※2年後の船の中(でも良いかもしれない)
「死ぬぐらいなら俺に抱かれろ」と告げられた呪いの言葉。
大切なものは作りたくなかったのに。
俺の気持ちを具現化したら、アイツそのものになってしまったのだ。
「あーあ。」
こんなに痕になっちまって。
しばらく取れないから外に出るのは無理だな。
銀時はため息を吐きながら鏡の前の自分を見る。
高杉に抱かれるようになってからというもの、執着が年々増しているのか口吸いの痕などが消えにくくなった。
それを本人に言ったら「年だろ」「お前の回復力が遅ぇだけだ」と一刀両断され、また痕を付けられたのだが。
「他にも付いてんのか…。」
銀時は首筋や胸板、背中を鏡で見る。
しかし肌を曝せば曝すほど痕を見つけてしまうので、次第に数えるのが面倒になってきた。
そして今回も、ある共通点を見つける。
(やっぱし…傷跡の上ばっかだな)
これまでの戦いで増えてきた傷。
肌は凹凸を繰り返し、触っても何も楽しくはないが、アイツはしょっちゅう触ってくる。
そして狙いを定めたように痕を残していくのだ。
特に高杉によって付けられたものには、集中的に。
昔から馬鹿真面目でねちっこい奴だったが、たまに情を間違う時がある。
突き放したのに触れてくるし、絶対入ってくるなと言ったのに側にいるし、極めつけは気が滅入ってた時の口説き文句。
死ぬぐらいなら俺に抱かれろ、と。
そのままズルズルと流されるまま体を許してしまい、結果的に心も許してしまったのだ。
「俺も何で流されちまうのやら…。」
濡れた指で鏡の自分の頬に触れる。
すると雫が垂れ、鏡の中で泣いているように見えた。
実際、本当は泣いているのかもしれない。
高杉に依存する己に対してか、それとも高杉の気持ちの重さか。
そう思っていると、横から雫を拭う手が伸ばされた。
「また良いタイミングでいらっしゃる…。」
「放っておくと情緒不安定になる馬鹿に言われたくねェ。」
「やっぱ俺、病んでんのかな。」
「重症ならもっと悦くしてやるよ。」
「…痕ばっか付けやがって。」
「テメェが嬉しそうにするからだ。
俺の束縛がお前を安心させるんだろ。」
だったら尚更付けてやるよと、横から現れた高杉は、銀時に触れるでもなく通りすぎていく。
押しては引く、それがこの男のやり方。
その大きな背に銀時はつられて歩き出した。
(俺も、何で付いてってんだか…)
これでは高杉の思う壺ではないか。
でも今の俺にはそれが必要。
高杉にある程度縛られるのを、俺の体が求めている。
昔から束縛は嫌いと言っておきながら、高杉に縛られるのは良いと思えてしまうのは。
きっと高杉の『縛り』が『支え』になったからだろう。
天地の境も見えない生き方に、高杉との代わる代わるな関係は方向性が見出だせる。
“仲間”なら支えるし、“敵”なら刀を交える、“恋人”なら求め合い。
そして今、俺が欲しいのは。
「……………。」
「…銀時、」
「…んー。」
前を歩く高杉の背に抱き付いてみる。
このまま布団に戻るのは面白くない、なら少しぐらい高杉で遊んで困らせても良いだろう。
包むのも縛るのも放置するのも高杉次第。
さて、どうする。
「…クク、何年経ってもでけぇ猫だな。」
高杉はそう言って、銀時の頭をわしゃわしゃと撫でる。
それにつられた銀時は、顔を上げたついでに高杉の頬に唇を寄せてみた。
(これでいいんだよな…)
望めば望むほど、願えば願うほど、お互いを苦しめる。
皮肉なことに運命ってやつは俺らの希望通りには進まず、いつもいつも突っ掛かるばかり。
それをわかっていながら止まらなかつた。
俺らは、止められなかったのだ。
銀時の甘えを軽く受け流しながら、高杉は当たり前のように部屋に戻る。
胡座をかいて座る高杉に合わせて銀時も寝転がる。
仕掛けたわりにはあまり面白くない展開だったなと、銀時は肩を竦めた。
「俺を救済措置にするなんざ、なかなかに酔狂な奴だな。」
「…んだそれ、不満かよ。」
「会えねェからって手前を痛めつけるのはやめろ。
お前の悪い癖だ。」
「んー…。」
「そもそもはお前が俺についてこねぇのが悪い。
どちらかと言えば壊すのが好きだったろ。」
「そんな物騒なご趣味はありませんー。
俺はいつだって保守だからね、保守。
アタッカーじゃねぇの。」
「まぁ、俺の攻めを受け止めてるってことだな。」
「上手い具合にまとめんな、ばーか。」
高杉が煙管を出そうとした瞬間、銀時がそれを遮るように高杉に抱き付いた。
そして押し倒した状態で、銀時から深く口付ける。
煙管をしゃぶるなら俺とこうしてろ、と。
「嫉妬なんざ、可愛いもんだな。」
「…モヤモヤすんだよ。」
だから、俺に付き合って。
銀時はそう告げると、高杉と舌を絡ませて念入りに口付けをせがんだ。
不要な雑念は高杉に触れることで緩和させる。
感傷に浸ってたら頭がごちゃごちゃしてくるので、その度に愛という名の助けを求めた。
俺をわかってくれるのは高杉だけ。
そう思いながら、高杉に合わせて身も心も貪っていく。
(俺は、)
高杉を望んでも良いのか。
「んン……っ」
「っ…………。」
「ふ……、はぁ…はぁ…。」
「…なんだ、がっついた割には短ぇな。」
「もう…無理かも、」
「ならいっそ、全てを捨てればいい。」
「ぁ…、」
「なぁ、銀時。」
優しく低い高杉の声が耳に響く。
これは地獄のお誘いだなとわかっていながら、銀時は高杉の体に抱き付いた。
全てを捨てられるほど、俺らは自由に生きられない。
だが高杉との時間だけは、どんな運命であろうと誰にも邪魔はできない。
「高杉…。」
「抱き潰される覚悟はできたか。」
ニヤリと笑う高杉に、銀時は顔を上げて頬に手を添えた。
銀時が押し倒しているというのに、この男は頑なに主導権を渡さないらしい。
(どこまでも堕ちたもんだ…)
常に一緒に過ごしていた村塾。
もがきながら熱く求めた攘夷戦争。
拗らせながらも関係が切れなかった今。
本当に求めていたのは、どの『俺ら』だったのか。
そして釣った魚が悪かった。
何故ならこの男に関してだけ、周りが見えなくなり、俺の心は痩せて尖っていく。
「高杉だって、覚悟を決めとけよ。」
「……………。」
「俺は…目の前にある宝を誰かに分けられるほど、良い人間じゃねぇ。」
「……………。」
「高杉の全てを、誰にも渡さない。」
「ほう…。」
「誰かに渡すぐらいなら…。」
俺もお前も、全部ぶっ壊してやる。
銀時は高杉の唇に食らい付き、熱烈な口付けを繰り返した。
少しだけでも本音を言えた、その安心感から更に高杉への執着が重くなる。
お互いの言葉や体、味を知れば知るほど深みに嵌まっていく。
それでも、止まらないのだ。
「っ…ふ、ぁ……たかすぎ…っ」
「あァ…くれてやるよ、俺の全部。」
それでも止まらなくなったら、壊せばいい。
お前の気が済むまで、果敢無い夢に絆されてやるさ。
「止まらなくて、いい…?」
「無理に止めるな。
俺もお前も、それを望んだんだからな。」
「ぁ…っ」
「もっと欲しがれよ、銀時…。
お前は無欲に見えて貪欲なんだぜ。」
「んンっ」
「死ぬほど抱けば、死ぬ気も失せるだろ。」
「あ…ぁっ」
「俺を、壊してみろ。」
陽炎のように揺れている。
俺らの生命を今、重ねて。
答えを求め、
足掻いているStrangers
19,01/17
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