甘えたがり
※大学生×高校生パロ
落としても割れないプラスチックのお皿。
きっと私もこんな感じアル。
「………………。」
ドタドタとわざと大きな足音をたてながら神楽はキッチンに入る。
棚を開けて適当な鍋を選び、コンロの上に置いた。
そこにバターとサラダ油を入れる。
そして冷蔵庫からジャガイモや人参や玉葱などの野菜、肉、牛乳を出して机に並べた。
材料を見た神楽は、エプロンを付けてよしっと意気込み、支度を始める。
「根菜…から、と。」
野菜を洗って皮を剥き適当な大きさに切る。
そして熱で油がパチパチ音を立てる鍋の中に入れて炒めていく。
油の跳ねによって小刻みに動くジャガイモ。
別に困らせたいわけじゃない、野菜や肉を全て切って鍋に入れた神楽は、頬を膨らませながら小麦粉を用意した。
「……兄ちゃんの、ぶぁか。」
そう言って小麦粉を鍋の中にぶちまける。
話し合っても平行線。
だけど帰る家はここしかない。
だからいつものように、ご飯を作るため、兄と一時的に距離を置くために、キッチンへと逃げ込む。
喧嘩になればそれが普通なのだ。
その習慣は兄のご飯を作るようになってから。
理由はわからないけど、いつの間にか兄の胃袋を満たしたいと思い、毎日キッチンに立っていた。
そうすれば、外で食べずに真っ直ぐ家に帰ってくるから。
(困らせたいわけじゃない…のに)
だがしかし。
兄が大人になるにつれて、同窓会やら飲み会やらで家に帰るのが遅くなっていた。
それが不満で、つい兄に当たってしまった。
そして苛々した心で決めたのだ。
今日は自分の分だけ作ってやる、と。
「ぁ………。」
そうこうしているうちに、ざく切りの野菜と肉がいい色になっていく。
そこに牛乳とお湯とコンソメ、追加のバターを少し入れてちゃんと溶きながらかき混ぜた。
いつも兄の為に作る、その注いだ分の愛情だけ期待してしまう。
どこまでも子供っぽいのはわかってる。
でもたまには「美味しい」以外にも言葉も欲しいのだ。
「…………。」
ふわふわと上る湯気に、美味しそうな香りが立ちのぼる。
あとはじっくり煮込めば大丈夫だと思ってよく見たら、どう考えても1人分ではない事に気がついた。
確かに、自分の食欲なら食べれなくはないが、それにしたって鍋いっぱいに作ることはなかっただろう。
(やっちまったアル…)
ふぅとため息を吐いた神楽は、お皿を準備しようと振り返る。
と、すぐそこに笑顔の神威が立っていた。
「……何アルか。」
「今日はシチューかなって。」
「っ…兄ちゃん分は、」
「うん、ありがと。
俺もそんな気分だった。」
不機嫌オーラを出しても流されてしまう。
それどころか、正面から優しく抱き締められてしまった。
そして髪を指で梳かれる。
私はこれに弱い。
(兄ちゃんの…ぶぁか)
水で冷め切った手に神威の手が添えられる。
そこからじんわりと伝わる兄の温もり。
顔を合わせられず、胸板に顔を埋めれば、後ろの方でカチカチと音がした。
どうやら神威がコンロの火を弱くしたようだ。
あとは様子を見つつじっくり煮るだけ。
それは人間も同じなのか、抵抗しない妹を伺いつつ、頬や額に唇を落としてゆっくり愛してくれる。
それだけなのに体が熱を持つのだから、良いように煮詰められたなと、神楽は内心ため息を吐いた。
(…本当に)
兄ちゃんの………。
「…め……い。」
「ん?」
「…ごめ……な…さい。」
「…うん。」
よくできました、と軽く唇が重なる。
それが恥ずかしくて神威にぎゅうぎゅうと抱きついた。
悔しい、けど嬉しい。
本音は鍋の中の野菜たちみたいに寄り添っていたいだけ。
…なんて、もう知ってると思うけど。
「あ、じゃあさ。」
「?」
「今晩のシチュー、神楽が食べさせてよ。」
「え…っ」
「ほら、新婚さんであるでしょ。
『あーん』とかってヤツ。」
「…給仕のオプションなんて無いアル。」
「いいじゃん、たまには。」
「……………。」
「ね、お願い。」
「………っ」
首を傾げながら困ったような笑顔で頼む。
これにも、私は弱い。
(だめアルな…)
さっきまであんなに不機嫌だったのに。
一人分だって、言い張ってたのに。
今回は食卓の給仕が神威なりの仲直りの仕方、らしい。
神楽は照れながらも「わかったヨ」と返事をして、神威の胸板に擦り寄った。
すると神威が顔をのぞき込んできて、いつものにっこり顔で告げる。
「ありがとね、神楽。」
いつもご飯作って待っててくれて。
ありがとう。
その言葉で、何もかもを許してしまう。
結局、私は兄ちゃんに甘えてばかりなのだ。
甘えたがり
15,12/29
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