Act.2 実と幻


多分、ここに居るみんなが…言葉を失った。


いきなり見知らぬ所へ連れて来られて、いきなり殺し合いをしろと?

そんな事を理解出来る筈もないし、

増してや"はい、そうですか" なんて受け入れられるモノじゃない。



人の命が掛かっているのだから…――
















-Act.2- 実と幻








「ハッ、つまらない冗談はやめろ。何故俺達が殺し合いなんて『冗談ではない



跡部の小さな抵抗は虚しく、その言葉は一刀両断にされた。

放送から聞こえてきた声は現実を受け入れろと言っているかの如く、低い声色だった。



『冗談ではない証拠に、お前達の首には首輪が付いている』

「…え?」



ジャージで隠れている首に手を伸ばすと、確かに首輪が付いていた。

いつの間に…、さっきからそればっかりだ。



『その首輪には爆弾が仕掛けられている』

「ば…爆弾…、だと?」


今、自分達の首には爆弾が仕掛けられていて、もしそれが爆発するとしたら…。


間違いなく…死ぬ。

そう、逃げる事は許されない。

既にゲームは始まっているんだ…。




『ちなみに首輪にはセンサーも仕込まれていて、校門から出れば爆発する仕組みになっている』

「――…ッ!!」

『自分だけ逃げよう等、変な気は起こさない方が良い』



…これは夢か、幻か…。

いや…紛れもない、現実…なんだ…。



『全国大会で頂点に立つ』



昨日までそう言っていた事が、何故か遠い昔の様に感じた。

これからどうなるかなんて…誰にも想像がつかない。

乾が言うデータも、柳が言う予測も、此処では何も意味を持たない。



「…俺には…出来ねえ…」



切原は小さくそう呟いた。

目には涙をいっぱいにして。



「共に戦ってきた仲間ッスよ!?殺し合いなんて、そんな事…出来る訳ねえ…ッ…!



切原の目から溢れた涙は、頬を伝い、地面に落ちた。

"殺し合いなんて出来るわけがない"、そんな事は此処に居るみんなが共通する想い。



「そうだ、くだらねえ」



切原に続き海堂が口を開く。

しかし此処では情は無用。


そう思うのに時間は掛からなかった。



『では、君達にやる気を起こさせてあげよう



そんな言葉が聞こえて来た直後、



ピーッ、ピーッ、ピーッ…



何処からともなく、音が聞こえた。

そう遠くない、寧ろ近い距離でその音は聞こえる。

何の音だかわからずに、混乱していると




――バァァアンッ!!



爆発した、この教室内で…。






「―…先輩、乾せんぱぁぁぁああい…!!!



隣に居た海堂が叫ぶ。

爆発したのは乾の首輪。

死亡したのは…乾。

























死者:青学三年 乾貞治
残りの人数:33名













「…何なんだよ…、こんな事…」






海堂はその場にしゃがみ込む。


上半身を失った、乾の隣で…。


そして首に付いている首輪を外そうと、首輪を掴む。




『ちなみに、その首輪は無理矢理外しても爆発するようになっている』

「…何…?」



海堂の手の動きが止まる。

しかし、暫くしてからまた手が動き出した。





「こんな戦いに参加するぐらいなら…







死んだ方がマシだ!!






そう言って海堂は力ずくで首輪を外そうとする。

その瞬間…
















――ボォォオオオン!!!





またまたこの教室内で爆発した。




今度は先程よりも凄い音を立てて…。









「海、堂…ッ!!!」




桃城が海堂に近寄るが、既に跡形なんて無くなっていた。































死者:青学二年 海堂薫
残りの人数:32名












「…………」






静寂が教室を包む。




もう、後戻りは出来ない、誰もがそう思った。











『開始は今から10分後。尚、ここには禁止区域があって、そこに5分以上居ても爆発する』




自分達は、どうすれば良い?

いくら考えても分かる筈が無かった。

尋常じゃないこの雰囲気に、戸惑いなんて隠せない。


しかし心の何処かで、どうにかなるのではないか、と言う想いがあった。

みんなが生き残れば良い、そんな甘い考えがあった。




その希望は、脆くも崩れ去ったけれども。






『私は中途半端は嫌いだ。生き残る事が出来るのはただ一人のみ。それ以上の人数が居たら、全員殺す




その言葉はまるで…甘い考えろは捨てろ、と言われている様な…そんな感じがした。




『では、また10分後に…。動き出す気配が無ければ、教室ごと「もうわかったから…ッ!!



耐えられなくなって、向日が叫ぶ。

爆発だの殺し合いだの…普段聞かない言葉達を目の前に、みんなの精神力は限界だった。

それでもこんな所でへばっているわけにはいかない。


これからもっと、凄い事が起こるのだから…。






『取り敢えず、教室から出ようや。このままやと何もせずに死ぬ事になるんやし』



白石がそう言うと、全員が席を立ち、教室から出る。












さあ、サバイバルの始まり…――

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