?」

「もう…人を殺さん、と」

「あ、当たり前…じゃないッスか…。もうあんな思いをするのは嫌ッスよ…!」

「なら…俺達も誓うぜよ。絶対に人を…仲間を殺さん」

「ああ。必ず首輪を外して元の世界に戻る」

「ッス!」



三人は大きく頷き、誓い合った。

- 19 -

*前次#


ページ: