WANNA SEEK





わかり合おうなんて無謀。
何度切り合ったってわかりゃしない。
その反面、信じ合いたいとお互いに依存してしまうのは何故か。

頭の中で警鐘が鳴る。
これ以上進んだら危ないと。
そんな時、あいつを見つけ出して問うのだ。







WANNA SEEK







(あっつい……)

路地裏での逢瀬は趣味じゃない。
だって誰かに逃げるようにしてるし、いつまでも逃げ切れるわけがないと知ってるから。
ただ会えた喜びが勢い余ってみたいな興奮だったら良い。
だってそれほどまでに相手が好きなのであれば仕方ないと思う。
…と、思いたいが。



「……………。」

「……………。」

まさかこれからって時に他のカップルが来るとは。
とっさに物陰に隠れたけども、それがダメだったのか、あっちは本格的にやっちゃってるし。
路地裏とはいえ、すぐそこは大通りなのにそんなに喘いで大丈夫なのか。
最近の若者はなんて大胆なんだ。

って、『普通じゃない』『男』とのアバンチュールをやってる俺が言うことでもないが。




(まぁ仕方ない…)

俺らはこうやって抱き合えてるだけでいっか。

銀時は高杉の体に抱きついたまま、首筋にすり寄る。
そしたら高杉の手が頭を撫でてくるのだから、気持ちよくて目を閉じた。




(実際のところ、)

俺も高杉も、自分で自分をよくわかっていない。
路地裏に来てもやれることは限られているのに、少しは逢瀬に変化でもほしいのか、とお互いのマンネリを疑ってしまう。
だからといってこいつとの関係はやめないが。




「……………。」

「……………。」

このまましばらく高杉に撫でられて、からの口付けというのが定番の流れ。
高杉に触れられると、どんどん欲しくなるのだから困ったものだと思う。
現に今も。
口付けぐらいならできたりして、とか思ってたりする。

自分で呆れてしまうが、それほどまでにこいつに溺れているのだ。




「………………。」

「ン………。」

肩から顔を離して軽く唇を重ねる。
それを受け止めてくれる高杉に想いを寄せながら、気持ちいい感触に全身が喜んだ。

体温を感じて。
心の中で高杉の名を呼んで。
いつもなら言葉にできない想いを唇から口移しで伝える。
愛情たっぷりの口付けを繰り返し、次第に体も熱くなってきた頃、唇を離し再び抱きつく。




(なんか喋れよコノヤロー…)

月に照らされた柔肌。
こんな静かに抱き合うなんて情事後のような。
それでいて人にバレるかもしれないという危機感もあるのだ。
変に窮屈で、変に興奮するところはある。
でも俺だったらもう少し大っぴらにしたい。




「……………。」

「……………。」

一瞬身構えてしまったのがわかったのか、高杉の手が背中にまわり、擦ってくる。
まるで落ち着けと言わんばかりに。
こういう慣れっこぶってるところがムカつく、のにときめいてしまうのだ。
こうなったら、もっと欲しくなるに決まってるのに。




「しん…すけ。」

「……………。」

普段は出さないような小さな声で、普段は言わない男の名前を呼んでみると、ぎゅうっと抱き締めてきた。
よくわかってんなぁと感心しながら、ただただ高杉の温もりを感じる。

俺に人として生きることを教えたのは先生。
俺に人を愛することを教えたのはこいつ。
一寸先すら見えない霧の中でも、例え天地の境がわからなくなっても、高杉の腕の中にいれば落ち着いてしまうのだろう。
昔から何も変わらない、俺だけの場所だから。




「…し……すけ…。」

「……………。」

「……もっと。」

小さな声でねだると、少しだけ力強く抱き締めてくれる。
自分も興奮しているのか、高杉が加減しているのか、腕の中にいても全く痛くないし、むしろ気持ちいい。
俺ってMじゃねーはずなのに。

そうやって静かにいちゃこらしていたら、路地裏が静かになっていた。
いつの間にか、カップルの交尾は終わったらしい。
俺ら以外の人の気配もない。




「しん、」

これを良いことに喋ろうとした。
しかし、高杉に止められる。
早まる銀時を制し、耳元でシー…と子供を静かにさせるように囁く。
これには流石の銀時も感じてしまい、鼓膜から全身を震わせて甘くなった。




(なんだよ…)

俺が積極的になったと思ったら寸止めとか。
声に弱いからってわかってやってんな。
相変わらずいい趣味してんなコイツ。




「ばか……反則だ…。」

「そりゃこっちの台詞だ。
盛った目ェしやがって。」

「だって…こうしてると落ち着くから。」

「変なところで積極的になんなっつってんだ。」

がっつくなら床の中でやれ。
そう告げた高杉の唇を塞ぎ、舌を絡ませては息が洩れてしまう。
息苦しさも愛しいほど。

高杉との口付けに夢中になるのは他でもない。
今までの鬱憤が晴れて、何かしらの方向性が見つかるから。
口付けにはストレスを軽減する作用があるらしいが、それ以上に爽快感がある。
モヤモヤしてても高杉に会えば悟れる。
おかしなことに、物事の一貫性が見えてくるのだ。




(こいつとこうしてれば、)

俺は悪くない、間違ってない。
まだ、進める。
ブレない高杉の側にいれば、根拠はないのに確信が持てる。




「ん…ン……はぁ…。」

「テメェから仕掛けておいて寸止めたァ…。」

「っ……ぁ。」

「そのアホ面見ると…余計に掻き立てられる。」

辛そうにした高杉の顔が見えたが、すぐに腕の中に閉じ込められたので何も言えなくなった。

掻き立てられる、というのはどういう意味か。
高杉の中に何かが蠢いているのか。
それを我慢しているから辛いとか。
それとは欲望とは違う何か。




(どう足掻いても、似た者同士ってことか…)

お互いに自分のことがわからない。
わからないから、お互いにわかれと責任を押し付けるようぶつけ合う。
行き着くところがお互いしかないならば、それを癒せるところに行くしかない。
こんなにも利己的な愛を許してくれるのは高杉だけだから。




「しんすけ…。」

「………………。」

「別のとこに…行きたい。」

ぐっと握った手のひらを開く。
そして高杉の手を握ることで、お互いの温度が混ざりあった。




「待てねェのか。」

「お前だってそうだろ。」

「クク…それもそうだな。」

「俺はこんなコソコソしたくねぇの。」

「路地裏に呼んで悪かったよ。」

だが、興奮しただろ?
色気を含んだ声に、体が震える。
高杉が欲しい。
高杉だけが欲しいと。
そして何も考えられなくしてほしい。




「月夜が綺麗だからなァ。
月に見せつけながらやってやるよ。」

「ったく…勝手にしろよ。」








WANNA SEE

WANNA SEEK

「 ア イ シ テ ル ヨ 」と笑って





17,08/08
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