※沖田♀注意





俺は好きな人と結婚しない。
何故なら手相に出てるから。




「ごめんなさい。」

数秒後、沖田は謝った。
それに対して勝利を確信していた土方は、固まって動けなくなっていた。




(あ、珍しい)

そんな間抜けな顔をするなんざ、副長がらしくないですぜ。




「え、は…?」

「だから、アンタと結婚はできません。
今まで通り恋人でいましょ。」

そう言うと沖田はニコリと微笑んで立ち上がる。
じゃあこれでと土方の部屋から出ようとしたが、それを土方が引き止めた。
先程まで甘く蕩けるような時間を過ごしていたとは思えないほどの氷河期、それほど不穏すぎる空気に変わっていた。

しかしその空気にしたのは自分。
土方も狼狽えているので沖田は土方に引かれるまま布団へと戻った。




「…どういう事だ。」

「どういう事って?」

「他に好きな野郎でもいるのか。」

「いーえ?
俺はガキの頃から土方さん一筋ですけど。」

「花嫁に憧れてた時もあったよな?」

「そりゃ、人生で体験できる機会は少ないですからね。
女として生まれたならそれなりに憧れやす。」

「……………ダメだ、わからねぇ。」

「でしょうね。」

「なら教えろ。
何で俺じゃ役不足なのかを。」

胡座の土方と正座の沖田。
薄暗い部屋に明かりを灯しながら、土方の目は真剣だった。
マヨラーを除けば男らしく成長した土方、それの相棒、そして恋人として長年一緒に過ごしてきた。
体の相性も良いし、愛し愛されの関係がずっと続けばと思ったこともある。
が、結婚を申し込まれても受け付けない理由。




「それはこれです。」

沖田は大きく手を広げる。
そして沈黙。
たっぷり30秒後、ようやく土方が口を開いた。




「これって?」

「手相ですぜ、手相。
俺の手相がややこしいから結婚は嫌だって話でさァ。」

「ややこしいってのは?」

「ほら、ここの結婚線。
俺くっきり2本あるんですよ。」

「……………。」

「……………。」

「………………………。」

「……………。」

「………………………………つまり?」

「俺が結婚しても、また数年後に別の野郎と結婚するって話です。」

だからアンタと結婚しても、数年後には別れてまた結婚する。
しかも2回目の結婚が長く続くらしいんで、そっちに土方さんを回したい。

手を開いた沖田の主張。
それを聞いた土方は座り直し、目を伏せて深呼吸をした。
これは沖田の発言を必死に理解しようとしている時に行う仕草。
どうやら土方さんをだいぶ混乱させてしまったらしい。




(俺にしてはピュアでしたかね)

手相を信じるなんざ。
でも実際、当たっていた部分もあり気になるのも事実。




「どこの占い師に見てもらったんだ。」

「この間の見回りん時。
街を歩いてたら声をかけられて、無料で見てもらったんです。」

そしたらそんな事を言われて。
しかも『相手も似たような手相を持ってるはず』と言われたので実際に確認したら本当に似ていて。
なら土方さんと結ばれるのは2回目の結婚で良いやと、そういう結論に至ったのだ。




「アンタも俺も、早く結婚して早く離婚。
からのすぐ再婚してからは長く連れ添うって話なんですぜ。」

似たようなタイミングであれば2回目の結婚に合わせれば良い。
それなら長くずっと一緒にいられる。

俺らは普通に結婚して普通に式を挙げて普通に幸せになれるような、一般人でも現場でもない。
弱くなった時点で死ぬ。
日々、切磋琢磨していかなければ生きていけない。
ならこの時ぐらい、手相を信じてみる余裕があったって良いじゃないか。
非現実的で根拠のない運命ってやつに任せても。




「………………。」

「呆れました?」

「………………。」

「眉間にしわ寄ってますぜ。」

「…………まぁ、アレだ。」

「アレ?」

「どっちにしろ、俺が嫌われたんじゃねぇってのがわかって安心した。」

土方は頭を掻きながら立ち上がり、部屋の明かりを消す。
そして沖田へと1歩近付き、ぎゅっと抱き締める。




「土方さん?」

「……………。」

黙って沖田の肩に顔を埋める土方。
結婚を断った理由が理由なだけに怒られると思ったが、こうも何も言われないと罪悪感が出てくる。
少なからず傷付いた様子なので、沖田は土方の背中を撫でてみた。

俺の意見がぶっ飛びすぎましたかね、と少しだけ後悔。
でも本音が言えたから嬉しいのも事実。
すると土方が体を離し、親指の腹で沖田の唇をなぞると、静かに重ねてきた。
確かめるようにゆっくりと、端から端まで唇を食んでいく。
殺伐とした空気から一転、性交時のように一気に甘くなっていった。




「んン……。」

「総悟。」

「怒ってないですか…?」

「まさか。
むしろ可愛いって思えちまった。」

唇を離した際、口の端からとろりと唾液が垂れてしまう。
土方はそれを指で拭い、再び唇を重ねてきた。
今度は愛情たっぷりに舌を絡ませる、大人の口付けで。




(どうしましょ…)

逃げようにも逃げられない。
やることだけやったら自分の部屋に帰ろうと思ったのに。
土方さんの部屋にいたらマヨネーズのにおいが付くし、何より朝が来ても離れられなくなる。
だから、嫌だったのに。




「んン…。」

「…総悟、」

「…帰さないってやつですか。」

「なんだ、よくわかってるじゃねぇか。」

「まだ元気なご様子で何よりですぜ。」

「コレでお前を幸せにしてやれるんなら、いくらでも。」

「最低。」

「あと手相はいずれ変わるんだってな。」

今のが気にくわなかったら変えてやるよ。
土方に手を取られ、2本の結婚線の上を軽く噛んできた。
痛くはないが、苛められてるようで腑に落ちない。
ドSは俺の役目なのに。




「土方さんに攻められるなんて、俺も相当ですね。」

「じっくり毒に浸したからな。
俺にしては年月をかけたもんだ。」

「本当ですよ。
マヨに浸されて俺もおかしくなっちまった。」

「オイコラ、マヨネーズは毒じゃねぇ。」

それは土方さんだけです、と伝えようとして口をつぐむ。
確かに沖田にとってマヨネーズも毒の部類に入るが、それよりも禍々しいもんがこの世にある。

甘く噛まれたところを舌で舐められ唇で吸われ、だんだん脳が痺れてくる。
体も心も震えるこの毒は、残念なことに土方さんといる時に限って発症しちまう。
色事はほどほどにと、周りの年長者から言われてきたのに。




「…手相、変わりますかね。」

「毎晩噛んだら変わるだろ。
それか2回とも俺と結婚するかだ。」

「復縁ってやつですか。」

「お前の初夜を他の野郎に差し出すのは御免だからな。
手相を変えるか2回結婚するか好きな方を選べ。」

「どっちにしろマヨマヨですぜ。
なら男らしく俺を独占してみてくださいよ。」

「お前に近付く野郎は全部斬る。」

「はい、頂きやした。」

物騒すぎる求婚の言葉。
でも今の俺らにはお似合いなので今は受け取っておく。
いつか改めて言われたら、今までの行いやら俺に対しての気持ちやら洗いざらい評価をしてあげますぜ。
こう見えて、疑り深いんで。




「土方さんも、他の女の人といたらうっかり手が滑るかもしれないんでご注意を。」

「そうか。
ならまずは減らず口と嫉妬を黙らせるぐらい気合い入れてやんねぇとな。」









18,10/27


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