Act.7 酷な瞳






額に感じる冷たい感触も


真っ直ぐに睨む冷たい目も




全て、あたしに向けられている…――






























-Act.7- 酷な瞳




















「そんなに死にたいのなら、俺が殺してやる」




息をするのも忘れてしまうくらい、絵梨香の体は硬直していた。


目の前にいる彼は…敵か、味方か…?

つい先程まで自分を守ってくれていたのは芝居?

色んな想いが、絵梨香の心の渦中にあった。



戦いとは、無情だ…――




「冗談、だよね…?」



震えながら、後退りながら、詰まる声を必死に出す。



「冗談でこんな事するかよ」



跡部は本気だった。

彼が冗談でこんな事をする人ではないと言うのは、絵梨香自身よく分かっていた。

何より彼の目が全てを物語っている。



「…やめて…お願い…」

「死にたいって言ったのはお前じゃねえか」


死にたい、そんな想いはただの強がり。

本当は死ぬ事が、殺される事が…何よりも怖い。

そう気付いた時にはもう手遅れ。



いつだって死は自分を待っているんだ――



自然と涙が零れ落ちた。




「じゃあな」




自分の発言にこれほど後悔した事はあっただろうか?













軽はずみに"死にたい"なんて…







言うんじゃなかった…









絵梨香は固く目を瞑った。
























――ドォオォオン…
































「――…ッ!?」







銃弾は絵梨香の横を綺麗に通り抜けた。




「な…んで…?」



絵梨香が跡部を見上げる。

跡部は悲しそうな顔で、目に涙を浮かべていた。




「本当は死にたくなんかねえくせに、死にたいなんて言うんじゃねえよ…!!」

「…景吾…」



流れ落ちた涙は、血で汚れた服を濡らす。



「お前の為に死んだコイツ等の想いを…無駄にすんじゃねえ…ッ」



跡部はしゃがみ込んで、顔を覆う。

苦しいのはみんな同じなのに…。

弱音を吐いていた自分が、無性に腹立たしく思えた。





「…ごめん、もう死にたいなんて言わない」




此処に居るみんなの為にも生き残る、絵梨香はそう誓った。


そして――


絵梨香と跡部はそれぞれの武器を握りしめ、歩き出した。




「…小春…ユウジ…」



後ろからひとつの影が覗き込んでいたと言う事も知らずに…――









―――…



「謙也、どないしたんや?」



呆然と立ち尽くす謙也に声を掛ける侑士。

ポンッ、と軽く叩くと謙也の肩が大きく動く。



「謙也…?」

「侑士…、アレ」



謙也は何処かを指差して、震えている。

ただならぬ雰囲気を感じた侑士は、目を凝らしてその方向を見る。

そこにある木々が血で赤く染まっていた。



「誰か…おる…?」



人の気配を感じた侑士は無防備に近付く。

距離が埋まっていくにつれて見覚えのあるジャージがハッキリと目に映る。

その人物が誰だか理解するまでに、そう時間が掛からなかった。









「…ッ、樺地…」


「…やっぱり…小春、ユウジ…!!」





二人は赤く染まった仲間の元に駆け寄る。

その姿は見るも無惨な光景だった。




「酷…、誰がこんな事を…」



侑士はボソッとそう呟く。

それを聞いていた謙也が答える。



「俺、知ってる。アイツ等や…」

「…アイツ等?」





――ピーッ、ピーッ、ピーッ…





侑士が謙也に聞き返した瞬間、何処からともなく聞いた事のある音が聞こえてきた。




「…この音は…」

「クッ、謙也…離れろ!!」




侑士は謙也の手を引っ張って、三人から離れる。


5m程走った所でその音は止まり、
























――バァン、バァン、バァァアン!!!











代わりに三回の爆発音を発した。




樺地、一氏、金色…三人分の爆発音だ。


彼らは跡形無く、完全に消えた。







「………」



謙也と侑士は言葉を失って、ただ呆然と立ち尽くしているしかなかった。

自分達の仲間が…死んだ?

信じられない現実に、鳥肌が立つ。



「どう、なってるんや…?」

「殺されたから、消されたんやろ…」



謙也のその言葉に、手の震えが止まらなかった。

この戦いの非常さがやけに身に染みた。



「誰かが…仲間を裏切った、って…そうゆう事か…?」

「……お前のとこの部長と…マネージャー…やろ」

「…え…?」



謙也はあの場から立ち去る跡部と絵梨香を見ていた。

幸か不幸か、謙也が見たのは最後の部分だけ。

跡部が絵梨香に向けて撃った時の銃声を聞きつけ、駆けつけた。


その時謙也が見た光景が、それだった。




「…う、嘘や…。アイツ等がそんな事するわけ…」

「嘘ちゃう。俺は見たんや、ハッキリと…」



謙也の表情が強張っているのを見て、侑士は理解せざるを得なかった。


この戦いに、

仲間など関係ないと言う事を――

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