Act.5 初の犠牲者






ありがとう、その一言を








伝えたくて…――

















































-Act.5- 初の犠牲者
















返り血が、生ぬるい。




目を開けるのが…怖い。





しかしそうは思っていても、このままずっと目を閉じているわけにはいかない。


恐る恐る、ゆっくりと…目を開けた。





「――ッ!?」



誰かが…倒れている。

しかしそれは、絵梨香ではなく、跡部でもなく、勿論金色でも一氏でもない。

この後ろ姿には、見覚えがあった…。




「…か…、樺地…」

「樺地くん…」



長年一緒に居た親友を、見間違える筈はない。

倒れていた人物…それは間違いなく、樺地だった。

鍬で思いっきり殴られた頭からは大出血。

溢れ出る血は止まる事を知らない。



「…なんで…なんでお前が此処に…ッ!!」

「…いま…まで…ありがとう…ござい…まし、た」



最後の力を振り絞るように、朦朧とする意識の中で、樺地は確かにそう言った。

実は樺地はずっと跡部と絵梨香の後を付けていた。

自分が邪魔にならぬ様、コッソリと。


ただ一言、"ありがとう"を言う為に…――



「樺地…?オイ、死ぬな…、死ぬなよ…!!俺なんて庇って死んでんじゃねえよ!!!



樺地の血と同じく、跡部の涙も溢れ出て止まる事はなかった。

勿論、彼女も…。




「…ッ…嘘…夢だ、こんなの…夢…早く…覚めて…覚めてよぉぉぉおおおおおお!!!!!



この返り血も、この感情も、夢にしてはリアル過ぎる。


夢なんかじゃない、現実なんだ、そうは分かっていても…受け入れるには残酷過ぎた。


信じられない、信じたくない。


此処で初めて"殺し合い"と言う意味が分かった気がした。





そして樺地はピクリとも動かなくなった。































死者:氷帝二年 樺地宗弘
残りの人数:31名


























「…ありがとう、じゃ…ねえよ…。礼なんて…いらねえんだよ…ッ…」



そんな言葉よりも、生きていて欲しかった。

離れる事など決してなかったこの二人の結末は…何とも残酷だった。



「…アホ、や…何で人の為に死ねるんや…?」



跡部や絵梨香の為に自らを犠牲にした樺地が信じられなかった。

何時だって自分が大切だった、そんな金色には到底理解出来なかった。



「……テメェ…、テメェのせいで樺地は…ッ」



跡部は拳銃を取り出す。

弾は最初から入っていた為、引き金を引けばいつでも弾が出る状態だった。

その銃を、金色に突きつける。



「…け、景吾…?」

殺す、コイツだけは…許せねえ…!!!

「駄目…ッ、さっき…言ったばっかじゃん…!!」

止められねえんだよ…!!!



この憎しみが、この苛立ちが…跡部の理性を壊して行く。

もう止める事なんて出来ない。


イカレル…壊レル…関係も、心も、何もかも――














――ドォォオン…!!




そして跡部は、引き金を引いた。

















――…仲間を信じていなかったわけじゃない。






ただ裏切られるのが怖かった。







大好きな仲間に裏切られて傷付くのが怖かった。






それならば最初から、信頼なんてイラナイ…――






















――そう言う事なんやろ、小春…?

























「……あ…りがと、う……」





















「――…ユウ…ちゃ…」



撃たれたのは一氏ユウジ。

金色を庇って、自ら心臓を撃ち抜かれに行った。


ほぼ、即死。


そして彼の最後の言葉も、"ありがとう"。






























死者:四天三年 一氏ユウジ
残りの人数:30名



















「…嘘や、まさかホンマに…あたしの為に…」



その時、金色の目から一粒の涙が。

流れ出すともう止まらない。

一粒、また一粒と…流れては落ちる。






「苦しい…苦しいよぉ……助けて…助けてや………っう…うぁぁぁあああああああ!!!!







胸を押さえながら、倒れ込む。

その胸の痛みは、きっと…肉体的なものじゃない。


仲間を想う…心の痛み…――




「――ッ…」


絵梨香の目にも自然と涙が浮かぶ。

こんなに残酷な事を…これからも続けないといけないと思うと、苦しくて仕方なかった。


苦しくて、悲しくて、切なくて…。



「もう、やめよう?こんな事、意味が無い…」



絵梨香は跡部の銃を奪って、自分に向ける。

こんな想いをするくらいなら…死んだ方がマシ。

最初に海堂が自殺した理由が、何となくわかったような気がした。



「ヤメロ、絵梨香…ッ」



跡部は急いで銃を奪おうとする。

けれど絵梨香の目を見てしまうと、動けなかった。


絵梨香の、その悲しげな目を――



「意味の無い戦いで、得るものなんて何も無い…」


そう、得るものなど何も無い。

失っていくだけ。

友情も、仲間も、笑顔も…何もかも全て。



「もう、何も失いたくない」

















だから、バイバイ…――?





















――ドォォオンッ!!



















「――ッ…!!」

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