Act.8 の合図


『――皆の者に告げる。只今の死者は…』






汚れを知らない青色の空に響くその放送は、






徐々に空を赤く染めていく…――










三名




























-Act.8- の合図

















「三人…死んだ…?」




放送を聞いて言葉を失うジャッカル。

この敷地内で殺し合いが行われていると言う事が信じられなかった。


敵同士とは言え、今まで一緒に戦って来た戦友じゃねえのかよ?

そんな考えはもう…甘いのか…?


色々考えてみても現場に直面してないので状況が全く分からなかった。




「ジャッカル先輩!」

「…赤也!」



思わぬ所で切原と合流する。

きっと彼も放送を聞いたのだろう。

顔を真っ青にして駆け寄ってくる。



「死者が三人って…本当なんッスかね?」

「…わ、わからねえ…」



そう答えるしか無かった。

信じたくないけれど、その放送には何処か説得力がある。

増してやこんな恐ろしい武器を持っているのだ。

人ぐらい簡単に殺せても可笑しくは無い。



「赤也。お前…格ゲーやってるから、こうゆうの得意だろ?」

「いや、やってますけど…ゲームと現実じゃ違うっしょ?」



確かにゲームと現実では全然違う所があるが、状況はほぼ同じ。

きっと切原の体験はこの戦いで役に立つ時が来るだろう、ジャッカルはそう思っていた。

切原と一緒に居れば安心、と言う想いが心の何処かに潜んでいた。

しかしそう思う反面、先輩として後輩を守ってやらなければいけない。

真面目な彼だからこそ、そう言う想いもあった。



「赤…」

「先輩、危ないッス!」



ジャッカルの言葉は切原によって遮られ、それと同時に押し倒された。

横を見れば鋭い矢が一本、木製の壁に刺さっていた。



「サンキュー、赤也…」


後輩に守られた自分を情けなく想いながらも、助けて貰った事に深く感謝するジャッカル。

自分がしっかりしなければ、と自分自身に言い聞かせる。



「…誰だよ…!!」



赤也を見ると真っ直ぐ一直線に、何処かを見ている。

いや…この場合睨んでいる、と言った方がしっくりくる。

ジャッカルは切原の目線を辿りながら、彼と同じ方向を見る。




「…あーあ、躱されてもた。ヘタクソやなぁ」

「こんだけ距離あったら、結構難しいんやで?」



聞き覚えのある関西弁。

見覚えのある顔。

そう、彼らは以前自分達と戦った…――

















「忍足謙也に…忍足侑士…」















ジャッカルの目には間違いなく、その二人が映っていた。

彼らの変わり様に何処か恐怖心を覚える。




「信じられねえ…なんでそんな手の平返したように裏切れんだよ!?」



切原は拳を強く握りながら訴える。

しかしそんな訴えは二人には届かなかった。



「まだそんな事言うてるん?周りはもう…全て敵やねんで?」

「俺らの仲間も、既に殺されてもたしな」

「――ッ…」



謙也の言葉に、切原とジャッカルは顔を見合わせ、息を飲む。

さっきの放送は…本当だったんだ…。

そう、確信した。



「悪いな、俺らも…死にたくないねん」



そう言って侑士はボウガンを構える。

先程飛んできた矢は、このボウガンの矢。

銃より危険では無いとは言え、当たり所が悪ければ確実に死ぬ…。




間違いない、この二人は確実に自分達を殺す気だ。




切原とジャッカルは全てを悟った。

震えが、汗が…止まらない。

逃げなければいけないのに、目が離せない。



このままでは自分達の未来は確実に…死。



そう思った時、ジャッカルが動いた。

自分の武器である棍棒を振り回す。

そして赤也に向かって、



逃げろ!お前は何があっても生き残れ!!



力一杯そう叫んだ。




「でも…ッ、先輩…!!」

「良いから…早く…!!!」



切原は迷いを隠せない様子で、まだ戸惑っている。

ここで仲間を見殺しにして良いのか…

答えはノーしかないのだけれど、ジャッカルの想いを無駄にする事も出来ない。

先輩は今、目の前で自分の為に戦っている。

そんな想いが赤也の足を止める。




「チッ、これじゃ打たれへん…!!謙也、何とかしろ!!」

「大丈夫や、俺にはコレがある」



謙也が取り出したのは催涙スプレー。

それを一吹き、ジャッカルの目にかける。



「クッ…!!」



予想通り、ジャッカルは目を瞑る。

何だかこの暗闇の中でも、二人がニヤリと笑っている顔が見える。


恐らく自分の死はもう直前。


それならば、とジャッカルは最後に声を振り絞り、



「赤也…!!迷ってんじゃねえ!!早く…早く逃げろっつってんだろ…ッ!!!



と、切原に呼びかける。

催涙スプレーのせいか否かはわからないけれど、ジャッカルの目からは涙が溢れ出ていた。

その想いは十分過ぎる程切原に伝わった。



「……ジャッカル、先輩…、すみません…ッ!!!




涙ながらに切原はその場を走り去った。



チクチク痛む心臓を握りしめながら、彼は全力疾走する。




















――その直後だった。






















































うぁぁぁぁあああああああああ!!!


























ジャッカルの叫び声が空全体に響き渡った。


溢れ出る悔し涙、噛み締める唇。


悔しくて仕方なかった。



逃げる事しか出来なかった自分が、情けなくて…惨めで。




「――…ッ…っく」



赤也はジャッカルに誓った。


その命を…無駄にはしない、と。

































死者:立海三年 ジャッカル桑原
残りの人数:28名


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