突然なアイツ







突然の来訪があった。
正月の三が日をぐうたら過ごして、さてこれから仕事を探すかと玄関開けたら見覚えのある顔が立っていた。




「やっ」

「……………。」

玄関を開けた新八はその場で固まってしまう。
どうしたらいいのかと悩む反面、やはり神楽と顔がそっくりだなぁと思っていると、相手は新八を押しのけてズカズカと万事屋に入ってきた。
招かれざる客は米俵を2つ持っており、それらを振り回しながら乱暴に居間の扉を開ける。

その瞬間、和やかな空気に亀裂が走った。
ソファーでくつろいでいた神楽は目を丸くし、いつもの回転椅子に座っていた銀時は面倒だなとため息を吐く。




「兄ちゃ………っ神威!」

「わざわざ言い直さなくても良いじゃん。
お邪魔しまーす。」

「いやお兄さんね、もうお邪魔してるからね。
しかも客とは思えない図々しさだからね。」

「ッッ何しに来たアルか!
こちとら朝飯が足りなくてイライラしてたネ!
お前を粗挽きウィンナーにして美味しく頂いてやるから有り難く思え馬鹿兄貴!!」

「ちょっと神楽ちゃん!!
それに銀さんも、こんなところで喧嘩は売らないでって!」

「いやぁそれは奇遇だね。
こっちもお腹が空いちゃって、だからとりあえずお裾分け持ってきたよ。」

ひょいっと投げた米俵がテーブルの上に落ちる。
そして重さに耐えきれなかった机は潰れた。




「俺からのお年玉。」

いつものニコニコ顔でそう告げる。
それに驚いた万事屋一同は、数秒固まった後、一斉に神威に頭を下げた。
否、神楽だけは銀時に無理矢理頭を下げられたのだが。




「いやぁさすがは大食い馬鹿娘のお兄さん!
新八、ふりかけと冷蔵庫にあるもん全部持ってこい!!
ってか俺が調理するわ!
めっちゃ気合い入れて料理するわ!!」

「年明けの買い物が済みましたね!
あっ銀さん僕も手伝います!」

米俵を抱えた銀時と新八がドタドタと料理場へ向かう。
そして居間の扉をピシャリと閉めた。

それについて行けなかった神楽は、ソファーに座ったままポカンとしている。
その隣に神威は腰掛けた。




「………………。」

「………………。」

二人きりの空間に少しだけ気まずくなる。
チラチラと横の兄の顔を伺うと、料理が気になるのか上機嫌だった。

そして視線に気付いた神威が振り向くと、思わず目を逸らしてまう。
別に後ろめたいことはない。
神威の気まぐれなんていつものこと。
しかし神楽はだんだん自分の身なりを気にし始めていた。




(やっぱり…馬鹿兄貴アル)

突然現れて突然二人きりになって…どうすればいいのかわからない。
髪も適当にまとめちゃったし、連続で着続けているいつもの格好。
女の子には準備が必要ネ。
なのにコイツは、




「神楽。」

「…何アルか。」

「髪、結んであげようか。」

「え……。」

「だって気になるんでしょ?
ココ、こんがらがってる。」

兄の言葉に、神楽は目を丸くする。
一方の神威は神楽の髪飾りを外して髪を下ろした。
そして指で梳きながら丁寧に整えていく。




「ずいぶん伸びたねー。
俺と同じぐらいまで伸ばす?」

よほど機嫌がいいらしい。
神威は神楽に話しかけながら髪を二つに分けて三つ編みをしていく。

一方の神楽はされるがまま、兄の好きなようにさせていた。




「勝手に伸びただけアル。」

「じゃあもっと伸ばしなよ。
神楽は髪を伸ばしても似合うと思うよ。」

「さっきから…ババアみたいな発言アルよ。」

「思ったことを素直に言っただけだよ。」

「…考えておくネ。」

「はい、完成。」

神威に背中を叩かれて自分の髪に触れてみる。
するとそこには綺麗に整ったおさげができていた。




「んーと、じゃぁ…。
髪を伸ばして三つ編みがちゃんとできるようになったら、今度はもっと凄いお土産を持ってくるよ。」

“ちゃんとできるようになったら”
その発言に神楽はカチンときた。
何だか三つ編みができないことを馬鹿にされたようで、幼い闘争心に火が点いたのだ。

神楽はバッと振り向くと、ソファーに座る兄に跨がった。
そして神威の三つ編みを止めているゴムを取って乱暴に解いていく。




「どうしたの?」

「…黙ってるアル。」

私だって三つ編みくらい。
そう呟いて兄の髪を持って三つ編みをしていく。
しかし完成したのは途中途中で毛先が飛び出るような雑なものだった。
まぁこうなるとは自分でも思っていたが。
神楽は納得できないのか、神威の三つ編みを無意識のうちに指先で遊ぶ。




(まったく…)

三つ編みができてもムスッとしている。
そんな妹をどうしたものか。

神威はやれやれと思いながら神楽の背中に手を添えた。
そして前へ倒れるよう自分の方へ軽く押してみる。
すると神楽は簡単に自分の胸へ納まった。




「………………。」

「神楽。」

「ぅー………。」

「そんな耳元で唸らないでよ。」

「だって…上手くできなかったネ。」

「やってれば慣れるって。
とりあえず今は朝御飯食べよ。」

「ンー…。」

「…神楽?」

名前を呼ぶ声に、神楽は神威の肩をぎゅっと握る。
しばらくこのままでいたい。
声には出さないが神楽はそう思ってしまった。

だが、その前に。



「兄ちゃん…。」

「ん?」

「あけおめアル…。」

「うん。」








(今年も初っぱなからこんな感じアルか)




15,01/07
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