Act.4 切り者


一人が裏切りを見せた時…




この世界は壊れるであろう――

























-Act.4- 切り者








「待てって小春!!」

「うるさいわ、半径5m以内に近付くな!!」



ズカズカと歩く金色の後を一氏が追う。

そこは知らない森の中。



「なぁ、小春。俺と…組めへん?」

「はぁ?何を言うてるんや」

「一人より二人の方が絶対ええ!俺と組んだら、絶対死ねへんから!」



絶対死なない、そんな根拠は何処にも無い。

それは一氏自身分かっていた事だ。

しかしどうしても、大切なパートナーを守りたかった。


ただその一心、だった…――



「鬱陶しい。絶対死なへんなんて、そんな事あるわけないやろ!」


実際首には凶器が引っ付いているのだし、絶対死なないのならば殺し合いなんてする必要は無い。

金色が言っている事は、何一つ間違ってはいなかった。



「俺はお前の為やったら死ねる!」

「そんな口だけの好意はいらんわ」


金色は鞄の中をあさり初め、


「ほんなら此処で死んでくれへん?あたしの為に」


と言って武器を取り出したが…


「…なんや、コレは…」

「……しゃもじ?」


鞄の中に入っていた武器はこのしゃもじのみ。

これではどう頑張ったって人は殺せない。



「何やねん…こんなんでどうやって生き延びろ言うんや!!」

「小春…」

「…そうや…アンタの武器は…アンタの武器見せてみい!!」



そう言って一氏の鞄を奪う。

そこから出てきたのは、鍬(クワ)だった。



「…フッ…、えらい差別やなぁ…。これじゃまるで…あたしに死ね言うてるみたいや…」


金色はボソッと、そう語る。



「そんな事ない!お前が死んだら、俺も死ぬ!!」

「うるさい…うるさい、うるさい!!」



金色は一氏の武器を奪い取り、振り上げる。



「どうせ死ぬんや…。小春に殺されるんやったら、俺は満足やで」

「なんで…そこまで…」

「ずっと一緒に戦ってきた、パートナーやから」



死ぬのが怖くない筈は無い。

寧ろ怖くて堪らない。

しかしこのまま此処に居ても、どうせ誰かに殺されてしまう。

それならばパートナーの手で…――

それが一氏の考えだった。


彼にとって金色小春と言う唯一無二のパートナーは、大きな存在になっていた。



「そんなん…綺麗事や!!」



しかし金色には、彼の本気の決意は伝わっていなかった。

どうせ怖がって避ける、そして自分を見捨てて逃げる、そう思っていた。

だから振り上げた鍬を力一杯降ろそうとした。







――その時、






「景吾…銃なんか扱える…?」









聞こえてきたその声は、確かに…女の子の声。

氷帝学園、テニス部マネージャーの酒本絵梨香。

女の子と言えば彼女しかいない。


金色の口端は僅かだが…上がった。




「おい、小春…ッ!!何処行くねん!!」



いきなり走り出した金色の後を必死で追う一氏。
金色は自分を見失っていた。

死の恐怖と闘うと言うのは、精神的にも、肉体的にも…彼を狂わせた。



「触った事ぐらいはあるが、打った事までは…」

「じゃあ、使わない方が良いよ。誰も…殺さない方が良い」

「…だな」



"誰も殺さない方が良い"、確かに彼女はそう言った。

きっとみんなも同じ想いだろう、そう言う願いを込めて…――



「――…ッ!!だ、誰!?」



しかし目の前には鍬を持って立っている男が一人。

殺意なんて感じないわけがない。

今にも自分に襲いかかって来そうな、そんな雰囲気が感じ取れる。



「テメェ…金色…」



強豪四天宝寺のレギュラー、跡部が知らない筈は無い。



「こんな所で休んでてええんかなぁ?」

「どうゆうつもりだ…?」



いつもの金色からは考えられない殺気。

彼の笑っている顔が余計に恐怖心を与えた。



「まさかお前…裏切るのか…?」

「裏切る?笑わさんといて。だってコレは、



そうゆうゲームやろ?



ゾクゥッ…、と背中に悪寒が走った。

跡部にも、絵梨香にも…。


金色が何を考えているかはわからない。

けれど何をしようとしているのかは…分かってしまった。


















自分達ヲ…殺ス――














「小春…ッ!!」



息を切らした一氏が遅れてやってきた。

このただならぬ雰囲気を、彼は一瞬で感じ取った。


「小春…、アカンで?コイツ等も…仲間やろ…?」

「…甘い、ホンマ甘いわ。そんなんやったら…一番最初に死ぬんはアンタやろうな」



"仲間"そんな言葉が此処で役に立つ事は無い。

寧ろ…邪魔になるくらいだ。

そうやって、感情を捨てられない奴が待つ運命…それは、死――




「この戦場に、女なんていらんやろ?消すべきや、今すぐ…」

「…ッ、逃げろ絵梨香!!」



金色が狙うのは絵梨香のみ。

跡部に逃げろと言われても、足が竦んで動かなかった。


やがて金色との距離は埋まり、鍬との距離も埋まる。

そして先程と同じく、鍬が持ち上げられる。



「絵梨香は…何があっても俺が守る」

「そう、ほんなら一緒に死ねばええやん?」

「駄目…景吾…、逃げて…!!」



どんだけ絵梨香がそう頼んでも、跡部は一歩たりとも動かない。

自分の命に代えてでも…、彼はこのゲームが始まった直後からそう決めていた。

だからどんなことがあっても、例え自分が死のうとも、絵梨香を守り抜くつもりだった。



「逃げねえ、絶対に…!!」

「そんな美しい愛なんて、いらんのや…!!!

「小春っ、アカンッ!!!」



一氏の声は届かずに、金色は鍬を振り下ろした。



















――ガッ…!!!

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