Act.3 人道具


古ぼけた校舎から出たは良いが、これからどうする?

何も考えずに、何も思わずに、ただ此処まで来た。

今はもう…何も考えたくはない。

考えれば悪い方向にしか進まない…。


そんな気がしたから――



















-Act.3- 人道具














「あと、3分…」


たったの3分で、この状況が変わるのか?

何が起こるのか分からないこの恐怖と、生きて帰れるのかと言う不安がこだまする。



「白石ぃ?なんや俺全く意味がわからへんかってんけど、何が起きてるんや?」

「…金ちゃん…」



意味が分からないのはきっと、俺達も同じ。

理解出来ないままに、動かされているだけ。

分かっている様な振りをしていても、まだこの状況が夢ではないかと…そう思ってしまう。



「乾と海堂…どっかで生きてるんやろ?コレ、なんかのドッキリやろ?」

「――ッ、金ちゃん。これは冗談でも何でもない。乾と海堂は…死んだんや」

「…う、嘘や…。嘘やろ…?」

「嘘ちゃう。信じられへんけど…現実を受け入れなアカンのや、俺達は…」



そうやって、白石は自分自身に言い聞かせているように聞こえた。



「景吾、本当に…殺し合いなんて…」

「――絵梨香…」



ちょっと待てよ?

まさか…コイツも参加させるつもりか…?

いくら何でも女に殺し合いなんて、させたりしねえよな?


「オイ、支配人!!ひとつ、聞きたい事がある!!」


俺は声を張り上げる。

俺の声が聞こえてんだろ?何処かで俺達を見てんだろ?

だったら答えろよ…!!



『何だ?』


俺の予想は大当たりだった。

コイツは遠くから俺達を監視している、そう確信した。



「コイツは…絵梨香は参加者じゃねえよな?」

『…フッ、その子は女の子だからな。生かしてやろう』


良かった…、本気でそう思った。

この非常識な世界でも少しは常識的な所がある、なんて思ったのはほんの一瞬。

その後、俺は信じられない言葉を吐かれた。











『ただし、此処にいて戦いから逃れる事が出来れば…の話だが』

「何…?」

『だってそうだろう?帰る方法がわからない、ならば此処で生き残るしかない』

「………」

『しかし、私は言った。中途半端は嫌いだ、と。だから此処にいる限り、生き残れるのはただ一人のみ』

「――ッ、ふざけるな…ッ。それじゃ実質ゲームに参加してるのと同じ事じゃねえか!!」

『まぁ、そうゆう事になってしまうかもしれないな』



そう言ってソイツは笑う。


何が"女の子だから"だ、何が"生かしてやろう"だ。

最初からその気なんかねえんじゃねえか…!!



やはり此処は…非常識な世界…。




「…絵梨香、お前は俺が絶対守る。離れんじゃねえぞ」

「景吾…」



死なせてたまるかよ、大切な人を。


お前だけは…俺の命に代えてでも…――





『10分経ったな、それでは武器を配る』

「武器…?」



やけに…本格的、じゃねえか…。

それを使って俺達に殺し合いをしろと言うのか?


「そこの貴方、コレを…」


顔まで布を被った怪しげな女に渡されたのは、布製の大きな鞄。

中にはぎっしりと何かが詰められている。



「誰だお前は?」

「私は狂魔(キョウマ)様にお仕えする焼魔(ショウマ)と申します」



狂魔に、焼魔か…。

何だか嫌な名前だぜ。



「お前達はいったい…何が目的なんだよ?」

「それはまだ貴方達にお教えする事は出来ません」

「なら何時なら良いって言うんだ?」

「私達にも、わからないんです」



――…わからない?



「ただひとつ言える事は、この人選は適当ではないのです。貴方達だから…狂魔様はお選びになったのです」

「俺達、だから?」

「ええ、中学テニス界のトップに立つ…貴方達だからこそ――」



偶然、ではなく…必然だったと言うわけか?

たが、"中学テニス界のトップに立つ俺達だから"…、それになんの意味があると言うんだ?



『焼魔、余計な事を喋るんでない』

「…申し訳御座いません」

『次、余計な事を言ったら…命はないぞ』

「以後、気を付けます」

『では、只今より開始する。敵も味方も関係ない。生き残った者だけが元の世界へ帰れる。さぁ…殺し合え



それがこのゲームの始まりの合図だった。












――バァァアアアン!!!!








「…ッ!?」





さっきまで自分達がいた教室が…爆破。


その部分だけ、跡形もなく砕け散った。




「アカン、こんな所におったら殺されてまうわ!!」

「待てや小春!!」



金色に続き一氏が走り出すと、それに釣られてみんなが散らばり出す。

本格的に、始まった…。



「…行くか、絵梨香」


手に取った絵梨香の手は震えていた。

野郎の中に女は一人だけ。

しかも命の奪い合いをするのだから、怖くない筈がない。



「大丈夫だ、俺が付いてる」

「…うん…」


そう声を掛けると少し落ち着いたみたいで、絵梨香はゆっくり、ゆっくり…歩き出した。

ボロくて分かりにくいが、此処は多分氷帝よりもデカい。

使い物にはならねえだろうが、テニスコートも一応6面。


中庭は木や雑草が伸び放題で…まるで森みたいに変化していた。

この馬鹿デカい土地は、バトルロワイヤルをするには最適の場所だった。



「ねえ、鞄の中…何が入ってるのかな?」


何処だか分からない所まで来た頃、絵梨香が俺に質問した。

何となく想像がつくが…開けてみるか。

そう思い、俺は鞄の中に手を突っ込む。


地図、食料、水…それと――





――キャァ…ッ!!

「……拳、銃…」




俺の鞄の中には拳銃が一丁。絵梨香の鞄の中には…



「…何、コレ…」

「ダガー…、短刀だ」



一本のダガー。

人を殺すには十分の、凶器達…。









これらが赤く染まるまで、あと…


























ド レ ク ラ イ ダ … ―― ?



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