Act.19
無くならないもの
どれだけ非常になっても
感情というものは
消え去ってくれないみたいだ――
-Act.19- 無くならないもの
「チッ…微妙にズレた…」
「謙也…手震えてるで」
「ヘッ、ここまで腐りきってても、罪のない人間を殺すことに罪悪感があるなんてな…」
罪悪感、その感情が微妙な揺れに繋がった。
謙也は確かなコントロールで大石の急所を狙ったが、矢を放つ一瞬に…手が震えてしまった。
「油断したらアカン…
次キメる」
ボウガンを直ぐに構え直し、矢を放つ謙也。
見事にその矢は、菊丸の心臓を撃ち抜いた。
「
グハァ…ッ!!」
「
…え、英二ぃ…ッ!!!」
死者:青学三年 菊丸英二
残りの人数:21名
「誰だ…なんで…こんなこと…ッ」
大石の涙が、汗と混じり合う。
何処から飛んでくるか分からない矢。
誰が撃っているか分からない恐怖…。
「悪いな、大石…」
謙也が大石の前に立つ。
「お前は…忍、足……」
霞み行く視界の中で、必死に謙也を睨む大石。
謙也は近くに落ちている鞄を拾い上げ、中身を探る。
「…ッ」
中に入っていた武器は、ピコピコハンマー。
もうひとつの鞄を必死に漁ると、そこにはハリセンが入っていた。
全く武器にならないアイテム達。
「…大石…お前ら…ここで死んで良かったで…」
不思議と、目から涙が溢れてくる。
人を殺せない武器達が、まるで誰も殺すなと言っているように思えて仕方が無かった。
「ふざ…けるな…ッ!こんなことして……ッ、何も思わ…」
「
思うわ!!思うに決まってるやろ…!どんなに人情捨てたって…捨てきれへんのや…!!!」
「忍…足……」
「っぐ…ごめんな…。ホンマに…すまん……ッ」
――ピーッ、ピーッ、ピーッ…
菊丸の首輪から、不吉な音がした。
何度聞いても耳障りで仕方のないこの音…。
「フッ…」
「!?」
謙也がこの場を離れようとしたその時、微かに大石が笑った。
そして静かに放った一言が、謙也の脳内に響いた。
「――…パートナーと死ねて…良かったよ…」
「…大、石…」
――ボォォォオオオオン…!!!!
死者:青学三年 大石秀一郎
残りの人数:20名
「
っく…!!!」
逃げ遅れた謙也が、爆風の勢いで飛ばされる。
「
謙也…!!」
俯けになった謙也は、枯葉を握り潰した。
「なんでやねん…ッ!!」
「謙也…」
「何がしたいねん!!こんなことさせて、何が楽しいって言うんや…!!!」
侑士は目を背けた。
自分を守ることによって謙也が苦しむことになるなら、果たしてそれは正しいのか。
考えても考えても無駄だった。
きっともう、どの問いにも答えがないことは分かっている。
「なぁ…俺らの声が聞こえてるんやろ…!?お前ら…一体何がしたいんや…!!!」
「謙也…。無駄や、アイツらに…俺らの声は届かへん……」
――ヒュゥゥゥウウウ…
普段は爽やかな風の音も、今は虚しく聞こえた。
「チクショー…」
「
――っぐ…!!!」
「!!?」
傷だらけになった体を起こすと、侑士の左胸に矢が刺さっているのが見えた。
ボウガンの矢では無い…。
「侑士…
侑士…!!」
急いで侑士に近付く謙也。
「…び…みょうに…きゅう、しょから…ずれてるみたい…や…」
「この矢…どこから…」
後ろを振り返ると、青いユニフォームがチラついた。
そこには弓矢を構える、不二の姿があった。
- 21 -
*前次#
ページ: