浅き夢





いつからだろう。
掛け違えた気持ち2つ。


まだ間に合う?
なんてね。










浅き夢










この男のどこが良かったのか。
そんなこと聞かれたら正直困る。

そもそも俺はノーマルな人間だったのに見事に男に落とされたのが始まり。
それを割り切っても、優しい男なんてたくさんいるし、世間でいう理想の相手も探せばいたはずなのに。
無理矢理で、強情で、意地っ張りで、俺の時間も気持ちも何もかも全てを奪っていきやがった。
なのに離れるとなると殊更愛しくなってしまう。
そんな奴を選んでしまったのだ。




「ん………ぅ…?」

ゆっくりと目蓋を開ける。
目を覚ませば、窓を開けて優雅に煙をくゆらす男がいた。

綺麗だなぁなんて思う反面、もうすぐ逢瀬も終わるとなると寂しくなった。




(月も綺麗だな…)

なんて言われたら、俺は死んでも良いなんて答えてしまうだろう。
それぐらい俺は高杉に惚れている。
けど叶うことなんてないとわかってる。

おぼろ月夜。
霧に霞むのは二人の日々。
いつかは一緒に暮らそうと言った昔の壊れそうな約束。




「銀時。」

「……………。」

「起きてんだろ。」

「っ………。」

高杉の視線を感じ、咄嗟に銀時は目を閉じた。
が、時既に遅し。
障子を閉め、ゆっくりと近付く足音に、睫毛が震える。




「俺の前で狸寝入りなんざ百年早ェんだよ。」

「…うっせ。」

ゆっくりと目を開ければ覆い被さってくる男の重み、そして整った顔。
減らず口はお互い様だが、その目はどこか愁いに満ちている。

銀時は高杉の頬に手を添え、お互いの感傷に触れてみた。
気持ち良くても後味が悪い。
心はこんなに求めているのに認められない。
叶わない恋なんてしない方が身のためなのだ。




(だけど俺は、)

お前の大切でありたくて。
今までずっと、背伸びをしながら追いかけてきた。




「高杉……。」

「何だ。」

「………死ぬなよ。」

「………………。」

「っ……別に、深い意味はねー…けど、」

遺産とか保険金とかそういうのが俺に回るよう処理してから死んでけバカヤロー。
心の中でそう言い訳しながらも口には出さない。
これでは「貴方のことが心配です」と言っているようなものではないか。




(馬鹿だなぁ…)

俺もお前も、意地だけで何もない。

すぐ近くにある高杉の胸板に頭を寄せて顔を隠す。
今、高杉の顔を見たら無理心中に誘われても喜んで受けてしまいそうだからだ。
窮地に立たされたらお互いに何を仕出かすかわからない。
すると、高杉の手が銀時の頭を撫で始めた。




「色事ごときでそんなに辛いか。」

「んだよその言い方…。」

「いつものテメェなら『お前なんざいらねぇ』って突き放すじゃねェか。」

「……………。」

「そこまで俺に墜ちてたなんざ、初耳だったな。」

言い方がいちいちムカつく。
せっかく俺が心配してんのに、こいつには響かない。




「俺の…片想いかよ。」

「いや、むしろ俺の片想いだと思ってた。」

ゆっくり顔が近づく気配。
それに合わせて銀時も顔を上げれば自然と唇は重なった。
しかし、潔く離れていった唇に、現実を見ろと告げられたような気がした。

片想い同士なら両想いになるって綺麗な世間一般の意見は当てにならない。




「くだらない恋愛で悩んでんなら生きることを楽しめよ、銀時。」

隔たりの多い恋愛と、壁の多い人生。
どちらも幸せに事を運べたら最高だろう。
しかし、それにはどれほどの時間がかかるのか、叶う前に生きている保障もない。
どちらかしか取れないと言うのであれば、人生を取れ。
と、高杉は言いたいらしい。




「………嫌。」

「ったく…。」

「俺なら、両方取るから。」

「駄々っ子が。
俺の人生に巻き込まれてェのか。」

「それが夫婦ってもんじゃねぇの。」

両想いの最終段階。
お互いの背負ってるものを一緒に分け合う、そんな夫婦になって幸せに暮らしたい。
男同士の俺らには似合わないかもしんないけど。
気持ちよく関係が続けられるなら、俺はそれが良い。

そう告げると、相変わらず甘いなと呆れられた。




(ここまできたんだ…)

何もできず、ここまできた。
なら未来の幸せぐらい信じて行動してみたって良いだろう。
今からでも遅くはないはず。
それらを経て、お互いが想いあえることができるなら、上等だ。




「諦めるぐらいなら…俺を信じろよ。」

「………………。」

「なぁ…高杉。」

背中に手をまわしてぎゅっと抱きつく。
この鼓動、感触、すべてが欲しいのに、思うように上手くいかない。
感傷に浸れば浸るほど抜け出せなくなりそうで、銀時はそっと目を閉じた。
それを察したのか、高杉から「それ以上は話すな」と止めてくれた。




「互いの事を想い合ったところで問題は解決しねェだろ。」

「………………。」

「俺はテメェみたいに、人を信じて事態がどうこうなるなんざ微塵にも思っちゃいねェ。」

「………………。」

「だが…今回は乗ってやるよ、その話。」

俺ごと幸せにできるもんならな。

高杉の言葉に心臓がとくんと高鳴る。
そして次第に鼓動は痛いくらい大きくなっていった。




(言ったなこんにゃろ…)

焚きつけられたように熱くなる鼓動。
それが嬉しくて、銀時は顔を上げて高杉の唇を奪った。
唇に吸い付いて卑猥な音を出せば高杉の手や足が絡まってきた。

互いの体温を分け合えば機嫌が良くなる。
火がついたように求める銀時に、高杉は寝返りを打って押し倒した。
舌が絡めば、タカが外れたのか、お互いに激しく求め合う。
この幸せな時間をこれからもずっと過ごしていきたい。
だから。





「ずっと…俺と、生きていて。」

銀時は目を合わせてそう呟く。
すると高杉はお互いの額を合わせてニヤリと笑った。




「テメェも…生意気に口説くようになったなァ。」

「ん…。」

「だが心配すんな。
死んで楽になろうなんざ思っちゃいねェよ。」

「…どうだか。」

「テメェがこの世にいる限り、な。」

ちゅ、と唇を合わせて顔を離す。
口説きを口説きで返された銀時は、顔を真っ赤に目を潤ませながら悔しそうに顔を歪めた。
それが男を煽るから止めろと、何度言っても学習しない。

高杉は銀時の脚を持ち、大きく広げた後孔に己の亀頭をすり付ける。
収縮する孔の口に亀頭がゆっくりと埋まっては外に出る。
はぁはぁと興奮して待っていた銀時は痺れを切らし、腰を揺らして入れて欲しいと呟いた。




「っぁ……この、確信犯。」

「互いにな。」

再び、体が絡まり合う。
銀時の熱い吐息を合図に、幾度となく貪り合う。
どれが愛で、どれが幸せなのかを理解するため。
結局のところ、まだまだ考えの青い俺らには、これでしかお互いをつなぎ止める方法がわからないのだ。





16,01/06
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