※九尾狐、転生パロ注意
(兄妹ではない設定です)






月明かりと静寂。

「俺は願掛けをした。」

誰かの手を取る。

「これから1000人を倒した時、願いが叶うと。」

膝をついて誓う。

「その願いは…、」

















そんなところで目が覚めた。




「…ふ……あーぁ…。」

神威はゆっくりと目を開ける。
そして背伸びをし、夢見がちだった脳を覚ました。
色々と聞こえすぎる耳だから何なのか、夜中にも関わらず参拝者が来れば迎えるのが神獣の役目。




「いいところだったのになぁ…。」

今日こそ夢の正体を暴いてやると思ったが、肝心なところでいつも目が覚めてしまう。
これはまだ続きを見るなという天の思し召しか。

神威は眠気と戦いながらもゆっくりと起き上がる。
そして音も立てずに素早く移動すると、狐の石像となり参拝者を迎えた。
これがいつものスタイル。




「……………。」

「……………。」

運良く霧が晴れている夜中の山中。
そこに建てられた神社を守る、それが神威たちの役割。
しばらくすると、ガヤガヤと話し声が聞こえてきた。
神威が耳を傾ければ、どうやら恋仲の男女が参拝に来るらしい。

2つの台座のうち1つは神威、もう1つは同じ神獣である神楽が乗っている。
石像のままふと目を合わせれば、何やら威圧感。
おそらく「己の役割を果たさず何を呑気に寝ていたのだ」という小言だろう。
後々の説教は覚悟のうえ、神威は極力目を合わせずに参拝者を迎えた。




(なんでこんな事になったのやら、)

それはこの神社が『縁結びの神』として話題になったのがきっかけ。
それまで参拝者は地元の民族だけで、神威も神楽も好き勝手にやっていたのだが、とある男女がこの神社にお参りしたら恋愛成就したと噂を広めてから一変。
今では昼夜を問わず、参拝者が険しい山道を上ってくるので、姿を変えるのも気が気ではない。




「…………。」

サラサラと風が吹く。
賽銭の音、拍手の音、砂利を踏む音。
参拝を終えた2人は再び鳥居をくぐり、神威の横を通って階段を下りていった。

それを見送った神威は一瞬だけ身を翻し、人間の姿となって地に下りる。
尻尾や耳が無いことを確認したうえで、敷地の御神木にもたれ掛かった。




(縁なんか結んでどーすんだか、)

そもそもこの古びた神社は地域の信仰として建てられたもの。
歴史はあるが、縁結びの神はいない。
例の男女は、カミサマにお願いしたら不安が消えて肩の荷が下り、自ら行動して縁を結んだのだ。
全ては自分の努力の結果。
なのにそれをご利益と考えるニンゲンは、いつの時代を見ても面白い。




「ふぁーあ…。」

神威の大きな欠伸が1つ。
そして後ろから砂利を踏む音が1つ。
今は長い耳が不在だが、後ろに意識を集中させて様子を伺う。
足取りは軽く、不機嫌ではない。
なら良いかと神威が御神木から離れれば、神楽が後ろから抱き付いてきた。




「……………。」

「……………。」

「……………。」

「………どしたの?」

「…………………………さっき、」

「うん。」

「カップルが結婚宣言してたアル…。」

「へー、よく聞いてたじゃん。」

「そっからイチャイチャしだして、ムカついたから風を吹かせて帰らせたネ。」

「やっぱさっきの不穏すぎる風は神楽だったんだ。」

「私の敷地で破廉恥なことはさせないアル。」

「怖い怖い。」

殺気を隠そうとしない神楽に対し、神威は笑いながら頭を撫でた。
するとピョコピョコと現れる白くて長い耳。
そして長い九尾も風に吹かれてフワフワと動いていた。




「こーら、外で耳と尾を出さないの。」

「んん…。」

神楽は不服そうにしながらも、静かに耳と尾を消す。
かれこれ数百年前、うっかり耳と尾を出したのをニンゲンに見られてしまい、騒がれたことがあったのだ。
しかし見られただけで証拠は無く、運良くそのまま伝承として残っただけだったのが幸いである 。

だが今はそうもいかない。
オカルトマニアな連中にずっと張り込みをされては困るので、なるべく耳や尾を隠しては別の生き物もしくは石像に化けているのだ。




「ま、見られても帰らせれば良いんだけどね。」

今の神楽みたいに。
天候ぐらいなら操れるから、害の無い程度にニンゲンを凝らしめてやればいい。




「……………。」

「で、このへそ曲がりは何を考えてるんだか。」

「……………。」

「そんな他人を羨ましながらなくても、この神社に来てくれたんだしっていうか俺ら神の使いだし。
ニンゲンなんかと比べなくてもいいじゃん。」

「……………。」

言葉で宥めながら、神威は正面から神楽を抱き締める。
結婚および恋愛成就の参拝者が多くなった影響か、神楽はニンゲンのような恋愛が羨ましく思えてきたらしい。
恋愛を楽しんで、切なくなって、ドキドキして、結婚して、子供を産んで、賑やかに天寿を全うする。
短い命を完全に燃やすところに心を惹かれたようだ。




「まぁ俺らは年とか関係ないからなぁ…。」

終わりが見えれば、それまでの生き方を計画することができる。
しかし終わりが無いと、この世に存在するだけで鬱陶しい。
何百年と神の使いとして存在していれば、自分が何者かさえわからなくなる時がある。




「でも俺は、1人じゃなくて良かったと思うよ。」

「…………。」

「お互いに九尾の神獣、それに雌雄なんて、ニンゲンよりも稀少なことでしょ?」

「…運命共同体ってやつアルか?」

「そうそう。
同じ運命だから悩みも同じだし、いつの時代も暇じゃない。」

「ん…。」

「神楽がいなきゃ、俺はダメだった。」

この神社に来て数百年。
ニンゲンの信仰があっても、例え神獣だとしても、全てのものは孤独には耐えられない。
今の自由で気ままな日々が、何よりも愛しい。




「だからほら、俺らも祈ろうよ。
ご利益があるのか検証中じゃん?」

「んー…。」

神楽を抱き締めたまま、神威は神社の正面に立つ。
そして少しだけ手を合わせ、ご挨拶程度の祈りを捧げた。

あくまで神に遣える獣として、個人的な願いは捧げてはいけない、というか意味が無いのだが。
もしこの命が永遠ではなく有限であるならば、来世も神楽と共に生きたいと願う。
という来世も何百年後になるかわからない話なのだが。
ダメもとで、今から少しずつ願をかけて予約しても良いだろう。




「………………。」

「どうしたアルか?」

「いや、今の願いは来世だけど…前世はどうだったのかなって。」

「前世?」

「そ。
前の俺も、来世は神楽と一緒が良いって願ってたりして。」

「またそんなロマンチックな…。」

「例えばの話だって。」

ほら、俺らの運命共同体感はあまりにも稀少すぎるじゃん?
だから前世で何かをやらかしたのかもね。




「何かって?」

「さぁ?
それはカミサマに聞いてみないとね〜。」

神威の例え話が解決せず不服そうな神楽。
挨拶が終わった神威は、神楽を抱き抱えて少し離れた塒へ向かう。

既に雌雄の関係として過ごしているが、神楽と2人だけで過ごす時間は特別なものがあった。
神獣の性感が普通ではないかもしれないが、神楽に触れている時が1番、己の存在を確かめられる時間でもある。




「今日は綺麗な月夜だからね、遠慮なく神楽を抱けるよ。」

「何アルかその趣味。
むしろ私は暗いところが好きネ。」

「明るいとあの神楽のことが大好きな白い狛犬に見せつけてやれるじゃん?
神楽は俺のものだって。」

「独占欲は身を滅ぼすアル。」

「滅ぼされる前に皆殺しにするけどね〜。
最近は雑魚妖怪ばかりだけど、やっぱ俺は戦う方が性に合ってるかも。」

「…あまり私を置いてったら浮気するネ。」

「ははっ
なら転職はしないでおこうかな。」

山中の霧に紛れながら、神楽との会話を楽しむ。
そして塒に着くと、神楽の唇や体に触れていった。
その際、神楽からは長い耳や九尾が現れ、フワフワと動いては神威との繋がりを喜んで受け入れる。




「神楽。」

「っ……神威、」

輪廻なんて興味無かったけどね。
神楽と一緒なら永遠に巡るのも悪くないなって思える。




(そうだったんだろう、前の俺も)

1000人を倒し、何を願ったのか。
それは叶ったのか。
次に見る夢では正解が写っていると良い。







(二人、永遠に、強く)






18,08/26


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